五
「探偵などその道のプロに調査を依頼されてはいかがでしょうか」
綾乃への同情心はある。だからこそのアドバイスだった。牧師は悩みを聞いたり救いの道を説けても、男女間のトラブルを解くことはできない。ましてや素行調査となれば素人がおいそれとできることではなかった。
「実は、もう調査してもらいました」
綾乃はバッグからファイリングされた書類を取り出した。木下直也の素行調査の報告書だった。ちょうど二週間分。結婚式直後に依頼している。ずいぶんと迅速な対応だと思っていたら、依頼したのは綾乃ではなく友人だったらしい。
「そもそも、その友人がきっかけで彼と知り合ったので、責任を感じてしまっているようなんです」
本人が答えないから強硬手段に出たというわけか。
朝の出勤から帰宅まで、木下直也の行動が事細かく記載されていた。見覚えのない探偵会社だったが、仕事はしっかりやったと見受けられる。ざっと目を通したが、特に不審な点もなかった。
「しかし、プロの探偵が調べても何も出なかったのでしたら、素人の私がしゃしゃり出たところでお力になれるとは思えませんが」
「ご謙遜を」
綾乃は居住まいを正した。
「的場牧師のお噂はかねがね伺っております」
期待に目を輝かせる綾乃に、望は内心ため息をついた。あんたもか。続く言葉も予想の範疇。
「式場でお名前を伺った時から気になっていたのですが、的場信二牧師のお孫さんですよね? 深美教会人質篭城事件を解決した、あの的場先生の」
「ええ、まあ、祖父のことですから」
「望先生もお祖父様に勝るとも劣らない『名探偵』と伺っております」
そこまで知っているのね。続くであろう台詞までもが予測できた望は頭を抱えたくなった。やめて。そこで止めて。黒歴史を掘り起こさないで。
願いも虚しく綾乃は嬉々として言った。
「学生でありながら、新幹線ジャック事件や時計台殺人事件など多数の難事件を解決に導かれたとか」
望はテーブルに突っ伏した。両手で耳を塞ぐ。が、目の前の綾乃は悪意もなくトドメを刺した。
「神が遣わした名探偵ーー『使徒探偵』と呼ばれてましたよね?」
無邪気な顔で中二病な二つ名を呼び起こす。できれば永遠に葬っておきたかった名だ。
「私の記憶違いでしたか?」
「……いいえ」望は鈍痛のする頭を上げた「私のことです。おそらく」