表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
清くも正しくも美しくもない  作者: 東方博
三話 タラントの行方
45/146

十一

「待って」

 店を出ようとした背中に、澄香は声を掛けた。並んでいた二人が同時に振り返る。

「何か?」

「教えて」

 澄香は望の腕を掴んだ。

「あの大量落書きの犯人は誰? 知っているんでしょう?」

 望は周囲をはばかりつつ、小さな声で告げた。

「最初の一人は、君の知っての通りだよ」

 やっぱり知っていた。澄香は愕然とした。

 澄香の教室机と椅子に嫌がらせをした犯人は見つからず仕舞い。いくら校内の生徒を当たっても特定には至らなかった。

 当たり前だ。犯人は調査が始まった時には校外にいたのだから。

「……どうして」

「君は休んでいたから知らなかっただろうけど、落書き事件は自作自演だったのではないかという説が浮上してね。それを快く思わなかったどこかの誰かさんが、一件目をカモフラージュするために盛大な落書き事件を起こしたってわけさ」

「誰がそんなことを」

 望は澄香のポケットを指差した。反射的にポケットの中に突っ込んだ指先に紙の感触。先程望から渡された連絡先だ。

「君の状況に勝手に同情して勝手に心を痛めた、ありがた迷惑な奴。放っておけなかったようだよ。自分と重ねてしまったんだろうな」

 最初は、掲示板に貼られた各部活動の新部長の一覧だった。

 美術部の部長だった澄香の名前だけ黒く塗り潰されていた。次は体育の時、ペアを組んでくれる子がいなくなった。挨拶をしても返してくれることがなくなった。

 気づいた時には、誰も澄香の机や椅子はもちろん、筆記用具など澄香のものには一切触らなくなった。まるで、ばい菌のように。

 弘美の言う通りだ。机の上に落書きなんて一目でいじめとわかることなんて、高校生はしない。先生に問い詰められても言い逃れできるような、姑息で巧妙な手を使う。

 一つ一つは大したことではなかった。気のせいだと流すこともできた。

 でも、少しずつ積もった痛みは心を蝕んでいった。どうして自分なのか、いくら考えてもわからないことが余計に辛かった。

 クラスメイトに問い詰めても「気のせいでしょ」「気づかなかっただけ」と笑われるのは目に見えていた。証拠は何もない。

 だから――絶対に言い逃れできない、誰が見ても「いじめ」とわかる嫌がらせを自分の机と椅子に施した。親に訴えても信じてもらえない。修学旅行には行きたくなかった。澄香には他に方法はなかったのだ。

「その高価そうな鞄も素敵だけど、ウチの姉は君がノートに描く落書きが可愛くてとても好きだった。だから一目でわかったみたいだよ」

 筆跡。まさか二文字でバレるとは思わなかった。

「気が向いたらメール送ってやってよ」

 苦笑を滲ませてお願いする望は、妹と言うより、妹を慈しむ姉のようだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ