七
同窓会に限らず、女子が集まる飲み会は自分の優位性を確認し、見せつけ合う場である。
案内状をもらった時点で、岡部澄香の中では戦闘開始のゴングが鳴っていた。
旧友との親交を深めるとか、恩師への挨拶だのは建前に過ぎない。当時はほぼ横並びだった連中が各大学や専門学校に進み、そして社会に進出して早三年。個人で経験に差が付き、いわゆる「格付け」が明確になってくる頃だ。
それゆえに、自分に自信のない女子は最初から同窓会には出席しない。みじめな自分をさらけ出す屈辱に耐えられないからだ。
(でも、私は違う)
自分には胸を張って誇れる現状がある。澄香はそう思い込んでいた。
有名私大卒業後に澄香はフジサワフーズに入社した。一部上場の優良企業。TVCMを流していることもあり、世間の知名度、信頼度も高ければ業績も安定している大手の食品会社だ。
あいにく澄香自身は、入社してまだ四年目なので、プロジェクトを任せられるような立場ではない。しかし事務として真面目に勤めていれば、女性の躍進が叫ばれているこのご時世、脚光を浴びる機会は必ず巡ってくるだろう。
同窓会の場に到着し、しばらく旧クラスメイト達と談笑している間も、澄香の考えは変わっていなかった。
学級委員長だった前橋智子は国立大学卒業後、念願の教職に就いたものの、長時間労働とモンスターペアレントなどの職場ストレスで体調を崩し退職。バレー部のキャプテンだった佐藤弘美は就活に失敗し契約社員として会社勤めをしているとか。
もちろん、正社員として働いている者だっている。パティシエを目指して修行中の者もいる。しかし、総合で考えるとやはり澄香に及ぶ者はほとんどいなかった。
「ねーねー澄香のそれ、シャネルの新作バッグだよね?」
「彼氏から?」
「ないない。自分で買ったの」
「すごおい! やっぱ高給取りは違うねえ。いいなー」
それは当然だ。自営業や零細企業の事務員とは稼いでいる額が違う。口には出さずに澄香はハイボールに口をつけた。
さりげなく周囲を見渡す。高校生時はクラスの中心にいた女子も今では見る影もない。社会に出るということはそういうことなのだ。少しくらい頭がよくても、顔がよくても、学校という狭い世界でいくら一番だったとして意味がない。いい気味だ。
「あの人、誰だっけ?」
大宴会部屋の隅でポテトをひたすら齧っている女が目についた。同窓会の場にそぐわない黒のパンツスーツ。奔放に跳ねるショートヘアが特徴的だった。
「やだ忘れたの? 的場姉妹よ。妹の方」
「姉は大学中退して、引きこもっているんだってさ」
「えー! よく同窓会に来られるねー」
アルコールの力もあってか、澄香達はけらけらと笑う。そうとも知らずに的場(妹)はワインを舐めていた。
澄香は思い出した。的場望。いつもべったりくっついていて、まるで双子のような姉妹。特に妹の望は騒動引き寄せ体質と言うべきか、とにかく話題には事欠かない子だった。
望が図書委員になった途端、蔵書が一斉に紛失する事件が起きた。結局犯人は不明だが、数日後に望が蔵書を見つけ出して解決した。
他にも、期末試験問題の盗難やら、合唱コンクールではピアノ伴奏者が行方不明になり、修学旅行先では殺人事件が起き、帰りの新幹線がジャックされた――等々、数えきれない。その全てを解決した望は、名探偵もとい『迷惑探偵』と陰で呼ばれていた。