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清くも正しくも美しくもない  作者: 東方博
三話 タラントの行方
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 教会宛の郵便物チェック。ほとんどが集会のお知らせだが、遠方に引っ越した教会員からの手紙が来ていたので目を通しておく。返事を送って、手紙は掲示板に貼っておこう。ついでに掲示板にある集会の案内を確認しては、掲載期限が過ぎているものを剥がしておく。

 背後で階段を降りる足音が聞こえた。

「手紙と伝言は希さんにお渡ししました」

「それはどうも」

 会話終了。しかし尊は立ち去ろうとしない。不要なチラシをゴミ箱に捨てたり、受付テーブルを拭く望を黙って眺めていた。

「何か用?」

 希が余計なことを言ったのかもしれない。物言いたげな視線に望は早々に観念した。

「希さんは優しい方ですね。君のことをとても心配されています。誰かを責めることもなく、一人で抱え込んでいる」

「知ってるよ」

 自分とは違って、希は優しい。だからタラント〈異能〉にも思い悩み、誰とも関わらない生き方を選んだ。そんな姉と比べたら、引き寄せた事件をしたり顔で謎解く望は、さぞかし太々しく尊の目には映るだろう。

 希と望とではタラント〈異能〉に対する真剣味が違うのだ。

「わかりきったことを言う前に、さっきのことで何か私に言うことがあるんじゃないかな」

「悪いとは思っていませんから」澄ました顔で尊は言った「口先だけの謝罪はしない主義です。君だってそんなものを求めていないでしょう?」

「そうだね」

 今に始まったことではなかった。兄の信一にとって重要なのは、希だけ。守るべきは希だけ。他はどうでもいいのだ。母も、父も――妹でさえも。いちいち取り合っていたらキリがない。たしかに先ほどの自分は感情的になっていた。

「信一さんも牧師なのですか?」

「いいや」

 兄はなれなかったのだ。

「そのつもりだったらしいけどね。神学校を中退して、なんか独自の宗教を開いた」

 宗派名は不明。人数もよくわからない。数十人はくだらないと思うが、教義も主義も全てが謎に包まれている。とりあえず、信一が一番偉いということだけは理解した。

 信一に心酔している信徒が『お使い』にやってくるのは今日が初めてではない。事あるごとに使いを寄こしては希と接触を図ろうとするのだ。あの妹(希限定)馬鹿の兄は。

「それはまたずいぶんと……」

 尊の言わんとしていることはわかる。兄は新興宗教の教祖、姉は引きこもり、妹は名探偵気取りの事件量産牧師の異能三兄妹。どこから突っ込めばいいのかわからない。

「さっきの事だけど、否定はしないよ。あんたに言われるまでもなく、私が勝手に首を突っ込んで事を荒立ててる。なにしろ」

 望は意図して嗤った。感情や衝動ではなく、意志を持って挑発的に。

「すべての謎は、私に解かれるためにやってくるわけですから。相手してやらないと」

「素晴らしい傲岸不遜さです」

「どうも」

「よくもそんな横柄な態度で聖職者を務められますね」

 神学校入学試験の面接で落とされそうになったことを望は思い出した。その点に関しては、祖父の名声に感謝しなければなるまい。

「余計なお世話だよ」


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