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清くも正しくも美しくもない  作者: 東方博
二話 ヤコブの羨望
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(あの子、ああいう娘だっけ?)

 ちょっと見ないうちにずいぶんとおしゃべりになった。子供のような無邪気さを見せたかと思えば、大人じみた苦笑いを浮かべたり、毅然とした態度を見せる。ただ、そのアンバランスさが、望には哀しかった。

 穂紗奈が去った後も望は喫茶店内にいた。紅茶のお代わりを注文し、アイディアノートをめくる。渡辺穂紗奈と森花音。性格も境遇もまるで違う二人が何故交換ノートをしていたのかがいまだに謎だった。穂紗奈の口ぶりからして『王者』シリーズを譲ったのは単なる善意でもなさそうだ。

 望はアイディアノートを閉じた。無意識に表紙をなぞっていた指を止める。渡辺ほさな。

(待てよ)

 スマホを取り出し、姉にメッセージを送信。すぐさま了承の返事が返ってきた。二人目の待ち人がやってきたのは、ちょうどその時だった。

「お呼び立てして申し訳ございません」

 KANNOの担当編集者、加藤仁だ。いつもと変わらずスーツ姿だった。

「とんでもない。ありがとうございました」

 ウェイトレスにコーヒーを頼んで席に着いてすぐ、加藤は頭を下げた。その視線の先には望の手元にあるアイディアノート。

「いいえ、結局大してお力にはなれませんでした」

「十分です」

 顔を上げた加藤は微笑んでいた。

「的場さんがいらっしゃらなければ、渡辺さんは会ってもいただけなかったでしょう」

 違和感が頭を擡げた。説得に失敗したというのに、落胆の色が全くうかがえないのだ。大して期待していなかったのとは違う。これではまるで、自分の思い通りに事が運んだみたいではないか。

 何故、と思った途端、望の中に抑えがたい衝動がわき起こった。駄目だ。止めようとする理性をたやすく呑み込み、それは発動した。突然の加藤の訪問。試すかのような穂紗奈の態度。頑として表に出ようとしない花音。パズルのピースが合わさり、完成図を描く。

「穂紗奈さんと接触することが目的だったんですね」

 言葉が衝いて出た。

「いきなり何を」

「担当編集者ならゴーストライターのことはすぐに気づいたはず。それでも『王者』シリーズの原稿があがってくる間は良かった。いくらで買っていたのかは知りませんが、KANNOの代表作と呼ばしめ、映画化の話まで出ているくらいだから十分、元は取れていたのでしょう」

 しかし、映画化を目前にして『王者』が途切れた。穂紗奈と連絡も取れなくなった。

「もともと穂紗奈の連絡先は花音しか知らなかった。だからあんたは、今回のことを機に自分と穂紗奈が直接つながるようにしたかった」


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