十四
イースターになったので番外編消しました。
神楽教会は牧師がいないながらも人数は比較的多い。平均礼拝出席者は三十人弱。今日は久しぶりに牧師の説教が聴けるとのことで、いつもより少し多くて四十二名の出席者ーー望が牧会している武蔵浦和教会の礼拝出席者と同じくらいだ。
とはいえ、礼拝の式次第も違う教会での説教は普段よりも気をつかう。一連の仕事を終えて通された客間で望は人の目がないのをいいことに椅子にどっかりと腰を下ろした。我慢していた欠伸を一つ。
睡眠薬のせいか寝不足のせいか、とにかく眠い。危うく礼拝中に寝るところだった。望は胸中で悪態をついた。
(色情狂いの変態一家め)
このご時世、同性愛で騒ぐつもりはない。尊の異能なのだから仕方ない部分もあるかもしれない。想いを寄せるのは結構。しかし、だ。嫌がる実の弟を実家に無理やり呼び寄せたり入浴中を盗撮したり邪魔者に睡眠薬を盛って拘束道具片手に夜這いをするとはどういうことだ。
そして、それら犯罪の被害者である尊の小慣れた様子がどうにも解せない。
(なんか……大人し過ぎない?)
椅子の背もたれに寄りかかり、望は天井を仰いだ。
尊は本人が宣言しているように『目には目を。歯には歯を』主義だ。異能によって人生を狂わされているが故に、異能を使うことを全く躊躇しない。家族であるとはいえ、強姦しようとしてきた相手に対して、何一つ報復措置をとらないのは不自然だ。
手を出せない理由があるのか、それとも何か企んでいるのか。判断するには情報が少な過ぎた。
「お疲れ様」
ああどうも。そちらこそお疲れ様。
「出張伝道も大変だね。余計なことに首を突っ込んでいる暇はないんじゃないかな」
大きなお世話だ。背後からの忠告に応えようとして、望は声がすることの不自然さにようやく気づいた。
「いつから神楽教会の会員になった?」
「あいにく破門されているよ」
気負いもなく告げる言葉の一つ一つに魅せられそうになる。それが兄、的場信一のタラント<異能>だ。暴力的なまでのカリスマ性で老若男女問わずあらゆる人を従わせる。
「そうだったね」
望は脳内で羊を数え始めた。兄に魅了されるくらいなら他人様の教会で眠りこける醜態を晒した方が何倍もマシだ。
「ちょっと用事があって札幌に行っていたんだ。そしたら君が例の『彼』と旭川にいるときた。どういう風の吹き回しかと気になってね」
気になった程度で行ける距離ではないと思ったが、望は黙っておいた。
「それはそれはお暇なことで」
「暇ではないけど気になるよ。君が希を放置してまで、ここに来た理由ーー『彼』に頼まれたから、だけじゃないんだろう?」
望は目を閉じた。今すぐ寝てしまいたかった。兄に何もかも話してしまう前に。