三
迎えた望と洋平のデート(を邪魔する)日。
集合場所にたどり着けない洋平を、迷子の保護者よろしく望が探すことから始まったものの、ほぼ予定通りに二人はスカイツリーにたどり着いた。パンフレットを見つつ望が洋平をリードしてお目当てのソラマチをまわるーーその一部始終を希はスマホで把握した。
「お前が心配する気持ちはわからなくもない」
傍らの三杉印真抜恵流は手にしたパンフレットを握りしめた。シャツに短パンはまだいいとして、帽子にサングラスは明らかに不審者だ。たとえここが観光客の多いスカイツリーだとしても。
「けど俺を巻き込むな!」
道行く人々の視線から逃げるようにして、希は三杉を非常口の方へ連れて行った。
「のんちゃんが北海道に連れて行かれてもいいの?」
「いや、それは的場が決めることだろ。俺が止めたって耳を貸すような奴じゃないし」
三杉はめんどくさそうに頭をかいた。
「妹離れしろよ。それか北海道についていくとか」
「三杉さんはそれでいいの? 同期がいなくなるのよ」
「おー、せいせいするわ」
「応援説教もできなくなるのよ」
「うぐっ!」
三杉はひしゃげた声をあげた。そこまで思い至っていなかったようだ。
「牧師会の幹事は三杉さん一人。中会の雑務やめんどくさい委員会も全部三杉さん一人。仕方ないわよね? 東京中会の若手牧師が一人になるんだから」
ここぞとばかりに希はたたみかけた。
「休む時は代わりに説教する牧師を探さなくてはいけないわ。引退教師や近辺の牧師に頼むとしても、どなたにするの? 厳しい野本牧師? 古河教会の大池牧師? 神学校校長の設楽牧師? 三杉さんが病気ならばまだしも、コミケやイベントに参加するために、スズメの涙ほどの謝礼で代わりに説教を引き受けてくださるかしら?」
今までは望が同期のよしみと少しの割り増し謝礼で説教を引き受けていた。武蔵浦和教会には、教師試補でこそないものの神学校を卒業した敬虔な信徒がいるので、望の代わりに説教ができるのだ。しかし、三杉が牧会している峰崎教会には、そんなレアな教会員はいない。
「くっ……何故だ。何故俺のとこには説教できる人がいないんだ⁉︎ 的場のとこばっか……不公平だ!」
「ま、まあ、ウチはかなり珍しい教会だとは思うけど」
教会員の数、質、教会の財力と体力、土地柄、近隣のミッション系学校数などなど、様々な恵まれた要素があるからこそ、武蔵浦和教会は最年少牧師である望を招聘することができたのだ。多少未熟な牧師でも育てるだけの環境が整っているから。
曲がりなりにも三年近く望は武蔵浦和教会で育てられてきた。そんな、可愛い我が子のような牧師を教会員達がみすみす手放すとは考えられないーーが、結婚となれば話は別だ。
よほど素行の悪い牧師ならばまだしも、牧師同士の結婚を表立って反対できる者はいないだろう。おまけに洋平は牧師としての評判はかなりいい。豊富な知識に裏付けされた明快かつ確信に満ちた説教は、洋平よりも歳上の、年配の信徒でさえ感服するという。同期三人の中では一番優秀な牧師と認識されている。
望の幸せのためならば、と快く送り出す可能性も十分にあった。これはまずい。大変よろしくない。
武蔵浦和教会は反対してくれない。期待していた尊の妨害もないーーとなれば、希が断固阻止するしかないのだ。
「私達の利害は一致しているはずよ。協力しましょう」
「なんか納得いかねぇんだけど」
首をひねる三杉を置いて、希はスマホで望の現在位置を確認した。
「私の読み通りだわ。二人はソラマチに向かっている。そのまま水族館に行くつもりなのよ」
「……なあ、なんでナチュラルに的場の位置情報を取得してんだ?」
「急ぎましょう!」
希は猛然とエレベーターに乗り込んだ。
明日は「白雪姫と七人の継母」を更新……する予定です。