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清くも正しくも美しくもない  作者: 東方博
一話 デリラの魔性
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十二

 ものすごくあっさりと言われたことが、とんでもないことのような気がした。

「からだ?」

 間の抜けた声をあげる望に、永野はまるで頓着するふうもなかった。

「はい。身体です」

「相性というのは、つまり」

「ここで口にするのは、はばかれることです」

「誰が?」

「木下直也さん」

「…………だ、誰と?」

 永野は右手の人差し指を唇の前に立てた。妙に気障な仕草はしかし、秘密めいていて蠱惑的だった。

 望は椅子から転げ落ちそうになった。

「今時珍しいことでもないでしょう?」

「まあ、それは、そうではあります、が」

 予想だにしなかった方向からパンチを喰らった。

「でも、相手は『ミコ』と呼ばれていたはず」

「実は私、下の名前が尊と申しまして」

 永野尊。ミコト。ミコ。なるほど辻つまは合う。

 直也がひた隠しにしていたのも頷ける。さすがに公衆の面前でカミングアウトするほどの勇気はなかったのだ。

「木下さんはその、そういう性癖をお持ちだった、のですか?」

「厳密に申し上げますと違います。彼はLGBTではありません。相手が私だから、そうならざるを得なかったのです」意味を含ませて微笑する「あなたと似たようなものですよーーいや、あなた方と言うべきでしょうね、的場牧師」

 尊の言わんとしていることを察して、望は目を瞬いた。

 家族以外で目の当たりにしたのはこれが初めて。しかし可能性としてはずっと頭の片隅にあった。前例が三つもあるのだから、四つ、五つ目があってもおかしくはない。

「深美教会人質籠城事件がもっとも有名ですが、あなたの祖父、的場信二牧師は数多の事件を解決した名探偵。孫であるあなたも幼い時から様々な事件を引き寄せては解決してきた」

 巻き込まれて、ではなく、引き寄せて。尊は正確に『的場』の血を理解していた。

「当時は未成年だったためほとんど公にはされていませんが、世間が把握しているだけでも新幹線ジャック、時計台殺人、銀行強盗の人質籠城」

 指折り数えて挙げる。忌まわしく輝かしい名探偵の功績を。

 修学旅行の帰り道、新幹線のハイジャックに遭遇した。家族で観光旅行に行けば殺人事件が、職場体験で訪問した銀行には強盗が襲撃した。

「そして今回の件。聞けば、本来司式を執り行うはずの牧師が自転車での通勤途中、坂道で転倒して怪我をしたから、たまたま現場に居合わせたあなたが代役を引き受けたと」

 たまたまが三回以上続くことを一般的には『仕組まれた』と言う。犯人も動機も手口も何一つ共通点のない連続事件。それは偶然ではなく必然だと祖父は言った。神の思し召しーー的場のタラント『資質』だと。

「あなた方と同じように、私も『引き寄せ』てしまうんですよ。ただ、私の場合は『事件』などという物騒なものでありませんが」

「男性?」

「私としては女性の方が嬉しかったのですけどね。致し方ありません」

 冗談めかして肯定。その実、苦労は相当なものだろう。

 あの資質は本人の意思などお構いなしに発動する。発動する周期や条件はおろか、いつ発動したのかすらわからないのだから余計にタチが悪い。

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