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清くも正しくも美しくもない  作者: 東方博
番外編 エッサイの末子
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主の招く声が聞こえてくる

相橋湊様リクエスト「同期三人組の神学生時代」です。わちゃわちゃします。とにかくわちゃわちゃします。ひたすらわちゃわちゃします。つまりストーリー性はまるでないグダグダ展開です。すみません調子に乗りました。


相橋湊様より存在感のある主人公のイラストを頂戴しております。人物紹介ページに掲載させていただいておりますので、ぜひご覧になってくださいませ。

 天堂牧人はいわゆるエリートだった。

 アメリカにある一流大学の神学部を首席で卒業。帰国後に進学した神学校もトップの成績で卒業し、二年間の牧会の後、一麦大学の教職に。若干二十八歳で准教授の地位を得たーー絵に描いたようなエリート牧師だった。

 そんなお偉い大学の准教授様が突然、吉田キリスト教神学校にやってきた。視察を兼ねての特別講義という名目だが、それをそのまま鵜呑みにするのは相当オメデタイ頭の持ち主である三杉印真抜恵流だけだ。

「何か思惑がある」

 工藤洋平は断言した。全く迷いのない口調だった。的場望は首を傾げた。

「何かって、何が?」

「誰のどういう思惑かはわからん。だが少なくとも我々の勉学の一助となるためだとは考えられん。天堂牧人といえば特別講演会を開けば一日で満席になる人気准教授だ。教えを請うのならば、我々が足を運ぶべき大物だ。都内ならばまだしも、こんな辺鄙な神学校にまで本人が赴く必要はない」

 洋平の言うことはもっともではあった。が、結局いくら考えても肝心の『思惑』は不明。ならば向こうの出方を見るしかない。

「隙を見せるなよ、的場。相手の目的を探らなければ、我々に勝利はない」

「いや。無理でしょ。相手は頭の出来が違うんだから」

 戦中さながらの警戒心を見せる洋平に望は呆れた。

 結果的に言えば、洋平の危惧は無意味だった。探るも何も初対面でーー神学校の講義室に現れた天堂牧人は、挨拶もそこそこに切り出したからだ。

「君達のことは設楽校長から聞いているよ」

 牧人は銀縁眼鏡のフレームを持ち上げた。

「史上稀に見る個性的かつ迷惑な神学生だと」

「心外だ」と椅子に座ったままで洋平。

「でもまあ仕方ないね」とその隣に座った望。

「「三杉がいるからな」」

 二人の意見は一致した。即座に抗議の声を上げたのは、諸悪の根源(と言われた)三杉だった。

「汚ねえ……俺に全ての罪を被せるつもりか!」

 無実を主張する被疑者に、望と洋平は顔を見合わせた。

「遠足先に秋葉原を選んだのは誰だっけ?」

「当初の予定では横浜の由緒ある教会を見学するはずだったが、貴様の妙な熱意に推されて変更した。貴様が『先進的な伝道方法がある』と言うから秋葉原にしたんだ」

「でもプロテスタント系列の教会一軒もなかったね」

「案内されたのは怪しげな地下劇場といかがわしい格好をした店員が給仕するカフェだった」

 二人分の冷たい眼差しを注がれた三杉は、喉を潰されたかのようなひしゃげた声で呻いた。

「で、でも、社会勉強になっただろ。世間知らずなお前らに俺が懇切丁寧に今の流行をだな、」

「あと二時間もおもちゃ屋の前で並んだよね?」

 洋平は頷いた。

「整理券を渡され、ピンクのおなごの模型を買わされたな。ところでその際に立て替えた購入代金九千五百四円の返済はいつだ」

「来月の仕送りまで待ってくれよ! プリティローズの限定版だぞ。発売日に買わずしていつ買うんだよ」

「永遠に買うな」

 すげなく切り捨ててから洋平は牧人に向き直った。

「連帯責任ということでしたら甘んじて罰は受ける所存です。この流行どころか一般常識すら欠如した、人格的に問題点しか見当たらない同期を二年以上放置した非はたしかに自分達にあります」

 洋平は席から立ち上がり、深々と頭を下げた。古式ゆかしき武人を彷彿させる、見事なまでの潔さだった。

「なんでさりげなく私まで巻き込まれてんの?」

「納得いかねえ。遠足の行き先は神学生が自由に決めていいはずだ……っ!」

 どこまでも往生際が悪いのは当の三杉だ。望は面倒になったので「もう三杉が責任取って一週間掃除当番でいいんじゃないですか?」と言い放った。

「よく言うわ。お前らだって先週、敷地内でこっそり花火やって怒られたばっかのくせに」

「はあ!?」

 流石に聞き捨てならない。望はいきり立った。

「あれはあんたがインスタ映えとかわけのわかんないこと言って、写メをネットにアップしたから設楽牧師にバレたんでしょう!」

「俺はちゃんと顔はわからないように加工したぞ。お前が調子に乗って大量の鼠花火を俺にけしかけたからだ。それで騒ぎを聞きつけた誰かが神学校に通報したに違いない。自分の過失を俺のせいにするとは……どこまでも卑怯な奴だな、同期として恥ずかしいぞ」

「あ、ん、た、が、神学校の看板が映り込んだ花火の写メを全世界に発信したからでしょうが!」

 三杉の胸ぐらを掴んで締め上げる望。傍で静観していた洋平はこれまた潔く告白した。

「線香花火の決着がつかなかったのが、自分としては不服でした」

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