恐るべきものはこの世になし
的場一家が東京の自宅に戻った頃には、事件は解決して茶の間を賑わせていた。
帰路の途中で事の顛末を知った両親は驚いて祖父に連絡するも「警察に任せておけば大丈夫ですよ」の一点張り。望達はまっすぐに帰宅することになった。
「お帰りなさい。早かったですね」
「こんなことがあるなんて……」
父は希を見やる。無意識の行動だったろうが、その視線は如実に事件と希の関係性を疑っていた。希は望の背中にひっついて動こうとしない。
「危害を加えられなくて何よりです。事件も解決しているそうではありませんか」
有力な情報提供があったため、隣町の強盗殺人犯は昼前に逮捕された。本物のペンションのオーナーも無事に救出。多少衰弱しているものの、命に別状はないとのことだった。不幸中の幸いと言える。『連中』は非常に残忍かつ狡猾な強盗殺人犯『グループ』だった。口封じのためならば躊躇いなく人も殺すような連中だ。
「全然気がつかなかったわ」
ニュースサイトでオーナーになりすましていた犯人の顔を確認した母が呟いた。
「当然さ。まさかオーナーが入れ替わっているなんて誰が想像できるっていうんだ」
「そうですね。難しいでしょう。しかし一つ苦言を呈するならば、ウインナーは豚ではなく羊の腸に肉を詰めたものです。一般の方ならばまだしも、畜産家が知らないのはおかしなことだと思うべきですね」
ぽかんと口を開けた父を尻目に、望はお土産を祖父に差し出した。
「おや、これが美味しいフランクフルトですか?」
「違うよ。牛の腸なんだって」
「ではボロニアソーセージですね。ありがとうございます」
祖父は膝をついて望と視線を合わせた。目をわずかに細めて微笑む。
「お疲れ様でした、小さな名探偵」
「え、これ、どういうことなの?」
スマホで強盗殺人事件の記事を読んでいた母が目を丸くした。犯人グループの一人の顔写真を指差す。細目の、どことなく狐を彷彿とさせる男だった。
「これ、今朝の刑事じゃない!」