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清くも正しくも美しくもない  作者: 東方博
番外編 ダビデの密会
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 弟の統ならばわかるが、鬼島天下は高校を卒業しているので正確には「元・教え子」だ。ならば特に問題はないのでは、と気づいた時既に望は浦和駅に到着していた。

『さあ、 早くデパートに行きましょう。今は二階の雑貨屋にいるそうよ』

 やたらと乗り気な希の剣幕に、今更指摘する気も失せる。とりあえず様子見だけでもしておこう。人との接触を避けている姉が珍しく積極性を見せていることだし。可能な限り前向きに捉えて、小脇に段ボールを抱えた望は駅のすぐそばにあるデパートに足を運んだ。二階の上りエスカレーターすぐそばにある雑貨屋に足を踏み入れて、周囲を見渡せばお目当の人物はすぐさま見つかった。

 ファンシーな小物を取り揃えた雑貨屋で、男性は非常に目立つ。おまけに鬼島天下は、弟の統に大変よく似ていた。正しくは、弟の統が兄の天下に似ている、と言うべきか。

 天下は隣にいる女性ーーおそらく交際相手だろう、に何事か話していた。どこをどう見てもその様は、彼女の買い物に嫌な顔ひとつしないで付き合っている彼氏だ。

「ほー」と思わず望は呟いた。想像していたよりもずっと天下が好青年に見えたからだ。

 彫りが深く、野性的な容貌だが、どことなく少年の名残があった。一度も染めたことがないであろう艶やかな黒髪。鋭い双眸。まず美男子と分類されるであろう青年だった。

 もっと近くで二人の様子を窺おうと奥に進もうとした望だったが、抱えていた段ボールがどうにも邪魔だった。仕方なく店内に入るのは諦めて、少し離れた所にある休憩スペースを陣取った。

 何はともあれまず報告。スマホを取り出し『いたよ』と入力して、望は天井を仰いだ。鬼島天下は女性と交際している。相手はもしかしたら高校時代の恩師かもしれない。仲睦まじく雑貨屋にいるーー


 だからなんだ。


 その一言に尽きた。

 不倫をしているわけでも援助交際しているわけでも人を殺しているわけでもない。ただ、普通に、お付き合いをしているだけ。一体何が問題なのだろう。そんなことよりも今は、ゴリアテを作ることの方が重要ではないか。

 美加子には気の毒だが、えてして子は親の希望通りには成長しないものである。親が交際に反対したって無意味だし逆効果だ。

(反対する理由もない)

 卒業しているのだから。

 考えれば考えるほど今この場にいる自分が間抜けに思えてきた。一体全体自分は何故段ボールを小脇に抱えて他人のデートを監視しているのだろうか。

「よし帰ろう」

 望は立ち上がった。ついでに近くで張っているであろう統を見つけ出し回収しておこう。

「こんにちは」

 おやまあ本人から話しかけてくれるとはちょうどいい。連れて帰ろう。望は段ボールを抱え直してーー固まった。

 声が、違う。

 似ている。が、違うーーとくれば、この状況で導き出される結論はたったひとつ。

「いつも母と弟がお世話になっております、的場先生」

 優等生のような模範的かつ丁寧な挨拶。いつの間にか目の前に立っていた鬼島天下は、余裕の笑みさえ浮かべていた。

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