四
翌日、望は駅前のデパートまで足を運んだ。統から色々聞き出したとはいえ、美加子の相談はさして深刻なものではないと望は判断した。二十歳を過ぎた青年が誰とお付き合いしようとそれは本人の責任だ。親が心配しても余計なお節介でしかない。
それよりもせっかくの休日。本格的な暑さを迎える前に夏服を調達する方が望にとっては重要だった。
八月の終わりに教会で行う「夏の集い」に向けて、準備も進めておきたい。今年は大男ゴリアテを倒したダビデ王がテーマだ。大きな紙に等身大ゴリアテを描いて、ゲームをする予定だった。ペンと模造紙を文具店で購入。細々とした消耗品もついでに買っておく。
希から連絡があったのは、スーパーから工作用の段ボールを三枚ほどもらった時だった。
『統くんからラインが来たの。お兄さんが女性と買い物しているんだって』
特ダネを入手したかのように力説されても、望には「ふーん」としか答えようがなかった。
『浦和駅すぐそばのデパートよ』
「へえ」
『デートよ、デート!』
「ほう」
いつから姉はゴシップ好きになったのだろう。昼のワイドショーの見過ぎか。
「行かないからね」
『え、なんで?』
「なんでと言われても……興味ないし、段ボール持ってるし」
『教会員姉弟より段ボールの方が大事な牧師なんて聞いたことがないわ』
「ないとゴリアテ作れないよ」
『ゴリアテよりも教会員でしょ!』
もっともらしく聞こえるが、他人の色恋沙汰に首を突っ込むほど牧師は暇ではない。ご厚意で譲り受けた段ボールだ。早く教会に持ち帰って等身大ゴリアテ製作に取り掛かりたい。
「子どもじゃあるまいし、放っておきなよ。あんまり過保護だと息子はグレるよ。うちの兄ちゃんみたいに」
『もう手遅れかもしれないわ』
通話を切り掛けた望の指が止まった。
「どういうこと?」
『お相手の女性が、統くんの知っている人だったの。学校の先生だって。お兄さんは統くんの通っている高校の卒業生ーーこの意味はわかるわよね?』
望は絶句した。しっかりと意味を理解してしまったからだ。
『教師と教え子が付き合っているのよ!』