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清くも正しくも美しくもない  作者: 東方博
番外編 ダビデの密会
104/146

白石様からのリクエスト番外編。

内容はネタバレになるので伏せます。

白石様からは当番外編には影も形もない『魔性』のための魔性なイラストを頂戴いたしました。ご興味のある方はぜひ登場人物紹介ページへどうぞ。

 美加子は華奢な外見に似合わず、精力的な女性だった。歳は四十を過ぎたばかり。

 三兄弟の母で、長男は去年国立の難関大学を合格。次男、三男共に同じ公立高校に通っている。たしか次男は今年大学受験を控えているはずだ。

 息子三人が小学生の頃は教会の日曜学校に引きずって来ていたのだが、長男が中学生になった頃から部活やら塾やらで疎遠になっているらしい。今では時折、クリスマスやイースターやペンテコステなどの特別礼拝の時に次男がふらりとやってくる程度。とはいえ、これは教会員姉弟によくあるパターンだ。親がなんとか子どもを連れて来れるのはせいぜい小学生ぐらいまで。クリスチャンとして信仰の道を歩むかは神のみぞ知る。その点、イベントの時だけでも教会に足を運ぶだけ、次男は見込みがある方だ。

 それはさておき、はたから見たら順風満帆な一家であるはずの美加子の様子が最近おかしい。

 物憂げなため息をついたり、かと思えば異様に明るく振る舞ったり、手入れを終えたばかりの花壇に除草剤を撒こうとしたり、礼拝後に振る舞うお茶を淹れる際に茶葉ではなくだしの素を入れたりと枚挙に暇がない。先週に至っては案内板の説教題を「信仰によって変とされる」と達筆な字で書き、一週間道行く人々の注目を集めたという珍事を起こした。

 彼女と仲の良い長老の丸屋恵子曰く「ショックを受けているようであり、期待しているようでもあり、不安に思っているようでもある」で、要するに落ち着かないのだ。

 さりげなく事情を聞きだす役を任された望だったーーが、そこはほれ「使徒探偵」だのと中二病丸出しな二つ名を持つ牧師である。さりげなくだのと器用な真似ができるはずもない。直球勝負で聞き出そうと玄関口の泥を水で落としている美加子の背に声をかけた。

「何でしょうか」

 当然ながら美加子は振り向いた。手にしていたホースの先と一緒に。

「ぐぎょわぁあああああっ!」

 汚れを落とすための高圧水流が直撃。望は悪役の断末魔のような悲鳴をあげた。

「す、すみません!」慌てて美加子は駆け寄る「大丈夫ですか⁉︎」

 手にホースを持ったままで。つまりは尻もちをついた望に水を浴びせながら。

 色々と言いたいことがあり過ぎる人間はかえって無言になることを、望は知った。知ったところでずぶ濡れになっているスーツもシャツも下着もどうにもならないが。

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