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お揃いの小指

作者: 柚子

激しい雨の音で目が覚めた。

ベッドから出て、カーテンを開けると、薄暗い空が広がって

いたが、時計を見ればもう10時・・・・

久しぶりの休みだと思って、気を抜いて寝すぎた。

朝ごはんにしても、昼ごはんにしても、お腹も時間も微妙。


「どうせ外には出ていけないし、久しぶりに掃除でもするか」


一人なのに声に出してしまったのは、そうでもしないと行動に

移すのが億劫になるから。

とりあえずコーヒーだけ飲んで、とりかかる。

しかし、いざ、始めてみたものの、掃除あるあるで、懐かしい

ものを見つけては手が止まり、また動き出しては止まり・・・・の繰り返し。

キリがないなーと思いながらも、ぼちぼちやってると、机の

奥の方で何かが光っていた。


「こ、れ・・・・・」


それは何年か前に付き合ってた人とのお揃いのピンキーリングだった。


「薬指には付けてあげれないからこれにしよう。」


そう言われて、割とシンプルなデザインのものを選んで買ってくれた。

薬指がダメな理由?向こうには奥さんがいた。これでお分かりでしょうか?

・・・・・はい、そうです、不倫です。


彼は、私より一回り上の当時37歳だった。

よくあるといっていいのかは分からないけど、取引先の人で色々

話している内にお互いが、ってので。

いけないことだと思ってたし、まさか自分がってのは今でも

思っているのだけれど、話が上手で、いつも笑顔で、何が

あっても任せられるような男らしい所と優しい所が大好きだった。

同じ会社じゃないのは寂しかったけど、結構便利なところもあって、

見かけられても「打ち合わせ」と言い逃れがしやすかった。

・・・・通じてたのかは謎なとこだけど。

その言い逃れが通るように、会う回数だって加減をしていたし、

デートはカフェが多かった。

たまに休日の休みが合う時は、遠くの方にドライブに連れて

行ってくれたし、何度かお泊りもした。

二番手に納得がいかず、困らせてしまうこともあった。


1年が過ぎた時、いつものようにカフェで一息ついた後、

行きたいところがあると言われ連れていかれた。

それが、ジュエリーショップで、例の言葉を言われ、買ってくれた。

寂しい思いさせてるからって。離れてても思ってるよって

伝えたかった、って。

思い返すと、都合の良いことばっかり。どうせ奥さんの元に帰る

くせに・・・・なんて思うけど、その時はすごく嬉しくて、泣きそうで、

その場で抱きついてしまいそうだった。

お揃いといっても、奥さんの前じゃ付けてなかっただろう。

だけど、私と会う時は必ず付けてくれていた。

それだけで満足といったら嘘にはなるけど、その気持ちだけで

少し救われていた。

リングに込められた意味のように、これから良い方向に向かって

いくんだ、って。

明るい未来が待っているかも知れない、って思ってた。


それからも何だかんだでズルズルいき、もう1年続いた。

そんなある日、約束の日じゃないのに呼び出された。

いい話じゃないことは、彼の無理やり作った笑顔と何もない

小指でわかった。

子供が出来たから別れてほしい、って。

そうじゃなくても、そろそろバレそうだったから、

良いタイミングだと思うんだって。

あー、結局その程度だったんだなー。奥さんに敵うこと

なんて一生ないんだなー。こんな簡単に捨てられちゃうんだもんなー。

でも、最後までこの笑顔が大好きだったなー。

そんなことを色々思ったけど・・・・・

ひっぱたいてやりたいくらいあっさりだったけど・・・・・


「わかった。幸せな家庭を作ってね」


にっこりそう言って、身を引いた。

そして、無のまま部屋に帰り、思いっきり床に指輪を投げつけて

そのまましばらく泣いた。

悔しいのか、悲しいのか、虚しいのか、何なのか分からなかったけど。

大好きになる人を間違えたんだ、そう思うことにした。


幸か不幸か、それから数日後、取引先の担当が変わった。

そして、私の配属先が変わった。

もう彼に繋がる接点は何もなくなった。

だから、いつの間にか忘れて、心の奥底にしまっていたんだ。


もう彼の顔はぼんやりとしか覚えていない。

向こうも私のことなんか忘れて幸せになっているだろうか。

・・・・いや、なっててもらわなくちゃ困る。

だって、私は・・・・・


「邪魔するよー」

「え、この雨の中来たの?」

「だって、休みでこの雨でって絶対どこも行かないし、どうせその

 様子じゃ朝ごはんも食べてないでしょ?」

「はい」

「僕がお昼作るからさ、一緒に食べよ」

「今、片付けしててっ、」

「じゃあ、とりあえず休憩してから、ね。手伝うから」

「うん、ありがとう。わざわざ」

「お礼言うなんて珍しい。」

「珍しいついでに、もひとついい?」

「ん?」

「大好き」

「ふふっ、僕もだよ」


この指輪のことは私の中だけの思い出にするんだ。

だって、私は幸せに向かって歩き出しているから。

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