6 少女と幼い娘
俺は平穏を取り戻したアンファングの街を一人ブラブラと歩いていた。
何か仕事を見つけようにも、チート無しの俺では出来る事は限られており、中々難しい気配だ。
「ぐすっ……ここどこ……」
そんな中、迷子らしき小さな女の子と遭遇する。
放っておけないと、思わず声を掛けてしまう。
「もしかして迷子になったのかな?」
「……うん。お母さんがいないの……」
すると、くりっとした蒼い目が特徴の可愛らしい幼女が、上目遣いで俺に縋りついてきた。
「よしよし、俺も探すのを手伝ってあげるから、ね?」
「ありがと……お父さん」
いや……俺は君のお父さんじゃないんだけどな。
訂正しようとするも、キラキラとした眼で見つめられてはどうにも気が引けてしまう。
「ねぇ、名前はなんていうんだい?」
「……リズ」
「そっか、良い名前だね」
「うん! お母さんがつけてくれたの!」
「良かったねぇ。ああそうだ、お腹すいてないかい?」
手持ちのお金はそれなりにあるので、ご飯をおごるくらいなら別になんて事はない。
何よりリズの酷くやせ細った姿をこれ以上見てはいられなかったのだ。
「……うん」
リズの纏う服は見るからにボロボロで、明らかに食うにも困っている状況だ。
『あらあら、ホクト君ったら随分とお優しいことで。もしかしてそんな小さな子が好みなのぉ?』
……うるさいぞ、このクソ女神。
「よし。お兄さんが買ってあげるから好きなだけ食べるといいよ」
「ホント……? わーい」
そうして露店で食べ物を買い漁りリズへと与えていく。
よほどお腹が空いていたのか、小さな身体からは想像もつかない勢いで次々と平らげていく。
『まるで餌付けだね』
「さっきからうるさいぞ! リンカ!」
「ふぇ!?」
「ああ、いや君の事じゃないんだよ。ごめんね」
突然大声を出してしまったせいで、びっくりさせてしまったリズを宥めていると、背後から声が聞こえて来る。
「リズ!」
「あ、お母さんだー」
どうやらこの少女がリズの母親のようだ。しかし見た感じ精々俺と同じくらいの年齢にしか見えない。母親としては少し若すぎるようにも思えるが、まあ昔は子供を産む年齢も早かったと聞くし、この世界の文明レベルを考えればそんなもんかなとも思える。
「すいません。食べ物まで頂いてしまったみたいで……」
恐縮しながらそう頭を下げる少女。娘以上にボロボロの服を纏っており、頬も痩せこけている。
そんな少女に対し俺の中でつい同情心が芽生えてしまう。
「あ、あのよろしければ、一緒に食事に付き合って貰えませんか? 一人で食べるのはなんかちょっと寂しくてですね。もちろんお代はこちらが持ちますよ」
俺の言葉に少女は驚き、それから曖昧に微笑む。
「……私なんかでよろしければ」
こうして俺は、少女とその娘の3人で近くの飲食店へと向かう事になった。
◆
道端で出会った2人の母娘。そんな2人と共に俺はテーブル囲んでいた。
あまり高い店だと遠慮してしまうかもと思い、大衆向けの安い店を選ぶことにした。
「俺のおごりなんで、遠慮なく何でも頼んで下さいアリアさん」
「はい、ありがとうございます」
リズの母という少女――アリアはそう微笑むも、その表情にはやはり影が落ちたままだ。
気になるが訳を聞けずにいると、注文した食事が次々と運ばれてくる。
見るからに固そうなパンに具の見えないスープ、ただ煮込んで塩をふっただけのジャガイモっぽい代物など、どれもあまり手が込んだ品とは言い難かった。
ただアリアやリズに特別驚いた表情はないので、この世界の大衆料理はこれが標準なのだろう、多分。
「では頂きましょうか」
「うん! お父さん!」
元気のいい返事だけど、俺は君のお父さんじゃないからね?
「リズ! ダメよ! この人はお父さんじゃないのよ!」
リズの何気ない一言に対し、アリアが注意を行う。
「なんでー? この人凄くカッコいいよー。お父さんじゃないの?」
しかしリズは何が駄目なのか分かっていないらしく、キョトンとした顔をしている。
「本当にすいません……」
「あのつかぬことをお伺いしますが、旦那さんは……」
「……この子に父親はいません」
それだけ呟いてアリアは俯いてしまう。
その様子に何かのっぴきならない事情が隠されているよう思えてならなかった。