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5 転生の目的

 リンカに言われるがまま、魔物の襲撃前まで時間を巻き戻した俺は、その忠告通り今度こそ冒険者ギルドへと向かった。


「俺がこの聖剣の力でこれから街を救う! もし文句がある奴がいるなら前に出て来い!」


 そう宣言した俺だったが、本当に誰かが突っかかってこないか心配もしていた。

 だが聖剣を手にした今の俺はよほど頼り甲斐のある存在に映っているらしく、返って来たのは歓迎の声ばかりだった。

 これならばきっと前のような悲劇はもう起きないだろう。


 そうして俺は再び魔物の群れへと一人立ち向かい、それらをあっさりと殲滅したのだった。


『ねぇ、どうだいホクト君? 運命すら捻じ曲げてしまう力を使った感想は? 凄いでしょう? 素晴らしいでしょう? ボクが異世界に送った勇者たちはね、みーんなチート能力(そんな力)を駆使して世界を救ったんだよぉ? だからホクト君もそうしてくれるとボクは嬉しいなぁ』


 いかに自分が与えた能力が素晴らしいかを語るリンカ。

 確かにそのお蔭で死ぬべき運命にいた人達が救われた。それは認めざるを得ない。

 けどこの力は人間の扱う範疇をもはや超えている。そしてそれは実際に使った事で確信へと変わった。

 同時に俺のチート能力に対する忌避感は以前よりも更に強まっていた。


「今回の事は助かった。それについてはホント感謝してるさ。けどもうホントこれっきりだ。こんな力、俺はもう二度と使いたくない……」


『そう。これだけ色々あってもまだそんな事言えるんだぁ。へぇ、まあいいけどね。いずれホクト君も理解出来るよ。その力の素晴らしさにさ』


「……それだけはあり得ないって、断言させて貰うさ」


 見た目は正に女神といった風貌のリンカだが、俺にはやはり彼女はただの毒婦であるとしか思えない。

 明確な悪事を働いた訳ではないが、しかし俺の直感は彼女が邪悪な存在であると徐々に認識しつつあった。



 今度こそ平和となったアンファングの街中を俺は歩いていた。

 魔物退治の報奨金を貰った事で当面の生活は問題はないが、それもいずれは尽きる。今後のためチート能力無しの俺でも出来る仕事を探す必要があった。


『あれれ、なんか怪訝そうな顔をしてるねぇ』


「……ああ、いやな。もともと報奨金なんて貰うつもりなかったから、別に文句を言うつもりはないんだけどさ。ただ街一つを救ったって割には、案外ショボいなーってつい思っちゃってな」


 俺が手にした金貨は、慎ましく生活しても1、2年持てばいいんじゃね? ってくらいの額だった。

 庶民からすれば大金なのは間違いないのだろうが、街を救った英雄に対する対価としてはちょっと少なすぎるかなとも思う。

 聖剣の力で楽々倒したので俺はそれでも構わないのだが、普通の冒険者たちは当然命を張ってる訳で、だとすればちょっと割に合わないんじゃないかと思ったのだ。


『ああ、それは簡単な話だよ。確かに君は街を救ったよ。けどそれで特別、街に利益があった訳じゃないからね。君がやったことは悲しいけどこの街にとっては、マイナスをただ0にしただけに過ぎないんだよね』


 これは俺も誤解していたのだが話だが、あれだけの魔物を倒してもその素材で一儲け何てことには全くならず、むしろ処分に多くの人手が必要となって大変な状況だったようだ。

 流石にその費用を俺に請求なんて真似はしなかったようだが、それが原因で報奨金がいくらか目減りしたのは間違いないのだろう。


 どうもこの世界は思っていた以上に過酷らしく、そもそもあんな魔物の大群への備えなんて、ここみたいな普通の街には無いそうだ。だから今回のように運が悪ければ街一つなんて簡単に滅びてしまう。そして国家はそんな滅びを前提として運営されている。

 そんなんで人類滅びたりしないのかね? とか思わなくもないのだが、まあなんやかんやでどうにか種を繋いでいるようだ。今のところは、だが。


『ホクト君にこの世界に来てもらったのはねー。ちゃんとした理由があるんだよー。それはねー。君の力で魔王を倒して欲しいんだー』


「はぁ、魔王を倒せだぁ? またありきたりな理由だな、おい」


 今どきそんな話、フィクションの中でもそうそう聞かねぇねぇぞ。……いやそうでもないか?


『そんな事ボクに言われてもねぇ。実はね、君が転生する世界の候補っていくつかあったんだけどさ。この世界が一番滅びそうだったから選んだんだよねぇ』


「なるほどな。そのチーレム能力とやらでこの世界を救えと。で、魔王ってのは何やらかそうとしてるんだ?」


『そりゃ魔王っていったらやる事は一つ、世界の支配さ。そうしてこの世界は魔物たちの楽園に変わっちゃうのさ』


「うーん。人間の俺がこういう事言うのもなんだけどさ。その魔王とやらが世界を支配したとして、なんで世界が滅びる事になるんだ?」


 小説なんかでは割とありがちな話だが、昔からちょっと疑問だったのだ。支配者が代わっても別に世界が滅びるとかなんて話にはならないんじゃないかなー、ってな。もちろん世界自体を壊すとか言ってる連中は別としてね。


『えーとね。魔王は魔物の王の略称だから、そうなっちゃうと多分、人間いなくなっちゃうよね』


「まあ、多分そうなるんだろうな……」


 異世界とはいえ、俺も人間の一人である以上、そんな結末は避けたいという想いはもちろんある。


『で、ボクは一応、輪廻転生とかを司る女神なんだけどさ。対象が人間限定なんだよねー』


「ふぅん。てことは何か? 信仰する人間がいなくなっちまうと、お前自身の力も低下するとかそんな感じなのか?」


 ありがちな神々の派閥争いって奴だな。

 ただ地球にいたとき、リンカなんて女神の名を聞いた事なんて一度もないけどな。

 少なくとも俺は奴に対する信仰心など欠片も持ち合わせていない。


『うーん。ちょっと違うかなー。いやね、ボクってば人間の目を通して世界を見てるからさ。人間が全部消えちゃうと、この世界を気軽に覗けなくなっちゃうんだよね。それってちょっとつまんないじゃん?』


 どうやら信仰の奪い合いなんかは特にしてないらしい。まあそりゃそうだよな。それだと特定の分野の神に力が偏り過ぎて、あっという間にバランスが崩壊するだろう。

 もしそうだったら現代日本の狩猟の神とかたぶん瀕死状態だもんな? 猟友会とかだって高齢化でヤバいって聞くし、害獣を狩るより先に自分たちの絶滅を心配する有様らしいからな。


「んん……? そう言いつつお前、最初にこの世界に普通に来てなかったか?」


 そうして俺の童貞を奪いやがったのだ……。

 苦節18年、守りぬいた結晶を一夜で泥まみれにされた俺。なんて哀れ……。


『あーやっぱり覚えてた? もうーホクト君ったら意外と細かいなぁ。そんなんだからモテないんだよ』


 ……余計なお世話だっつーの。それにそもそも俺は女の子にモテたいなんて思ったことは一度も無い。


『まあボクくらいの神格があれば、直接世界に降臨するなんて実は割と余裕なのさー。けどやっぱそれって面倒じゃない? 30分先の彼女にわざわざ会いに行かなくても別にネット通話で十分、みたいな?』


 ……なんつー酷い例え方をしやがる。


「てか30分くらいならちゃんと会いに行ってやれよ! 可哀想だろうが! そもそも彼女とか言われても俺にはわかんねぇよ!」


『てへっ、ごめんごめん。そだよねぇ。君ってば彼女いない歴=年齢だったもんねぇ』


「うるせぇよ!」


 彼女は居なくても友達はいたからいいんだい! 

 男の、しかもオタク友達ばっかだったけど……。


 そういや一矢の奴、元気にしてっかなぁ……。


『ああ、あの子ねー。なんか彼女出来たみたいで楽しくやってるみたいだよ?』


 くそっ、裏切りやがったなあいつめ!


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