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4 聖剣無双、そして……

 リンカの策略に乗せられたと分かってはいても、結局俺には聖剣の力に頼る以外の良い案が何も浮かばない。

 今は言う通りに動くしかなかった。


「で、この聖剣とやらで俺はどうすればいいんだ?」


『えっとね、敵を倒すぞーって考えながらで適当に振るえば、それだけで敵だけ(・・)をバシバシ倒してくれるよー』


 なんつーチート武器だよ。

 しかもフレンドリーファイアー自動回避まで完備とかマジ甘々仕様だな、おい。


「はぁ。なら、さくっと倒してくるか……」


 チート能力なんかに頼らざるを得ない今の状況が非常に辛い。さっさと終わらせて後は静かに暮らすのだ。

 そんな事を考えていた俺だったが、その思考を読んだリンカがそれに待ったをかける。


『それは多分悪手じゃないかなぁ。ボクのオススメはこの通りの先にある冒険者ギルドに顔を出して、魔物の討伐をするんだってちゃんと宣言する事かなぁ』


「はぁ? なんでだよ? んな事したら無駄に目立つじゃないか。俺はこんな与えられた力を褒められたくなんてないぞ!」


 努力なしで得た力で人々の賞賛を得て悦にひたる。俺が一番大嫌いなパターンじゃないか。


『ふぅん。一応ボクは止めたからね。んじゃま、頑張ってー』


 何だってんだ一体。そこまでして俺にチーレム生活とやらをさせたいのかね?

 生憎だがこれ以上お前の思惑に乗ってやるつもりはこれっぽっちも無い。この力を振るうのも今回限りだ。


 そう決意した俺は聖剣を手に持ち、今にも街へと雪崩込まんとしていた魔物の大群へと突っ込んでいく。 

 聖剣のお蔭か、身体が自分のものとは思えない程素早く動き、何百何千とも思える敵の動きが全て把握出来てしまう。


「こんな感じか?」


 俺の放った適当な一振りが、何十、何白もの魔物を一瞬でバターのように切り裂いた。


「……おいおい。マジでチートだな」


 剣術なんてものはおろか、俺はロクに喧嘩さえした事がない人間だ。

 そんな俺がただ振り回すだけで、聖剣から放たれた衝撃波は進路上の敵を全て切り裂いていくのだ。

 

 そんな仲間の惨状を目の当たりにしたせいか、あるいはこれも聖剣の力なのか。

 魔物の大群は逃げ出すでもなく、こちらへと攻撃を仕掛けるでもなく、ただ黙って動かなくなってしまった。


「ホントにイージーモードだな」


 俺は動かない的へとただ剣を振るうだけで良かった。

 どんなクソゲーだよそれ、と思わず突っ込みたくなる程の簡単さだ。


 しかも流れた血は聖剣が吸いとっているらしく、俺は汚れる心配さえなかった。


「はぁ、なんだかなー、って感じだな。やっぱりチート能力なんてロクなもんじゃないな」


 こんな与えられた力で無双して、一体どこが楽しいというのか。


 ふと横目で街の方へと視線をやれば、俺の戦いぶりを遠巻きに見ていた連中が歓喜の声を上げていた。


「なんだあれ! マジすげぇな」


「魔物共め。ビビッて動かなくなってるぞ。へっ、ざまあねぇな」


「ああ……これで街は救われるわ……」


 俺が来なければ、街が壊滅する状況だったのだ。

 命拾いした彼らが浮かれる気持ちも理解はできる。


 だがそんな彼らとは対照的に、俺の気持ちはドンドンと冷めていくばかりだ。


「はぁ、もうやめたい……」


 しかしここで俺が戦うのをやめれば、再び街が危険に晒される。ならば今止まるわけにはいかない。


 それからの俺はただ聖剣を振るうための機械と化して、全ての魔物を肉片と変えるまで戦い続けた。



「さてと、とりあえずちゃんとした宿を探さないとな……」


 魔物が全て倒れ、平和が戻った街中を俺は一人歩いていた。

 ポケットの中に数枚入っていた金貨を当座の資金として、俺はこの世界での生活を整えるつもりだ。

 幸い言葉や文字なんかは過不足なく通じたので、俺は先行きを割と楽観視していた。


 だがそんな考えの足りない俺に罰が下ったのか、通りかかった商店街でなんとも嫌な光景を目にしてしまう。


 昼間から酒瓶を手にくだを巻いている男たちがそこにいた。

 荒事を生業としているのか、みな腰に武器を携えている。


「おらおら、俺らのお蔭でお前らは助かったんだぞ? 分かったなら、さっさと出すもの出しやがれ!」


「どうか……どうかおやめ下さい! それを持っていかれたら明日からの生活が……」


 そんな厳つい連中が武器で脅しながら、商店の品物を次々と強奪していたのだ。

 店主らしき人物が必死でそれを止めようとするも、それを聞き入れる様子など全くない。


 そしてそれは一人や二人ではなかった。似たような光景がそこかしこで広がっていたのだ。


『だから言ったでしょー。この世界を君がいた平和な現代日本と一緒にしちゃだめだよー。君が功績を主張しないから、それを掠め取った彼らが図に乗っちゃったんだよぉ』


 どうやら先程の俺がやった魔物討伐を、彼らは自分の手柄にしてしまったようだ。

 それだけならばまだ許せたのだが、連中はそれを笠に着て街の人達へと傲慢不遜な振舞いをしていたのだ。


 とても見過ごせる事ではない。

 俺は一歩踏み出し彼らを制止すべく動こうとするが、その前にリンカが(ささや)く。


『あれれぇ? チート能力はもう使わないんじゃなかったのぉ?』


「……分かってるさ! そんなモノなくったって――」


『はぁ……。ホント君ってバカだよねぇ。現代日本のぬるま湯でぬくぬく育ってきた君が、荒事慣れした彼らを自分の力だけで止められるなんて本気で思ってるのぉ?』


「じゃあどうすればいいんだよ! あれを見過ごせって言うのか!?」

 

 俺の視界では、今も連中の傍若無人な振舞いが続いているのだ。


『ぶぅ。別にボクはそんな事、一言も言ってないでしょー? 別に難しい話を言うつもりはないさぁ。単にボクがあげたチート能力にまた頼ればいいんだよ。そだねぇ、聖剣の力をちょこっと見せつけてやればさぁ。あんな小物どもはすぐに尻尾巻いて逃げ出すと思うよぉ?』


「だから! その力はもう使わないって言ってるだろうが!」


 もうあんな馬鹿げた力、金輪際俺は使うつもりなどないのだ。

 あんな人の努力を全否定するような力の存在を俺は認めない。認めたくない。


『はぁ、君はまたそんな我儘ばっかり。だからあんな悲劇を見過ごしちゃうんだよ……』


 心底悲しそうな声色でリンカが呟く。

 直後、遠くの方から悲鳴が響いた。


「キャァァー!! あなたぁぁ……」


 声の方へと視線をやれば、血を流した中年男性が倒れていた。それに奥さんと思しき女性が縋りつき泣いている。

 近くには血に濡れた剣を持った男がへらへらと笑いながら立っていた。酒瓶を手にしており見るからに悪酔いしている様子である。


「なっ!?」


 調子にのった酔っ払いが無体を働いた挙句、ついには人を斬ってしまったようだ。


『ねっ、ボクは言ったでしょ? 君が手柄を隠すような真似をしなければ、あの男の人は死ななかったんだよ?』


「うそ、だろ……。あれ死んでるの……か?」


『そりゃねぇ。剣でお腹をああもばっさり斬られたら、普通の人間なら当然死ぬでしょう? まさかそんな簡単な事も分かって無かったのぉ?』


 リンカ曰く、俺は武器を持った酔漢の危険さを正しく理解していなかったのだそうだ。

 

 そりゃそうだろう。現代日本で生活していれば、そんな危険な酔っ払いと出くわす経験などそうそう無いのだから。


「なぁ、あの人が死んだのは、俺のせい……なのか?」


 俺が力を隠そうとしたから……。


『そんなのボクに聞くまでも無くさ。もう君自身が一番分かってるでしょ? そう、ぜーんぶ君のせい。君が我儘を言ったからあの人は死んだんだよぉ』


「そんな……なら俺はどうやって責任を取れば……」


『ははっ、人一人が死んだ責任を君なんかに取れるのぉ? 君ってさー、正義漢ぶってる癖に案外傲慢な性格してるよねぇ』


 底冷えするような声でリンカが俺を責め立てる。


「くそっ、だって俺は……」


 そんなつもりは無かったのだ。

 こうなるなんて最初から分かってたなら、俺も自分の主義なんて捨てて救う選択をしたに決まってる。


 だがそんな後悔はもう既に遅く、失ってしまった命はもう戻らない……はずだった。


『そんな落ち込んでるホクト君に朗報だよー。なんと君にはこんなピンチさえも簡単に挽回できる素敵な能力が備わっているんだからさぁ』


 精神をどん底へと叩き落された俺へと、リンカが救いの手を差し伸べる。


「ホントか……。なんだってする。だからあの人を助ける方法を教えてくれ……っ!」


『ふふっ、そんな決死の覚悟なんて必要ないよぉ。ボクが君に与えた力の一端――時間を巻き戻す能力を使えばいいのさ』


 リンカのそんな言葉に縋りついた俺は、言われるがままその力を行使し、魔物の襲撃前へと時間を巻き戻したのだった。


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