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36 エピローグ(後編)

「それで何の用だよ、リンカ?」


 神々との全面戦争の合間に、わざわざ力を割いてまで分身を寄越したのだ。

 何かのっぴきならない理由でもあるのかと思っていたのだが……。


「もちろん君の正妻の座を手に入れるためだよ!」


 しかし返ってきたのは、そんな思わず脱力してしまうような言葉だった。


「なぁ……マジで言ってるのか?」


「マジも大マジだよ! だってさぁ、これまでは一応他の神どもに遠慮してたけど、全面戦争になったら、もうその必要もないじゃない? だったらボクもだって、これからは好きなようにやらせてもらうのさー!」


「その結果がこれかよ……」


「そだよぉ! ボクだってねぇ。いつも他の女に君を持ってかれるのを見てるのはさ。割と心苦しかったんだからね!」


 いっても、俺の童貞はいつもお前に奪われてたけどな。

 

 今回のように、既に成長した姿で転生した時はまだマシなケースなのだ。

 状況によっては、もっと若い……下手すれば赤子の状態で転生する事もあった。


 そんな時、いつも大変な目に合わされていたのだ俺は。


 精通を迎えたばかりの幼い俺が朝目覚めると、この馬鹿女神が必ず俺の上に跨っているんだ。

 そうして俺から精をむしり取って喜んでいる。


 なんだよこの痴女は! 

 寝ぼけまなこをこすりながら、何度そう思ったことか……。


「だってだってぇ! 急いで童貞奪わないと、君ってばすぐに女の子を引っかけるじゃないさ!」


「……そうなんですか、ホクトさん?」

 

 話が半分も分かってないだろうに、何故かそこに乗っかって来るアリア。


 確かに若い状態で転生した場合、超可愛い幼馴染が俺の傍にはいつもいた。


 彼女たちの性格はまあ色々だったが、いずれも俺に惚れていた。

 まあ整った容姿に、イケメンな性格の俺が乗っかれば、それはもう絶対的な真理となってしまうののだろう。

 全く罪な男だな俺は。


 そうして彼女たちに捧げるはずの童貞だったが、しかしいつもリンカによる簒奪を受けていた。


「俺だってなぁ! たまには他の女で童貞卒業したいんだよ!」


 大抵の事は力でなんとかできる俺だが、それを与えたリンカにだけは中々抗えない。


「ダーメ! 何度転生しても、君の童貞はずっとボクのものだよ!」


「……ホクトさんって、やっぱりそんな人だったんですね」


 勝手な事を言うリンカに、何故かジト目を向けてくるアリア。

 

「はぁ、リズはもっとおしとやかな娘に育ってくれな」


 タイプは違えども、2人とも妙に気が強い。

 そんな2人も好きなのだが、ハーレムを築く上でバランスはとても重要だ。


 どうせなら色々なタイプを取りそろえたい。


 ちょっと前なら有り得ない話だが、今の俺の未来予想図には、娘であるリズのハーレム入りも当然視野に入っていた。


「あ、ホクト君! リズちゃんに色目を使ってるね! まったくもう!」


「あ、有り得ない! 実の娘なんですよ!」


 ふははは!

 近親相姦がなんだというのだ!

 多くの時を生きてきた俺に、もはや異性に対する性的禁忌はほとんど存在しない。


 そもそもな話、近親相姦を避けるべき最大の理由である遺伝的問題は、俺の肉体では起こり得ない。

 詳しい理屈は良く知らないが、リンカがその辺の調整を上手くやってくれているからだ。

 

 だからそれを避ける理由はない。

 むしろ俺の娘ってば、俺の超絶凄い遺伝子を継いでるせいで、これがまた100%いい女に育つんだよ。


 かの高名な光源氏の教えにもあるように、自分好みの女性はやはり幼い時分から懇切丁寧に育てるのが一番なのだ。


 その理論を突き詰めれば、生まれる以前の段階から携わるのは当然の帰結となる。

 そうして何代にも渡り育てることで、その理想へと近づいていくのだ。


「――みたいなことを今ホクト君は考えてるみたいだよ。ねぇ、どう思うアリアちゃん?」


 などと考えていたら、全部バラされてしまった。


「……最低ですね。女の敵ですね。滅びればいいんじゃないでしょうか?」


 これまでにない程に冷たい視線をアリアが向けてくる。


「ちょっ! 心読めるからって悪用するなよ! このクソ女神!」


「ふふっ、君が最低な事はボクが一番知ってるんだからね! ボクが降臨したからには、もうハーレムなんて作らせないよ!」


「お、おい! なんでそうなる! そうしたらお前だって困るだろうが!」


 一応俺がハーレムを築くのは、人類のため――そして何よりお前のためでもあるんだぞ!


「うーん。もう神々と敵対しちゃってるし、その辺、割とどうでもいいかな?」


 こいつ……。

 開き直って、自分の責任、立場、その他諸々全部投げ捨てやがったな……。


「おいおい、それは流石にマズイだろ? 人類見捨てるつもりかよ!?」


 一応人類の庇護者たる女神なんだろうが!

 ちゃんと人類救おうとしてくれよ。


「ぶぅ、何を言ってるのさ。自分だって勇者なのに、そんなつもり全然無いくせにー! 君なんて、欲望のままに動いてたら、結果的に人類も救ってるだけの、ただの変態じゃん!」


 正論を言ったはずの俺だったが、リンカの反論で見事に叩き斬られてしまう、


「うっ、いやまあ。そういう部分も0とはいわないけどさ……。でもなぁ、俺だって……」


 うん。まあ割と頑張っていたはずだ。

 主に腰ふりとか。


「はっはんー。ボクにそんな嘘が通じるはずないでしょ! 見縊っちゃ「めっ」だよ!!」


 くぅっ、能力だけは無駄に優秀なコイツが今はとても憎い。

 あと何が「めっ」だよ!

 無駄に可愛いなクソッ!


「ホクトさん。ホントに変わりましたね。すっごく下種っぽいです」


 あああ。これはマズイ。

 アリアの好感度が駄々下がりしている。

 

 仕方ない。こうなったら俺の左手に宿りし、ナデポの力で……。


「そうはさせないよ! 封印!」


 こっそりとアリアの頭へと手を伸ばそうとした瞬間。

 俺の左手に何かが巻き付けられたような感覚が生じる。


「なっ、何をしたリンカ!」


「ハーレム阻止するって言ったでしょ? そんな力、封印するに決まってるじゃない!」


「な、なんだとっ!?」


 あの力を……ちょっとそこらに歩いてる女を抱きたいなぁ、なんて思った時にとても便利なあの力を、封じただと……!?


「当たり前じゃないさー。ボクには全部お見通しなんだよ? しばらくはこの街にのんびり滞在しながら、情欲に耽ろうなんて考えてる事はさ!」


 くそっ、心が読める相手とか、ホントやり辛い。

 それを防ぐチートを形成しようとするが、リンカのチートっぷりを前には叶わない。


「ホクトさん……。当分は親子3人でって……。さっき、そう言ってましたよね?」


 そこにアリアからの追撃が飛ぶ。

 

 あっ、これヤバい。

 確実にキレてる。


 表情こそ笑みの形だが その視線の温度は氷点を遥かに下回っていた。

 その冷たさと言えばシベリアにあるオイミャコン村の真冬――平均-50℃、日によっては-70℃を下回る事さえあるらしい――に匹敵しかねない程だ。


「も、もちろんその言葉に嘘はないさ」


「そだよねぇ。3人で暮らすのはホントだよね。でも君って不眠不休で動けるからさ。アリアちゃんたちが寝静まった後、一体何をして過ごすつもりだったのかなぁ?」


「ホクトさん……」


 ついにアリアの瞳からハイライトが消えてしまわれた。

 真なる絶対零度は、あらゆる存在が――時計の針さえもその動きを止める。

 そんな冷気が俺へと向けられる。


「アリアちゃん。この男はホントクズだからさ。ボクに任せて逃げた方がいいんじゃない? もちろん生活の面倒は保証してあげるしさ」


「い、いえ! どんなにこの人が最低のクズ人間でも、やっぱりリズの父親なんです。だから私は離れません」


「そうかなぁ? でもこんな父親なんていても、リズちゃんの教育に悪影響だよ?」


「そ、そんな事ありません! ホクトさんが有害だというのなら、普段は縛ってそこらに転がしておけばいいんです。やっぱり家族は一緒の方がいいんです!」


 一応2人の言い合いは、俺を奪い合う体を為していた。

 しかし、それ以上に俺へのディスリ合戦の様相を呈しているのは気のせいだろうか?


「えっと2人とも。そこまでボロクソに言われると流石の俺でも――」


「「ホクトさんは黙ってて!」」


 ダメだ。

 俺の言葉は届かないようだ。


「リズ……お父さんは、これから大変みたいだ」


「よしよし。げんきだしてー」


 俺がそんな愚痴を零すと、それを聞いた娘は小さな手でポンポンと俺の頭を撫でてくれる。


「ああぁ、リズぅ……」


 もしかして俺の娘は天使なのだろうか?

 この娘は絶対に嫁にはやらん! 

 てか未来の俺の嫁だからな!


 俺はそんな決心をしながら、薄ら笑いを浮かべながら、未来予想図を描いていく。

 

「あはは、お父さん気持ち悪いー」


 そんな無邪気な娘の声を聞きながら。


これにて本編は終了となります。

その後の話を後1話投稿して、この話は完結となります。

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