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34 共同作業

 俺とアリアの前には、縄で縛られた薄汚い男が転がっている。

 この男こそが、かつてアリアの家族を殺した盗賊一味、その最後の生き残りだった。


「おい! 早く縄を解きやがれ! くそっ、なんだってんだよ!」


 なぜ自分だけがこんな目にあわされているのか。

 どうにも理解出来ていない様子だ。


 だから教えてやる。


「なぁ、お前、昔盗賊をやっていただろう?」


「……は、はぁ? 何の話だよ? 善良な市民を捕まえて、何言ってやがる!」


 やはり救いようがない。

 素直に罪を認めるわけでもなく、かといって白を切り通す胆力もなく。

 あまりに度し難い男だ。


 これ以上の問答は無駄だな。


「アリア。やれそうか?」


「はっ、はい。大丈夫です」


 多少声を震わしてはいたが、その覚悟に揺らぎは見当たらない。

 土壇場で躊躇する事も想定していたのだが、それは失礼な考えであったようだ。


 やると決めた事を、きちんとやり遂げる。

 そんな強い意志を彼女は持っていた。

 

「さぁ。この剣で、君の両親の仇に裁きを下そう」


 言いながら俺は聖剣を具現化し、隣に立つアリアへと視線を向ける。


 彼女は無言で頷き、その手が聖剣の柄へと添えられる。


「お、おい!? そんな物騒なもんで何する気だよ!? ちょ、ま、待ってくれ――」


「これ以上、汚い声で神聖な場を穢すな」


 これは俺とアリア、2人にとってとても大事な場面だ。


 そこに余計な雑音など不要だ。

 だから俺は魔法を使い、奴の口を封じた。


 これでどれだけ奴が叫ぼうが暴れようが、場には静寂で保たれる。

 

「ああ、君としては奴の悲鳴が聞きたかったりしたかな?」


「……いえ、仇が討てればそれで十分です」


 戯れの言葉だったが、少し失敗したな。

 彼女が引いたような表情をしている。

 

「ゴホン、さてそろそろ()ろうか。タイミングは君に任せよう」


 アリアが頷き、深呼吸を始めた。

 流石に緊張に顔が強張っているが、それでも止めるつもりは伺えない。


「すぅー、はぁー。……もう大丈夫です。やりましょう」


「ああ」


 そしてアリアが聖剣へと力を込める。

 俺もそれに連動してゆっくりと動き出す。


 今の俺の心持ちは、さながらケーキ入刀前の新郎と言ったところか。


 未来を誓った夫婦が、共にナイフをケーキへと突き入れていく。

 そんな風にして、聖剣が男の頭蓋へとゆっくり振り下ろされていく。


「――」


 男が何かを必死に叫んでいるが、しかし何も聞こえはしない。

 その表情は死の恐怖を前にして酷く歪んでいたが、しかしどうでもいい話だ。


 男の顔面へと聖剣が触れる。

 

 しかし抵抗を感じさせることない。

 ただ脳漿を撒き散らしながら、そのまま男の頭部をゆっくりとすり抜けていく。

 そして剣は地面へと突き刺さった。


 2つに割れた男の頭蓋からは、大量の血が飛び散ったが、しかし俺たち2人をキレイに避けていく。

 これもまた聖剣の力だった。


「終わったな」


 あっけないモノだが只人の命など、所詮このように儚いものだ。

 過去から連綿と引き継ぐ記憶の中で、何度となくそれを刈り取った俺の心に、その事実は波紋一つ生むことはなかった。


「……っ」


 一方でアリアの方はというと、気が抜けたようにしてその膝を地面へと落としていく。


「ううっ……」


 彼女は涙を流し、しかし笑顔を浮かべていた。


 喜ぶその一方で、どこか不安そうな表情が時折過ぎる。

 なんとも落ち着かない不安定な様子だ。


 多分、やり切った達成感と人を殺してしまった罪悪感と、それから色々な事に決着がついたその安堵感とが綯交ぜになっているのだろう。


「……よく頑張ったな」


 俺はただそれだけ言って、アリアを抱きしめた。


 この場面で余計な繰り言など不要だ。

 ただシンプルな言葉を投げかけるだけでいい。


 そうしてから、どのくらいの時間が経ったのだろうか。

 ようやく落ち着きを取り戻したアリアが、言葉を発する。


「ありがとうございましたホクトさん。あなたのお蔭で私は救われました」


 その言葉には、これまでにどこか滲み出ていた嫌悪感が一切感じられない。

 真実、彼女の本心から出た素直な言葉だった。


「おいおい、なに他人行儀な事を言ってるんだ? 俺たちはもう夫婦なんだぞ?」


 それを受けた俺は、笑いながらそう返し、そして彼女の頭を軽く撫でてやる。


 アリアみたいな相手は、無理にでもこちら側から距離を詰めてやらないとダメなのだ。

 その辺を以前の俺は分かってなかったせいで、彼女に振られ続ける事となった。


 全く、我が事ながらやれやれと言う他ない話だ。


「ふふっ、ホントに別人みたいですよね。その理由もちゃんと教えてくれるんですよね?」


 少し悪戯っぽい笑顔を浮かべて、アリアがそう笑いかけてくる。


「ああ、もちろんだ。それに君には色々と協力をお願いしないといけない事もあるしな」


 彼女は今回の生において、最初の妻となった女性だ。

 だがハーレムを築く事を女神によって運命づけられている俺にとって、彼女は最初だが決して最後ではないのだ。


 そして、それを納得させるのは中々に大変である事を、俺は経験から良く知っていた。

 

「けど、その前に先にリズを迎えにいこうか」


「そうですね。あの子と3人で家族ですからね」


 やっとで俺をリズの父親だと認めてくれたようだ。

 それについては素直に喜ばしいことだ。


 そうして俺たち2人は手を繋ぎながら、娘の下へと向かうのだった。


これにて本編は終了です。


後はエピローグ的な話を書いて、完結の予定です。

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