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3 魔物の襲撃

「ううっ、酷い……あんまりだ……」


 結局、行為はそれから長きに渡って続けられた。

 ハッキリとした時間までは判然としないが、少なくとも半日くらいはずっとリンカに腰を振られ続けていたようにも思える。


 しかし腐ってもやはり女神なのか、リンカの妙技は凄まじく何度果てたのか記憶さえ定かでは無い。

 しかもその間ずっと俺の息子は元気に暴れ続けていたのだから、自分が以前とは別の存在へと成り代わった事実が嫌でも理解できてしまう。


 ……まあ立派になり過ぎた息子の時点で、すでに色々とおかしかったんだけどな。


「くそっ。それでも俺は絶対に認めないぞ……っ!」


 リンカに快楽漬けにされてしまった俺だったが、それでも心だけは折られずにどうにか耐えぬいた。


 かつて抱いた夢はもう叶わないが、求める本質は運命の相手を一生一途に思い続ける事。それさえ出来れば童貞か非童貞かなど些細な問題ではないだろうか。多分……。

 まあ……個人的にはせめて相手側だけでも処女であって欲しいと願いたいものだが……。


「てか、リンカの奴どこ行ったんだ?」


 いきなり人を逆レイ〇してくれた挙句、気を失っていた隙にその姿が見えなくなっていた。


『はいはーい。ボクはちゃんとホクト君のこと見てるよぉ』


 周囲には誰の気配もないのに、そんな声が間近から響いてくる。


「おまっ!? どこいるんだよ?」


『もちろん自分ちだよー。ボクも色々と仕事とかあるからさー。ずっと君にばっかり付き合ってあげる訳にはいかないんだよねぇ』


 どうやらこの声は、女神的な力か何かによって俺の頭へと直接響いているようだ。


「ったく。で、ここはどこなんだよ?」


『えっとー。連れ込み宿?』


 連れ込み宿――現代日本的に言えばいわばラブホに近い存在のようだ。

 とはいえ本当にただヤるだけを目的とした建物らしく、寝具以外は特に置かれていない。

 カラオケやらルームサービスやらでっかいバスタブやらは当然望むべくもないのだろう。


 ……まあラブホなんて行った事ないから、良く分かんないけどさ。


「はぁ、サッサと出るとしよう」


 ここはちょっと居心地が悪すぎる。

 壁が薄いのか、なんか喘ぎ声っぽいのとか聞こえてくるし。


 そんな大きな建物でもないらしく、部屋を出てすぐの階段を下ればもう出口であった。

 受付のおばちゃんが俺を不審げに見つめて来るも何も言ってはこない。


『ちゃんと支払いは済ませてあるから大丈夫だよー』


 ……ああそうかい、そいつはどうも気が利くことで。


 リンカのさもドヤった声に殺意が湧くが、今はそれどころではない。


「うっ、外は明るいな」


 どうやら今は真昼間のようだ。とはいえ裏通りらしく周囲に人の影は窺えない。


 などと考えていたら突然、ゴォーン、ゴォーンと大きな鐘が鳴り響いた。


「な、なんだ……?」


 それに続き、今度は焦った女性の声が聴こえてくる。


「緊急事態です! このアンファングの街に魔物の大群が迫っています!」


「は……? 魔物?」


『ああ、言うの忘れてたけどさぁ。ここって異世界だから魔物とかもいるんだよねー』


「はぁ? ちょ、それ、かなりマズイんじゃないか?」


『街の人達は大変だろうね。放っておくと間違いなくこの街は地図から消えてなくなっちゃうよー』


 そんな呑気な声で街の窮地をあっさりと告げるリンカ。


「おいおい、てことは俺も危ないじゃないか!」


『いやー、君は大丈夫だよ。言ったでしょー、異世界チーレム生活を送る為の能力を与えたって。その辺の魔物なんかに君を殺すなんてまず無理だってばー』


「そ、そうか……」


 自身の安全を断言されてホッと一息をつく。しかしすぐに別の事実に気付いてしまう。


「なぁ、俺は大丈夫って言ったけどさ。じゃあ街の連中はどうなるんだ?」


『そりゃぁ、たぶん皆死んじゃうんじゃない?』


「そんな……」


 ここは無理矢理連れて来られたばかりで、俺にとってまだ全然馴染みの無い世界だ。

 だが人が死ぬのが分かってそれを見過ごすなんて真似、俺にはちょっと出来そうもない。


『そんなホクト君に朗報だよー。君がその力を存分に振るえば、街の人たちみーんな救えちゃいますっ!』


「ホントか? ……けど、それってさ。お前に与えられたチート能力を使うって事なんだよな?」


『そりゃそうだよ。それがなきゃ君なんて、ただの童貞、いやもう童貞ですら無かったっけ? ぷぷっ』


 自分で無理矢理奪っておいてクスクスとそう笑うリンカに再び殺意を覚えるが、今はそんな場合ではない。


「……やっぱりダメだ。そんな他人に与えられた力なんて振るうべきじゃない」


 そんな努力も何もなく得た力(チート能力)に頼ってしまえば、きっと俺はダメになってしまう。それは俺にとって大変許容し難い事だった。


『ホクトくぅん。あれれ、何迷ってるのぉ? 君が力を使わないとこの街に住む人たちみーんな死んじゃうんだよ? 女の子たちはゴブリンの苗床にされちゃうしー、男共はみんな殺されて食糧にされちゃうねぇ。それでも君は力を使わないつもりなのー?』


 チート能力を使わないと決めた俺に対し、煽るような言葉をリンカが投げ掛けてくる。


 けれど、俺は――


『ふぅん、これを見てもまだそんな意地が張れるのかなぁ?』


 リンカがそう呟いた途端、俺の中へと情報の奔流が入り込んでくる。


「くそっ、なんだよ……これ……」


『今からちょっと未来のこの街の映像だよ』


 魔物の大群がこの街へと雪崩込んでくる光景が俺の脳裏には映し出されていた。

 ゴブリンやらコボルトやらサイズの小さな魔物が多く、1体1体ではそれ程脅威とは言えないのかもしれない。だが問題はその数のあまりの多さだった。


 街へと侵入を試みる魔物たちと、それを阻止すべく武器を構える男たち。だが多勢に無勢、彼らは数の力で押しつぶされて次々と肉塊へと変わっていく。

 何千何万とも思える大群に対し、この街の戦力はあまりに少なすぎたのだ。

  

 そうして街へと侵入を果たした魔物たちは暴虐の限りを尽くしていく。

 男や年老いた女はみんな殺され、若い女たちは逃げ惑うがそれもあっさりと捕まってしまう。

 ある者はその場で犯され、また別の者はどこかへと攫われていく。

 魔物たちはまだ小さな子供たちにさえ容赦はせず、女の子は攫われ男の子は喰われていった。


「そんな……なんでこんな酷い事を……」


 人型をとりつつも、明らかに人間とは異なる邪悪な意思を宿した魔物たち。

 彼らによって蹂躙され、この街は地獄絵図と化していった。


「もう……もう、やめてくれっ!」


 これ以上こんなもの見たくないと叫ぶ俺に、リンカが優しく告げる。


『君がこだわりを捨てて、力を振るう覚悟を決める。たったそれだけの事で、この悲惨な未来は変えられるんだよ?』


 リンカの言葉が罠だと分かりつつも、しかし俺は抗う選択肢を持たなかった。


「くそがっ! 分かったよ! 使えばいいんだろうが、使えば!」


 かくして俺はチート能力を使ってこの街を救う事を決断した。


「でも、一体どうすればいいんだ?」


 チート能力を与えられたとは言っても、正直どうやって扱えばいいのかまだ良く分かっていないのだ。


『うーん、そだねー。ああそうだ、聖剣とか使ってみたらどうかなぁ?』


「聖剣?」


『文字通り聖なる剣だよー。超凄いパワーが備わってるからさ。素人の君でも簡単に魔物の大群を薙ぎ払えると思うよー』


「へぇ、それはまさしくチートって奴だな」


 なんとも反吐が出る話だ。同時にこんな力に頼らなければいけない今の自分が凄くみじめにも思えてくる。


「で、どうやって使うんだ?」


『えっとね、こう呟けば聖剣が君の手元に現れるはずだよ。美と慈愛の化身たる女神リンカよ、我に天意を体現せし全てを断ち切る剣を与え給え。ってね』


 ……なんかすげー厨二ワードだな。まあいいけどさ。こういうのは別に嫌いじゃない。


 リンカの声に倣い、俺は力強く詠唱する。想いを込めて高らかに。


「美と慈愛の化身たる女神リンカよ! 我に天意を体現せし全てを断ち切る剣を与え給え!」


 すると俺の手の中に光が生まれ、それが剣を形作っていく。


「これが……聖剣……」


 正に聖剣と言う他ない光輝に満ちた剣が俺の手には握られていた。

 そのあまりの美麗さに感動していた俺に対し、リンカが冷や水を浴びせて来る。


『ぷぷっ、ホクト君ってばホントに言ってるぅ。マジうけるぅー』


「はぁ、なにが面白いんだよ?」


『ぷぷっ、ごめんねぇホクト君。実はね……ただ聖剣が手元に来いーって適当に考えれば、それだけで良かったんだよね』


「……はぁ!?」


 どうやら美と慈愛のなんたらとかいう恥ずかしいワードを唱える必要など、実は全くなかったらしい。

 実際、その剣は消えろと願えば消えてなくなり、出て来いと願えばすぐに俺の手元へと現れた。


「お前! マジふざけんなよ!」


 そんな感じで俺は街を救う力を手にしたのだった。


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