23 選ばれた者の選択
俺の言葉を――想いをアリアに理解してもらえたかどうかは分からない。
「……あなたに助けて頂いたのは事実ですし、まず最初にお礼を言うべきでした。ごめんなさい」
ようやく落ち着いたアリアは、それだけ言ってこの話題を終わらせる。
盗賊を見逃した是非については触れてこなかった。
それからも俺たち3人はテヴォルの街を目指して、荒野を進んでいく。
アリアの様子だが、あれから表面上は特に変わったようには見えない。
最初少しギクシャクした感もあったが、それもすぐに消えた。
俺との会話にも――最低限ではあったが応じてはくれるし、リズとはいつも楽しそうに笑いあっている。
ただ時折、何かに悩むような仕草をする事が多くなったようにも思える。
『彼女は彼女で複雑なのさー。こんな過酷な異世界にイキナリ放り込まれちゃった君ほどじゃないけど、彼女だって取り巻く環境が一気に変わったせいで色々と思い悩む事があるんだよー』
おい、やっぱり俺を過酷な世界にぶち込んだ自覚はあったのかよ。
『失礼だなぁ。環境の変化が大きかったのは認めるけどさー。でもねぇ、それをカバーして有り余るだけの能力をちゃんと与えたはずだよぉ? それを妙なこだわりで台無しにしたのは全部君自身じゃない?』
うぐっ、まあそりゃそうだが……。
いや……本当にそうか?
なんだかんだ言いつつ、結構能力に頼ってると思うんだが……。
『まだまだだよー。ボクがこれまでに担当した子たちと比べれば全然だよー』
マジか。
『例えばそうだねぇ。異世界に転生して最初の1週間で3桁ハーレムを作って、そこから更に1ヶ月で国の王様になった子もいたねー』
はぁ、なんというか……色々すげえなそいつ。
たぶん俺とは真逆のタイプなんだろうな。
下手なチーレム小説の主人公よりも行動力に溢れてやがる。
『転生初日でイキナリ10万単位の人間を殺しちゃった子とかも居たねぇ』
おいおい。
ちょっとクレイジーすぎやしねぇか、そいつ?
『まあ色々と事情があっただけで、その子は別にそう悪い子じゃなかったよ。その後は周囲に好かれて幸せに暮らしてたしねぇ』
1日で10万人以上殺しておいて悪い子じゃない……か。
なんつうか「1人殺せば犯罪者、100万人殺せば英雄」を地で行く話だな。
『あとはそだねぇ。変わった子だと、ずっと姿を変えて正体を隠しながら世界中を放浪して、行く先々の街を救い続けた子もいたねぇ』
へぇ、割とマトモな奴もいるもんだな。
ちょっと共感できそうな奴が居て嬉しい。
『その子も別に悪い子ではなかったけどさ。多分君が思ってるような子とは全然違うと思うよ。その子ってば街に危機が無い時なんか、自分で魔物を召喚して襲わせてたからねぇ』
っておい。なんだそりゃ。
自作自演の勇者さまかよ……。
超速で掌をクルクル―しちまったじゃねぇか。
『まあその子の目的って、毎回色んな人にチヤホヤされる事だけだったからねぇ。毎回冒険者ギルドに新規登録にいっては、わざと冒険者に絡まれて、そいつをボコボコにして悦に浸るのを日課にしてたしねぇ』
清々しいまでのクソ野郎じゃねぇか、そいつ。
『他にも寄って来た女の子たちを片っ端から抱きまくって孕ませては、サヨナラを繰り返してたねぇ。しかもあの子ってばたしか妊娠率100%のチート能力とか持ってたから、その世界にはその子の子孫たちで溢れる事になったんだよねぇ。懐かしいなぁ』
酷い。酷すぎる。
生態系が完全に汚染されてるじゃねぇか。
てかそんな奴に、んな能力与えんなよ。
まあ、ある意味では人類みな家族を実現したとも言える訳で、平凡な俺とは違って出来る奴ではあるのかもしれないが。
『実はその辺もね、ボク的にはそう悪くない結果なのさぁ。少なくともあの世界の人類はあの子のおかげで、とっても強い種族に生まれ変わわれたからねぇ』
リンカ曰く、チート能力そのものは遺伝しないそうだが、能力によって強化――いや変異した肉体は遺伝するそうだ。
そんな彼の種が世界中に大量にばら撒かれたことで、結果として人類という種全体が大きく底上げされたらしい。
『それに、なんだかんだで千年くらい生きてたしね。子供だけでも少なく見積もっても100万単位は居たんじゃないかな?』
千年間で子供が100万だと仮定しても1日3人近く孕ませてるペースなのか。
妊娠率100%チートを考慮すれば、意外と現実的な数字なのか?
『無限精力のチート能力もあったし、酷い時だと1日で軽く3桁人数を孕ませてたからねぇ』
3桁、100人以上か……。なんというか想像を絶する数だな。
確か前世での世界記録が24時間で57人だったか?
しかもその人は事前にアスリートばりの訓練を積んでたし、終了後には息子の酷使し過ぎで病院に直行したらしいからな。
如何にチート能力が凄いのかを表すエピソードとも言えるだろう。……言えるのか?
『君だって無限精力のチートは持ってるから、ちょっと鍛えれば真似出来ると思うよー』
マジかよ。
いや思えば確かにリンカとの行為時も、精力が尽きる気配はまるで無かったように思う。
失神したのも、単に慣れない快楽に耐えきれなかったせいだからな。
『それくらい君が色に溺れてくれれば、ボク的にも安心なんだけどねぇ』
それはちょっと期待に沿えそうにないな。
正直ハーレムでさえどうかと思ってるのに、そんな遥か彼方の次元なんてまず到達不可能だ。
『そっか、それは残念だねぇ。でもまぁ気が変わったらいつでも言ってよー。実例を交えて教えてあげるからさぁ?』
実例って、その性欲魔人のかよ。
話自体には正直興味はあるけど、気が変わる事は絶対にないぞ。
『まあ今の君ならそう言うよね。ちゃんと分かってるよー』
なんか引っ掛かる物言いだな。
まあいい。
俺は自分のやりたいようにやるだけさ。
当面の目標は、アリアとリズを守りながら比較的安全らしいノルテ聖王国へと向かう事だ。
一箇所に腰を落ち着けさえすれば、アリアとの関係改善に集中できるようになるはずだ。
『ただこれだけは忘れないようにね? 盗賊の扱いについて、まだ君たち間には大きな認識のズレが横たわっていることをさぁ』
ああ、分かってるさ。
そしてこのアリアの認識こそが、この世界の常識としては正しい。
ならば、歩み寄るべきは俺の方なのだろう。
俺に世界の常識を覆す力は――いやその覚悟なんて無いのだから。




