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14 変わらない運命

 時間を巻き戻してアリアたちの逃走を阻止した俺だったが、その先も中々上手くは行かなかった。


『ねぇ、もうこれで何度目? もう諦めたらどうかなぁ? アリアちゃんたちはどの道死ぬ運命だったんだよー』


 何度時間を巻き戻しても、アリアたちの死はいつもすぐ近くにあった。


 どれだけ目を離さずにいようとしても、一瞬の隙に俺の傍から消えて、そして死んでしまう。

 出立の日の逃走を防いでも、翌日、また翌日とアリアは隙を見つけだしてはリズと共に俺の手からすり抜けていくのだ。


 いくらチート能力を得たとはいえ、人間である以上は睡眠の制約は変わらず存在しており、一人っきりの俺にはどうしても限界が存在した。

 

『君に巻き戻せるのは、チート能力を得たその瞬間まで。だからもう無理なんじゃないかなぁ?』


 万能に思えた時間を巻き戻す力だったが、実はそんな制限が存在していた。

 だから限界まで巻き戻したとしても、アリアと言葉を交わす時間はどうしても限られてしまう。


 実は元からアリアはこの街を出るつもりだったらしく、俺がそれをいくら止めようとしても無意味だった。

 表面上は頷けども、心底では決して俺の言葉に耳を傾けようとはせず、気が付けば消えてしまうのだ。


「まだだ。俺は諦めないぞ……」


 だが、それでも不思議と俺に諦めるという選択肢は浮かばなかった。


 もしかして俺は本当に彼女に恋をしてしまったのだろうか……。


『うーん。君のは恋って言うよりも、ただの執着(しゅうちゃく)な気がするけどねぇ……』


 かもしれない。分からない。

 何度となくやり直しをしたせいか、精神が擦り減っていく実感があった。

 もう何が正しくて何が間違っているのか……。


『そりゃねぇ。成果が見えない徒労をいくら繰り返しても、ただ無力感ばかりが募るモノさぁ。そろそろ見切りをつけないと君自身が精神を病んじゃうよぉ?』


 精神を病む、か。

 確かにこんなに追い詰められたのは、人生で初めてな気がする。

 同時に俺はこんなにも弱い人間だったのかと、酷く実感してしまう。

 

『まあ、そんなものだよねぇ。ぬるま湯で育てば耐性なんて付かないし強くはなれないものさぁ。ただボク的にはさ。別にそれが悪い事だとは思わないんだけどねぇ』


「なんでだ? 強い方がいいだろ?」


『うーん。強さなんて所詮、相対的なものだからねぇ。君の目から見てどんなに強い人間でもさぁ。もっと強い中に放り込んじゃえばあっという間に弱者に早変わりなのさぁ。上を求めても際限なんてないし、だったら皆でゆるーく生きていく方が案外平和かもよぉ?』


 そんなものなのだろうか? 良く分からない。


「……分からないが、でも諦めたくはない」


 やはり俺はアリアに執着しているのだろうか。

 どうしても彼女たちを救いたくて堪らない。


『君ってやっぱり我儘だよねぇ。でもそんな我儘は別に嫌いじゃないよー。気が変わったから、ちょっとだけ助言をしてあげるよ』


「……頼む」


 悔しいが、いつもこいつの言う事は正しかった。

 少なくとも馬鹿で世間知らずな俺よりかは、確実に世の中の事を良く知っている。


『うーん。素直なホクト君ってば、ちょっと気持ち悪いー』


 うるせぇよ。自分でも分かってるさ。


『ふふっ。えっとね。そもそも君たちにはさぁ。相互理解って奴がまるで足りてないんだよねぇ。君ってばさ、アリアちゃんの気持ちを理解しようとするばかりでさぁ。自分の事はなーんにも教えようとしなかったことに気付いてるぅ?』


「え……。いやだって……聞かれなかったし。そもそも俺の事になんて興味なんかないだろ?」


 あれだけ俺から逃れようとするのだ。きっと俺について何も知りたくないと思っているだろう。


『うーん。だからその辺が駄目なんだってばぁ。そりゃぁ、アリアちゃんは君の事なんて別に知りたくないって思ってるだろうさー。でも君が抱えてる事情を知っても尚、そんな態度を取り続けられる子なのかなぁ?』


「……どういう意味だ?」


『簡単に言うとねぇ。アリアちゃんは君が思ってる以上に心優しい子って事なのさぁ。ボクがこう言うのもあれだけど、ホクト君だって割と大変な訳じゃない? その事をきちんと理解して貰えればさぁ。もっとちゃんと話が出来るようになると思うんだよねぇ』


「いや……だが、要は言い訳をするって事だろ? それって……」


 改変自体はリンカが行ったとはいえ、その引き金を引いたのは俺だった。

 その責任から逃れるような真似はしたくない。


 だが俺のそんな考えをリンカは一蹴する。


『もしかして君ってさぁ。言い訳せずに黙って尻拭いする事が、何かカッコいいとか思っちゃってるわけぇ?』


「……別にカッコつけてるつもりじゃないさ。ただ俺のミスをアリアに押し付けるのは、なんか違うだろ?」


 そもそも俺の事情を全部話してそれを信じて貰えたとして、これまでのアリアの悲惨な境遇が変わる訳ではないのだ。

 いやむしろ彼女がまた要らぬ悲しみを、余計に抱きかかえる結果にさえなりかねない。


『はぁ、君一人の力で全部丸く収めれるならさぁ、別にそれでもいいよ? でも現実はそうじゃないでしょ? だったらさぁ、もう事情を全部ぶちまけてぇ、アリアちゃんにも手助けを求めるべきじゃないのかなぁ?』


「……そんなものなのか?」


『そんなもんなんだよ』


「良く分からんが、分かった。お前を信じてみるさ……」


 今の俺にはもう何が正しいのか良く分からなくなっていた。

 だから俺はリンカの言う通りに動いてみる事にした。


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