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それでもネコは生きている  作者: でらく
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04●──すやすや

……忘れた頃の更新。


 後悔先にたたずとは、よくいったもの。

 ……ともあれそのあとは、むかいあったままたいして会話も弾まず黙々と食事をすすめていった。

「ごちそうさまでしたぁ、ご主人さま」

 ほどなく食べ終わると、ネコ少女もといななごんはカラになった弁当容器を脇によけ、ご丁寧に三つ指をついてきた。どうやらママとやらから、そーゆー礼儀作法を学習させられてきたらしい。

「おなかがふくれたあとは、子作りの時間ですね♪」

「しない」

 少女の突拍子のない発言にも、だんだん慣れてきた。だからもう迂闊に狼狽えたりはしない。しないったらしない。そうきめた。

「えー、どうしてですかぁ? わたしはいつだってオッケーなのにぃ」

 ぷぅっとほっぺを膨らませ、抗議してくる。

「キミがオッケーでも、俺はオッケーじゃないから」

 そりゃまあ、誘惑がないわけじゃぁない。なにしろ目の前にいるのは、だれがどう見たってトップアイドルレベルの美少女だ。たとえ千と百年先の未来において三ヵ月前に(……ややこしい)創造された人造生命だとしても、二一世紀に生きる者には自然派生なふつうの人間と区別はつかない。ネコミミとかシッポはたしかに不自然かもしれないが、見慣れてくると違和感もしだいになくなってきて、むしろ断然ありだなと思えてきてしまう。

 可愛いすぎる。

 理性をかなぐり捨てて飛びついていくのが正しいヒトの雄の本能なのかもしれない──けれど、いかんせん経験のない俺にはどうしたらいいのかさっぱりわからない。知識はあっても、実践の仕方がわからない。たとえヘタレの烙印を押されようとも、勇気がでないっ。

 とゆーわけで、こういう場合は……仕事に逃げる! たとえどんなに突拍子のない事態に巻きこまれようとも、可能なかぎりいつも通りの日常を守り通すのが漢というものだろう! ……と、よくわからない屁理屈とゆーか言い訳をこしらえてみる。

「でもわたし、ご主人さまのために床上手なオンナになってこいって、ママにいわれてきましたから。子作りしてくれないと、困るんですぅ」

 うるうると瞳を煌めかせ、目と鼻の先まで顔を近づけ迫ってくる。超至近距離から見ても眺めても、美少女はやっぱり美少女だ。白い肌はつるつるでなめらかで、まさにお人形さん(ドール)のよう……って、いまさら見惚れている場合でもなくて。

「と、床上手って……それ、意味わかってていってる、ななごんさん?」

「はい、もちろんです。もともとネコ型バイオロイドはそういう用途のために開発されたそうですから、ご安心ください、ご主人さま♪」

「いや、それのなにを安心しろと」

 案の定というか……やっぱセクサロイド系だったんだな、この少女。単に人間との区別をするだけのマーカーなら、あえてネコミミやらシッポにする必然がない。世に男が存在するかぎり、そっち系の需要が尽きることはないとゆー傍証か。性風俗関連については、未来予想図通りに技術は進歩していくらしい。

「ともかく、俺はこれから仕事をしないとだし……てか、それはそうと、まずは歯を磨こう」

「は?」

「そう、歯。歯磨き」

 食後は歯を磨く。

 大事なことだ。

 ななごんを促し、洗面所へ移動した。予備用にストックしてあった新品の歯ブラシをおろして手渡す。一本三百円近くする、わりと上等な逸品だ。かつては百均で買った四本セットとかの安物を使っていたのが、あるとき気まぐれで薬局でプチ高級歯ブラシを買って使ってみたら、磨き心地がぜんぜんちがっていてちょっとしたカルチャーショックを受けたことがある。以来、歯ブラシにはわりとこだわるようになってしまった。まあ、どうでもいい話。

「歯磨きの経験は?」

「もちろんありますです。えへへ、ご主人さまとハミガキー♪」

 なぜか嬉しそうに破顔して、ぱくっとブラシを口に咥えこむ。

 ごしごし、ごしごし……

「歯磨き粉、まだつけてないんだけど?」

「はみゃみゃひほ?」

 歯ブラシを咥えたまま、怪訝に俺を見る。最近は歯磨き粉なしでも使える歯ブラシなるものも世にでまわっているらしいけど、ななごんがいた未来ではそういうのがあたりまえに存在しているのかもしれない。歯磨きという習慣自体はなくならないよう。

「だから、これをこうやって……」

 チューブから歯磨き粉を練りだし、実演してみせる。

「わぁ、白いのがにゅるにゅるでて、おもしろいです」

 歯磨き粉のチューブを手渡すと、楽しそうに中身をにゅるんと搾りだし、俺の仕方を真似ながら口のなかでごしごし泡立てていく。

 にしても。

 洗面台の鏡の前に立ち、女の子といっしょにシコシコ歯磨き。目が醒めるような美少女の顔が横にあると、ただでさえなんの特徴もない冴えないオタク顔がますますみずぼらしく不細工に鏡に映って、無性に哀しくなってくる。

「はあ」

 歯磨きしながら、ため息をつく。

 俺を「ご主人様」と呼んで慕ってくれる、無防備なネコミミ少女の出現を素直に歓迎できない、喜べない自分はおかしいのだろうかと、ふと思う。それとも、それで正常なのか? 自分自身が、常識的な思考を有する一般人からかなり偏向した人間なため、そのあたりの基準がよくわからない。

「ふに? ろうしましら~、ほしゅひんらまぁ?」

「……なんでもない。ちゃんと磨いたら、水で口をすすぐように」

 歯磨き粉にふくまれる薬効成分等を洗い流してしまわないよう、すすぎは一回でいいという。けどそれだとやっぱり気持ちが悪いので、結局、二、三回はすすいでしまう。

 ちなみに歯磨きするタイミングは、最近は食後三十分くらいがいいという説がわりと流布している。食後すぐに歯を磨くと、食べ物にふくまれていた酸を歯の深い部分へよりはやく浸透させてしまうから、というのがその理由。あるいは唾液には虫歯を防ぐ成分がふくまれていて、食後しばらくは唾液がでやすい状態にある。なのでこれを洗い流してしまうのはよくないらしい。いわれてみると、なるほどそうなんだと思ってしまう。

 だけれど何年か前までは食後五分以内に磨くことが推奨されてたわけで。食事が終わって数分間は口のなかの細菌が大繁殖しやすい状態になっているから、とっとと洗い流してしまいましょう、というのがその根拠になっていた。これはこれでもっともらしい。

 さらには歯は食後毎回磨く必要はなく、一日一回でいいなんて説もあって……じゃぁ、なにが正しいの? となると、もうわけがわからなくなる。

 で、もうすこし詳しく調べてみると、歯磨きするまでのタイミングはあまり関係ない。大切なのはなにを食べたか? ということ、つまり果物のような酸性の強いものを食したときは、食後すぐ口内をすすいでなるべく中性に近づけておくことが重要ですよ~、……なんて論まででてくる始末で。

 つまるところ世の中には絶対的に〝正しい〟ものなんてありはしないのだ。〝正しさ〟なんてのは、相対的で流動的、社会に属する人々の意識/無意識下に在る共通認識の多寡でしかない──とかなんとか、エセ哲学じみたやくたいもない思考をなんとなく弄んでいるうちに、すすぎが完了。

 あ、そういや今回は食べてわりとすぐ歯を磨いてしまったけど……まあいいか。

「んぺっ……んしょ、んく、んく」

 お隣ではななごんが口のなかに溜まった泡を可愛らしくぺっと吐きだし、小さな手のひらに水を受けて口にふくんですすいでいく。

 そんなしぐさを横目で見ながら、内心「可愛いっ」なんて感想を抱く自分は、はたして〝正しい〟のかやはり考えてしまう。すくなくともオタを自認する人間として三次元の少女にわずかでも心惹かれてしまうのは、けっして正しい心理反応とはいいがたい──なんて思考は、さすがに自分を卑下しすぎだろうか?

「──ぷはぁっ! 磨き終わったです、ご主人さま」

「はい、ご苦労さん」

「じゃぁ、つぎはいよいよ子作りですね、ご主人さま♪」

「そんないよいよは永遠にこない」

「ぷぅ。ご主人さまの意地悪ぅ……」

「それよか、ついでに水まわり関係も説明しとくから」

 歯磨きを終えると、俺は少女をトイレに案内した。べつに邪な意図はない。未来世界のトイレにどういう機能が付加されているのかは気になるところだったけど、現代のものと使用法は大なり小なり異なっているはず。なので、使い方を教えておかないといけないだろうという、常識的判断。

「まあ、バイオロイドが排泄しない仕様なら、べつに教えておく必要はないんだけど」

「排泄ですか? もちろんするですよ。おしっこも、うん──」

「わぁっ、皆までいわなくていいからっ!」

 美少女の口からは絶対にききたくないことばがあわや発せられかけ、俺はあわててことばを遮った。洗浄機の使い方や、使用後はかならず水を流して芳香剤を噴霧すること云々、説明してから──お風呂場に移動する。

「わぁ、シャワーですね、これっ♪」

 お湯のだし方やバスタオルの収納場所等々を教えてあげると、ななごんは瞳をキラキラと輝かせた。ネコミミがまっすぐピィンと突き立ち、お尻のシッポがひょんこひょんこと軽快に揺れ踊る。

「もしかしてシャワー、好き?」

「大好きでですにゃっ!」

 ネコは水に濡れるのを嫌うというけれど、ネコ少女はそうではないらしい。

「この時季だし、わざわざお風呂を沸かすこともないだろうけど。シャワーは自由に使ってくれていいから。石鹸もシャンプーもタオルも」

「そうですか? じゃぁさっそく♪」

「わぁぁぁっ~~! いきなり脱ぐのはNGぃっ~~!」

 躊躇なく服を脱ごうとしたので、こっちが死ぬほど焦ってしまう。ワンピースの肩のあたりがはだけ、鎖骨やノーブラな胸肌が、谷間が、つかのま赤裸に晒けだされてとっさに顔をそむける俺。

「にゃ? ご主人さまも一緒に浴びてくれないんですか?」

「浴びない。断固、拒否する」

「むぅ、ご主人さまってば、やっぱりヘタレです」

「なんとでもいってくれ」

 ヘタレということばの使い方については、意味はよくわからないといってたわりにはじつに的確だ。そういう教育だけはママとやらからしっかり授けられてきたとゆーことか。

「──ていうか、シャワーを浴びる前に、ちょっと質問」

「ふに?」

「いまふと思ったんだけど、ななごんさん、きみ、着替えの服とか……もってないよね? とくにその、し、下着……とか」

 下着とか下着とか下着とか。

「あ、はい。そういうのはご主人さまに用意してもらいなさいって、ママがいってましたです」

「あ~」

 そゆこと、俺に押しつけますか、きみのママは。

「穴あきでも、黒のレースでも、シースルーでも、ご主人さまのよりどりみどり。もちろんノーパンがご希望でしたら喜んで対応しますにゃん♪」

「いや、対応しなくていいから」

 ため息。精神的な虚脱感とゆーか、たぶんそんな感じのネガティブな感覚がず~んと胸の裡に圧しかかってくるのを自覚する

「ま、いいや。着替えのことは、あとで考えよう。じゃ、ごゆっくり」

 思考を前向きに切り替え、脱衣する少女の衣擦れの音を背中に聴きながら俺は仕事場にもどった。


 とりあえずパソコンの前に座って、ななごんの出現でずっと中断していた仕事を再開……しようとして、けれどちっとも集中できずに気がつけばネットのまとめサイトをチパチパ巡っていた。

 気がのらないときはまったく仕事に手がつかないまま、サイト巡りで一日が終わってしまうなんてのは稀にある……たまにある…………よくあること。よくあっては駄目なんだけど、ぶっちゃけ仕事中にエロサイトを見ても誰に咎められることもない。それが自由業の醍醐味か。いや、見ないけど。

「ふぁ~、シャワー、気持ちよかったです~♪」

 三〇分くらいして、ななごんがバスタオルで髪をぬぐいぬぐい部屋にもどってきた。ずいぶんと長風呂もとい長シャワーだった。いや、女の子ならそれくらいはふつうなのか?

「なにをしてらっしゃるですか、ご主人さま?」

 俺の背後に立って、モニタを覗きこんでくる。

「あ、うーんと、仕事……かな」

 電脳世界を彷徨っての情報収集。それも拡大解釈すれば物書きにとっては仕事のうち。だから嘘はいってない。

 うしろをふり仰いだ俺の目に映ったネコ少女は、無性に眩かった。綺羅綺羅してる。シャワーを浴びる前と服装はおなじながら──くびすじやうなじの、肌理細やかな白い肌が火照りをおびて淡く朱に染まっているのが、やけに艶めかしい。バスタオルでは完全にはぬぐいきれず、髪もネコミミも濡れたままくた~となってしまっている。シッポも濡れた毛並みが縮んだまま、ゆるやかなS字を描くように屹立しゆらゆらと揺れている。

 ネコ少女の濡れ髪からは、いつも俺が使ってるメントール系シャンプーの香りがほのかに漂ってきて……なんだかこっちがもの悲しい気分にさせられてしまった。いや、美少女からいい匂いが漂ってくるのはいいんだけれど、ちがう、この匂いはちがうんだぁっ!

 あと、シャワーを浴びたあと、いちど脱いだ下着をまた履きなおしたんだろうなぁ……なんてことを、猥雑な意味ではなく純粋に厳然たる事実として想像すると、さらに哀しくなってきてしまう。いったん脱いだパンツをまた履きなおす気持ち悪さなら、男ならいちどは経験したことがあるだろう。女の子でも、気持ちが悪いのはたぶん一緒なはず。

「さっきいい忘れたけど、ドライヤーが洗面台横の棚にあるから、それで髪、乾かすといいよ」

「どらいやー?」

 これまたはじめて耳にしたことばなのか、ななごんはきょとんとなった。穴あきや黒のレースやシースルーやノーパンということばは知っていたのに……語彙、やっぱり偏りすぎだ。ともかく、千年とちょっと先の未来世界でこのネコ娘の住んでいた〝家〟に、ドライヤーなるものは存在していなかったらしい。タオルはあったようだけど。

「……しょうがない」

 席をたち、洗面所へドライヤーをとりにいく。もどってくると、ななごんを床に座らせ、俺はうしろから熱風を彼女の濡れた髪におくりこんでやった。

「わぁ、熱いです。すごいです、文明の利器ですっ」

「いやそれ、未来からきた人間がいちばんいっちゃいけないことばじゃないかな。てか、未来じゃ、どうやって髪、乾かしてたんだ?」

「え? タオルでふいて、それっきりでしたですよ?」

「マジでよくわからん未来世界だな」

 ドライヤーをななごんの手に押しつけ使い方を教え、あとは自分で髪を乾かすよういいつけ、俺はパソコンの前に座り直した。

 キーボードに手をかけ十数分……集中力が事象の地平線の彼方に吸いこまれてしまったことを自覚する。仕事にならない。ドライヤーの音がいつのまにか消えていることに気づいてふとうしろを見ると。

 じぃ~、じじ~~

 ななごんがスチールラックの前に行儀正しく正座座りして、飼育ケースのなかのカブトムシを眺めていた。口をへの字にぎゅっと結び、真剣に魅入っている。

「えっと……楽しい?」

 席から離れ、ネコ少女の横にならんで膝を落とす。髪もネコミミもシッポもちゃんと乾いてる。さすが文明の利器。

 カブトはあいかわらずバナナにしがみついていた。脚や触覚がもさもさと動いているが、基本、じっとしたまま。一匹だけなので動作か緩慢なだけで、もし仲間が何匹も一緒だったりするともっと元気に動きまわってくれたりするのかもしれない。

「はい、楽しいです、かぶとむしさん。すごくかっこいいです」

 ネコ少女の瞳が無邪気に明るく輝く。なにがそんなにこの娘の心の琴線をゆさぶるのか、いまひとつよくわからない。たしかにオスカブトのフォルムは恰好いいとは思うけど。

「それで、あの、かぶとむしさんがしがみついてるこのドロドロの黒黄色いの、なんですか? なんだか甘い匂いがしてます」

 飼育ケースの上に鼻をかざしてななごんは鼻孔を可愛らしくひくひくさせた。

「なにって、ただのバナナ」

「バナナッ! それって、あの伝説の──」

「──ってほどの食材じゃないから。ななごんも食べる?」

「食べたいですにゃっ♪」

 俺は台所から丸々一本もちだしてきて、ネコ少女に手渡した。さっき歯を磨いたばかりだけれど……まあ、いいか。

「ふわぁ、これがバナナ……記録映像なら見たことありますけど、本物ははじめてです。これ、このまま食べていいんですよねっ?」

 バナナをきゅっと握り締める少女の手が感動で震えてる。瞳がきらんきらんと夢視心地に光り輝いている。戦後まもない時代、バナナがまだ高級品だったころの子供でもここまで無邪気にはしゃいだりはしなかっただろうと思われ。

「いいけど……ああっ、皮はちゃんと剥いてからっ」

 皮ごとがぶりといきかけたのをあわてて制止、バナナは皮を剥いて食べるものだと教えてあげる。

「もぐ、もぐ……ふわっ、ふわわっ、これ、すごくおいしいですっ、ほっぺたがほっぺたがほっぺたが」

 ななごん、パニック。反応がいちいち新鮮だ。乾いたばかりのシッポがヘロヘロしてる。これだけ喰いつきがいいなら、さっきの夕飯にデザートでだしてあげればよかった。俺にとってバナナは、仕事の合間ちょい小腹が空いたときに食べるモノ、くらいの認識でしかない。つか、バナナが伝説の食材と化す未来世界って、いったいどんなディストピアなんだか。想像もできない……というか、したくない。

「……おちついて、ゆっくり食べていいから」

 ネコ少女から離れ、俺はテレビとビデオレコーダーの電源をいれた。今夜はもう仕事にならない。そういうときはパァ~と気分を切り替えて……録り溜めしてある深夜アニメの消化作業にとりくむのは、きっとおそらくもっとも有意義な時間の費やし方だろう。

 アニメにゲームにネットにコミックに読書、フィギュア弄り……等々、オタクが趣味を満喫しようとすると、時間がいくらあっても足りないくらいだ。けれどあくまで仕事が最優先なので、オタ趣味に割ける時間は限られる。

 さいわい俺の場合は仕事がそのまま趣味の延長にあるので、まだ救われているわけだが──ともあれ一年が四半期終わるごと、未消化のアニメが多量にのこってしまうのは避けがたい。いつか観ようと思ってとりあえずブルーレイに焼いておくものの、それで安心してしまって結局観ないまま放置……なタイトルが、すでにどれだけ溜まっていることやら。これを業界では積ん読ならぬ積ん録現象というとかいわないとか。

「さて」

 前シーズンに放映された未消化の一クールアニメが何本かあったので、そのなかからなにを観ようか吟味する。血なまぐさいのやSF系は避けたい気分で、美少女ときゃっきゃっうふふする系もこの状況下ではシャレにならない。

 なのでセレクトしたのは、四コマ漫画原作の日常系ほのぼのコメディアニメ。

 テレビの前にデンとあぐら座りしてリモコンを操作、していると。

「にゃ? ご主人さま、これからなにをするですか?」

 バナナを食べ終えたななごんが、俺の隣にちょーんと座りこんできた。カブトムシの生態観察はもういいらしい。

「なにって、ただアニメ観るだけ。一緒に観る?」

「はいです♪」

「あ、でも、アニメとかドラマとか……観てわかる?」

 とりあえず〝アニメ〟がどういうものかについては、知っているようだった。

「大丈夫ですっ。ご主人さまと一緒に暮らすのに参考になるからって、ママにいわれてたくさん観てました。でも、膨大な記録データの海から、ご主人さまの趣味嗜好を網羅する対象資料を引きあげるのはなかなか大変だったそうです。この時代のオタク文化はごった煮のカオスだそうです」

「はは……そ、そう」

 二〇世紀末から二一世紀初頭にかけてアジア極東の島国においてカンブリア爆発のごとく花開いたオタク文化は、どうやら千年先の未来にもデータ化されて一応はのこっているらしい。最古の同人誌ともいわれる源氏物語が千年先の現代にも読み継がれているのを思えば、じゅうぶんありうることか。誇らしいことなんだか、そうでないんだか。


 一話から観はじめた日常系アニメは、可もなく不可もなくだった。

 本当にほのぼのしていて、萌えを狙った登場キャラたちがほんわか動きまわってのんびり会話するだけで、ストーリー的な起伏がとくにあるわけでもない。なんの繋がりもないエピソードがただ描写されていくだけ。

 面白いかどうかと問われると、微妙と回答してもまだ過大評価かもしれない。けれどまあ、多少のコメディ要素はあって、なにも考えずに呆~っと観るぶんには悪くない。あと、ヒロインたちはみな可愛い。それだけは正義。

 俺でさえそんな感想を抱いたくらいだし、未来からきた少女に内容が理解できるのか? とか、心配になったものの。

 ななごんは喰いいるように画面に夢中になっていた。

「面白い?」

「もちろんです。アニメだから、おもしろいにきまってるですっ」

「……いや、きまってないと思うけど」

 なんだか、前にもいちど耳にしたような回答がきた。

 やはり生まれてからの経験のなさを「~であるはず」「~であるにちがいない」という固定観念で補うことで、俺の前で極力不自然でない言動をとるよう行動パターンが規定されているらしい。さっきからときどき覚えていた違和感の正体は、これなのかもしれない。

 精巧にできた人間そっくりのロボットが、人間のふりをして人間そっくりに痛がってみせたとして──見てる者には、それが本当に痛がってるのか否か、区別はつかない。人工的に造られたバイオロイドだという本人のことばを疑うわけではないけれど、仮にななごんが人間ぽくふるまうようプログラミングされたロボットやアンドロイドだったとして、俺にはその区別はつけられない。

 まあ、本気で俺との子作りが目的で未来からおくられてきたのなら、ロボットやアンドロイドの可能性は限りなくゼロだろうけど。

 いや、子作りが目的というのは、いささか語弊があるか。

 子作りは手段であって、その結果生じるなんらかの事態が、ネコ少女をここにおくりこんだママとやらが意図する歴史矯正もしくは改変的な事象へと繋がっていく……というのが、たぶん〝正しい〟。具体的になにを狙っているのかはさっぱりだし、タイムパラドックスが生じたりしないんだろーかとか気にもなってくる。

 しかるにあれこれ思考を巡らせたところできっと無駄なんだろうなぁと、すでになかば諦観の境地に誘われていく自分がここにいたりいなかったり。なんか面倒なことに巻きこまれた感だけはぬぐえない。

 ちなみに捕捉しておくと、バイオロイドは〝生体〟の範疇で生殖能力を有していて、ロボット・アンドロイドはただの機械というのが俺の解釈。この解釈は多分にそんな的外れではないと思う。

 閑話休題。

 ななごんは頑張って、熱心にアニメを観ている。「おもしろいにきまってる」という思いこみではなく、あるいは本当におもしろいのかもしれない。もとより未来からやってきた少女には、この時代で見るモノ聴くモノ、すべてが好奇と興味の対象なのかもしれないわけで。まして猫なんてのは、もとより好奇心のカタマリのようなイキモノだ。

 とはいえ。

 波瀾万丈なストーリー展開が期待できない作品は、一話を観て、二話を観て、三話を観たあたりから、もうお腹がいっぱいになってくる。アニメ好きなオタクとしてはあまりいいたくないことばだが、「飽きた」。俺ですらそうなのだから、思いこみだけで頑張って観つづけていたネコ少女の集中力だってそう長くはつづかない。

 こてん☆

「を?」

「くぅ、すぅ……」

 タンクトップのシャツから剥きだしになった俺の肩に、ふにゃっとやわらかな頬の感触と人肌のぬくもりが不意に伝ってきた。俺の全身に過剰な緊張が貫き走る。いや、大袈裟な表現でなく。異性との身体接触に馴染みのない俺としては、こういう場合どう対処すればいいのかパニックレベルでどうにも判断に迷ってしまう。

 ここまで本人の表情や言動からはあまり感じとれなかったけれど、未来世界から片道通行の時間遡航で過去にやってきた少女が精神的な疲弊や負担をまったく覚えてないわけもないわけで。となるともちろんこのまま寝かせておくのがいちばんだろう。なのだが、いつまでも無防備にもたれかかられたままだと、俺の心の安寧が保てない。

「ななごんさん、ななごんさん」

 数刻の逡巡のあと、大きく深呼吸をして──俺は思いきってななごんの肩に指をかけて軽く身体を揺すった。自分から女の子の肌に触れることすら、俺にはかなりの勇気が必要な行為だ。

「ふにゃ……?」

 可愛い寝惚けまなこがとろんと俺の顔を見あげてくる。

「眠たいなら、寝床、用意するけど?」

 俺の汗が沁みた万年床に寝かせるつもりはもちろんない。となりの寝室の押し入れのなかに予備の布団がワンセットあったはず。そいつを引っ張りだそう、そうしよう。

「ねどこ……? ということは、いよいよ子作りするですか、ご主人さま?」

「しない」

 それだけは断固として否定。

「むぅ、それじゃぁ、わたしのねどこはここでいいです……むにゃ……♪」

「お、おいっ?」

 もたれかかっていたななごんの頭がずるっと落ちた。あぐら座りしていた俺の大腿部に、ネコ少女の上半身が倒れこんでくる。シャンプーしたての流麗な髪が末広がりにこちらの脚にふぁさっと絡みつき、少女の頬が、こめかみが、俺の太ももとゆーかほとんど股間位置にぎゅっ~と強く密着してくる。

「ふにゅ……すや……ご主人さま……くぅ、すぅ……」

 俺の太もも──あえて股間とはいわない──を枕かわりにして、ななごんはすっかり安心しきった様子でたちまち寝息をたてはじめる。

「……いったい、どうしろと」

 どうにもならない。


 ……で、結局。

 ネコミミ少女を〝膝枕〟したまま、俺はますます緊張が強いられ身動きがとれなくなってしまったあげく、いまひとつ起伏のない日常アニメをその気もないのに四話、五話とやむなく観つづけた。

 これだけ直に煽られてもなお手をだせないおのれのヘタレっぷりに煩悶としつつ。

「くぅ、すぅ……ふにゃ、ふにゅ……」

 ななごんが完全に熟睡モードにはいったのを確信すると、俺はようやく意を決しておのれの脚というか股間を少女の頭の下からそっと引き抜いた。ネコ少女の身体を、頭を、いったん床に静かに慎重に転がしておいて、寝室に移動する。

 未組み立てのプラモやフィギュアの空箱等々でぎゅう詰めになった押し入れの奥を漁って、圧縮袋に収納されてぺしゃんこになった敷き布団とタオルケットを発掘、仕事場に運ぶ。床に散乱するオタグッズを適当に部屋の端に寄せて空間をつくり、圧縮袋を開封、布団を敷いた。

「……ここまではよしとして」

 厄介なのは、床に直に文字通り寝っ転がしたままのネコ少女をどうやって布団の上まで移動させるか。お姫さま抱っこ的に少女の身体を抱きあげる? いやいや、俺には絶対無理無理無理。

 おこさないようそっと注意しながら、なんとかがんばって彼女の身体を布団のところまで引きずっていく? おそらくそれが妥当なところだろうけど、少女の身体に触れようとする行為自体が、俺にとっては鬼門というか躊躇と逡巡の対象になる。

「いいのかな。勝手に身体に触れて……」

 いや、いいにきまってる! と、俺は自分にいいきかせ、勇気と気力を発揮しネコ少女の背中の下に腕をさしいれた。女の子の身体のやわらかさに戸惑い感動しつつ上半身をいくらかもちあげ、そこからさらに両脇に腕をいれて羽交い締めのような恰好にする。

「ふにゃ……くぅ、すぅ……」

 まったく目覚める気配のないななごんを慎重に引きずっていくと……ノーブラな胸の隆起がふよんと波打つように揺れて目の毒というかなんというか。ついそっちに視線がむいてしまいそうになるのを懸命に目を反らしつつ、うっかりワンピースの襟ぐりからハミだしてしまわないように……と、そういう注意も払いながら引きずり引きずり、なんとか布団の上に載せあげ完了。

 たいしたことはしてないはずなのに、まるで大仕事でもしたような妙な疲労感が心身にず~んと圧しかかってくる。

「さて」

 クーラーを省エネモードに設定しテレビとレコーダーの電源を落とすと、俺はパソコンの前に座った。夜型の生活に慣れた身にとって、これからがもっとも思考が活性化する時間帯。なので中断したままになっていた仕事を少しでも進められないか……と、キーボードに指をかけてはみたものの。

「……まあ、無理だよな」

 ネコミミ&シッポが生えた美少女の寝息が背中ごしに閑かに聴こえてくるこの環境下では、集中力などゴミのようなもの。俺の仕事部屋に若い女の子がいるこの状況自体がすでに異常事態すぎておちつけない。

 ちらっと背後に視線をむけると、ななごんは布団の上で本当にネコのように背中を丸めてすわすやと眠っている。お尻から伸びたシッポもいまはくるりと丸まっている。はだけ気味のスカートの裾からはすらりとした白い太ももが覗いてて、やっぱり目の毒なのであわてて視線を反らす。

「……くぅ、すや……すぅ、ふにゃ、ふにゅ……♪」

 頭に生えてるネコミミがときどきピクピクっと動くのは、なにか楽しい夢でも視てるからなのか。

 にしても美少女は寝顔もやはり可愛い。相手が熟睡しているのをいいことに、つい椅子から離れてななごんのそばに膝を落として覗きこんでしまう。

 まさかこんな可愛い女の子の寝顔を直にマジマジと観察できる日がくるとは……

 いやいやっ、一生二次元世界に骨を埋める覚悟で生きてきたこの俺が、リアル次元の少女に見惚れるなど、けっしてあってはならないこと……!

 なのだがどう見てもこの娘の容姿は二次元世界から飛びだしてきたとしか思えないわけで、すべては彼女を俺のもとへおくりつけてきたママとやらの思うつぼなのか──

「ふぅ……ぅにゃ……」

 ごろん

 不意にななごんが大きく寝返りを打った。

 はだけかけていたスカートがさらに大きくはだけ、おまけに豊かな胸がぷるんと弾み──俺はあわててそばを離れ、またパソコンの前に座った。

 うーむむむ、彼女の服と下着、なんとかしないと……そう思いつつ具体的にどうすればいいのかわからず途方に暮れる。

 で、気がつけば某大手通販サイトや専門サイトでティーンむけ下着を熱心に検索&チェックしている自分がいたりして、しかるにサイズがわからないことを言い訳にポチる度胸がもてないまま延々と煩悶しながらつらつらとパソコンの前ですごし、さらにまとめサイト経由でオタクサイトやニュースサイトを巡って現実逃避しているうちに真夜中の三時越え。

「……そろそろ俺も寝るか」

 さすがに眠たくなってきたので、電源を落としてパソ前から離れた。

「……すぅ……すぅ……」

 華奢な身体を丸めた恰好でななごんは穏やかに眠っている。オタクな男の部屋でまったくもってけしからん姿で安心しきった表情で。はだけきったスカートから白い太ももと水縞の下着がモロ見え状態で、俺はあわててタオルケットをかけ直してやる。

「まったく。精神衛生に悪すぎるだろ、この状況」

 先行きのことを思うと不安しか覚えない。ため息をつくと、俺は風呂場でなまぬるい水のシャワーをさっと浴びて汗を流し、寝室に移動した。カーテンは締めずに窓全開放、少しでも風を取りいれる。網戸があるので蚊ははいってこないはずだが、ヤツはどこからでも忍びこんでくるのでいまいち信用ならない。部屋の明かりはつけず手探りと勘で扇風機のスイッチをオンにして、万年床にごろりと横になる。蒸し熱い夏の夜、膚に直にあたる扇風機の風が心地いい。

 汗を吸った薄い敷き蒲団にあおむけになり、真っ暗な天井をぼんやり見あげる。精神的疲弊がそれなりに強くて眠気はおぼえるものの、いざ眠るとなるとわかっていたことだがとなりの部屋でネコ耳美少女が眠っている事態を意識しやはりそう簡単には寝つけない。

 それでも、ぎゅっと目をつむって脳内で思考を懸命に無にしようと努めているうちに、うつらうつらと……

「……ふにゅ、ご主人さま……♪」

「うわぁっ!」

 やわらかな声が降ってくると同時にふにゃとした感触が腰のあたりにのしかかってきて、たちまち目が醒めた。

「お、おい……むこうの部屋で寝てたはずだろ……」

「ご主人さま、ひどいです。どうして一緒に寝てくれないですか?」

「い、一緒にって……」

 俗にいう騎乗位だった。

 窓からさしこむかすかな月明かりと星明かりが、俺の上にまたがるネコ少女の姿をおぼろに浮かびあがらせる。半眼開きの眠たげなまなざしが、いくらか不満げに俺の顔を見おろしていた。

「ふと目がさめたらご主人さまの姿がなくて焦ったです。ご主人さまが眠るときは、かならず添い寝してさしあげるようにって、わたし、ママからいわれてますにゃ」

「いや、しなくていいから」

 そんなことされたら、ますます眠れなくなってしまうは必定。

 少女の体重が俺の腰のあたりモロに圧しかかり、やわらかな太ももが密着してくる。

 この感触は、この体勢は、さすがにまずい、本気でまずいっ。動揺と困惑で俺の胸中は恐慌状態、股間は俺の意志とは関係なくドクドク巡ってきてしまうとゆーか!

「ご主人さまがどんなにヘタレでも、添い寝をすれば一発でその気になってぜったい子作りに励んでくれるって、ママはいってたです」

「いや励まないし、そんな誘惑には乗らないから。つかキミのママ、俺をかいかぶりすぎ。俺にそんな度胸があるものかー、はっはっはっー」

 ……わぁ、自分でいってて空しい。

「なので、おとなしくとなりの部屋の寝床にもどってくれないかな、ななごんさん?」

「いいじゃないですかー、ご主人さま♪ 今夜は添い寝でご奉仕させてくださいにゃ」

「ご、ご奉仕って……」

 いったいどんな知識と教育と常識をママにつめこまれてきたのかと、ここにいたってあらためて小一時間っ!

「ん♪ ご主人さまの匂い……」

 騎乗位で俺にまたがるネコ耳美少女が上半身を倒れこませ、鼻先をこちらの首筋にすり寄せてくる。すんすん鼻孔をヒクつかせ、オタ男の体臭を嗅いでうっとりとなる。少女の生あたたかな吐息が膚にねっとりと吹きかかってくる。

 おまけに豊満仕様なノーブラの胸が、身を倒れこませることで重力に引かれて下方に垂れて、ダイレクトに俺のみぞおちから胸元のあたりに触れてくるとゆーか密着してきて……うわっうわっうわっ!

 この感触は、女性経験皆無な男には凶悪すぎるとゆーか、なんとゆーか桃源郷的心地に理性が理性がっ☆ やわらかいっ、ふにふにっ……てかこれ、もはや添い寝のレベル越えてるしっ。

 このままだとさすがに俺の理性も崩壊の危機──ムラムラする感覚と自分との戦いがいままさにはじまるっ! てか、そもそもななごんは子作りを期待してるわけだし、このままこの密着してくる女体を抱き締めていっそ──!

 ──と、一大決心をしてななごん背中に手をまわそうとしてみたものの、両腕を斜め上あたりに突きだしたあたりでぶるぶる震えてしまって筋肉も関節も硬直。俺のヘタレぶりを再認識させられてしまうばかりで。

 くっそー、こうなったら数式だっ! 難しい数式を頭のなかで考えて、理性の平静化に努めるべしっ! 1×1=2、1×2=2……

「まてっ、九九がおれには難しい数式かよぉっ! てか、なんで1かける1が2っ!」

 思わず声にだして煩悶してしまった俺だが、ななごんは無反応。

「……くぅ……すぅ……ぴぃ……すぅ……」

 俺にのしかかるように身を倒れこませ首筋に顔を擦りつけた恰好のまま、安らかな寝息をたてている。なんとゆーか、ほっとしたような口惜しいような。

 寝ちゃったのならもはや手をだせる余地もなく、 必死に自制しながら俺もあらためて眠りにつくことにした──わけだが。

「暑い……」

 扇風機がまわってるだけの夏夜の屋内である。

 美少女に添い寝されるのは客観的に判ずれば十分に嬉し恥ずかしい状況ではあるのだが……これだけくっつかれるとさすがにいろいろたまらんっ。

 汗をにじませた少女のなめらかな肌が、おなじく汗まみれの俺の膚と密着して粘りついてくる。これこそまさに、官能的という言葉で表現されうる感触ではないだろーかと一考察。実際、俺の裡に残存する男の獣性がかなり煽られる感覚ではあるのだが──ヘタレ草食男子がいくら一念発起したところで肉食系に転じられるわけもない。

 けっして解消されることのない悶々とした焦燥と暑さに苛まれ俺はそのあともまったく寝つくことはできず──そのあいだ、ななごんは寝返りを打つこともなくずっと俺にしがみついたままだった。

次回更新は……未定です。

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