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step05 夕焼けの廊下と、クラス名簿

 図書館の窓から入り込む黄金色の光は赤みを増し、迷路のように入り組んだ書棚に、墨を塗ったような陰影を生んでゆく。


「そろそろ閉館のお時間ですよ」

 本を小脇に抱えた司書のミカリアさんが通りかかり、静かに告げる。

 メガネにキッチリとしたまとめ髪。身に纏う紫色のローブは教会の司祭様と似たようなデザインだ。

 司書という職は、叡智の神が授けて下さった「神聖なる書籍」を扱う聖職なのだとか。


「あ、はい」

「もうこんな時間なのね……」

「集中してたから、あっという間だった」


 気が付くと、時刻は4時45分。閉館の時間が迫っていた。メルハートとおしゃべりをしていると、時が経つのを忘れてしまうのは、ちょっと不思議な気がする。


「今日はここまでね」

「うん、帰ろうか」


 僕とメルハートの放課後の秘密の魔法の勉強会も、今日はお仕舞いだ。


「また、明日も教えてよ」

「いいわよ、そのかわり……ちゃんと復習(・・)をすること。わかった?」


「そこまで先生みたいじゃなくても、いいんだけど……」


 確かに魔法を教えてと言ったけれど、本格的過ぎやしないだろうか。すっかりやる気満々のメルハートに気圧されつつ、作り笑顔を浮かべる僕。


「ウィズ専任の先生になった以上は、きっちりするわ。私の性分だもの」

「うぅ……わかったよ」

 その言葉にメルは頷くと、魔法の本を閉じ、鞄に仕舞いこんだ。


 メルハートは昔から、やるとなったらとことんやる。

 小さいころに付き合わされた「おままごと」遊びも、「役作り」で何度もダメ出しされたっけ……。


 僕たちは二人で図書館を後にした。そして長い渡り廊下を通り、教室の並ぶ別棟へと向かう。学舎の出入り口は教室の有る棟の正面にあるからだ。

 僕達の通う王立中等学舎は、ヒースブリューンヘイム王国に沢山ある学び舎の一つで、街の中心部から少し外れた場所に建っている。


「お腹すいたわ」

 鞄を両手で持ちながら、くるりと振り返るメルハート。言いたいことは顔に書いてある。


「……僕がおごるんだっけ?」


「もう帰ったら晩ごはんだし、今日はいいわ。こんどにしてもらうから」

「あ、そう?」


 少しホッとしつつ西側の窓から外を眺めると、ヒースブリューンヘイム特有の高い塔の群れが、無数に建ち並んでいる。

 それらは、僕達が通っているような「渡り廊下」で結ばれていて、立体的な迷路のように街を形作っている。

 空には大きな飛空艇や、小型の空飛ぶ馬車が、いくつか浮かんでいた。そのどれもが西日を浴びて、果実のように色づいている。


 反対側の東の窓から眺めると、郊外に広がる麦畑と、その間を縫うような道、その両側には小さな家々が無数に並んでいる。僕とメルハートの家もあの辺にある。


 渡り廊下を通り教室棟へ入ると、生徒会の先輩や、文化系の部活をしている生徒たちとすれ違う。

 と、古びた廊下から教室の窓が見えた。僕達中等部の三年生が通う教室は、全部で4つ。


「ねぇウィズ。3年生の生徒が何人いるか、覚えてる?」


 メルハートが不意に足を止め、ごく普通の質問をした。


「それは大丈夫。120人でしょ? AからDまで各クラス30人ぴったり」


 なんでそんな事を聞くのだろう? 僕は記憶を一部無くしたけれど、そんなことぐらいちゃんと覚えている。


「じゃぁ今日のおさらいを兼ねて……クイズだよ」

 メルハートが何かを思いついたみたいだった。ちょっとだけ顔を近づけて、僕の瞳を下から覗き込んで人差し指を立てる。長いまつげに縁取られた、少し切れ長の瞳が瞬く。


「えと、『生徒名簿』には、名前、性別、所属クラス名が記されています」


「そっか、生徒名簿も生徒についての属性(・・)の集まりだものね」

「そう。120人の生徒がそれぞれ、自分を表す属性が有るの。当たり前よね」


「そこで、問題です。『生徒名簿から、女生徒だけの名簿をつくりなさい』……どうウィズ、わかるかしら?」


「女子だけの……?」


 女子だけの名簿があったら、どんなに素敵だろう? ずっと眺めていたい気分になる。


「可愛いとか、髪の色とか、そういうのは無いから! ってかなんでポケーとしてるのよ!?」


「あっ? ごめ。えぇと……女子のクラス名簿ね。それを例の『select』で作ればいいのね?」

「そういうこと。実際に名簿は手元にないけれど、思考実験ね」


 メルハートが歩き出した。数歩進んで、僕の答えを楽しみにしているように、くるりと振り返る。


「えぇと……多分」


 ――select * from 『生徒名簿』

   where 『性別』=『女性』

 

「セレクト アスタリスク フロム 『生徒名簿』 フエア 『性別』 イコール 『女性』……!」


「……正解! 確かにその術式(・・)なら、女生徒だけの名簿が出来るわね」


 メルハートが眉を持ち上げて、驚きと賛辞の混じった薄い笑いを浮かべる。けれど、どんなもんだ。僕だってちゃんと教えてもらえばできる。


「じゃぁ次は、Bクラスだけの女生徒の名簿にしてみてください」

「あ、それもわかる。『and』で条件を足せばいいんだから……」


 ――select * from 『生徒名簿』

   where 『性別』=『女性』

   and 『クラス名』=『B』


 ほら、こんな風に、最後の『and』と続く条件文がポイントだ。


「凄いじゃないウィズ! 私の教え方が天才的なのね!」

「おいっ!?」

 思わずツッこみを入れる。廊下に長く伸びた僕ら二人の影は、歩く度に重なったり離れたり。そんなことを繰り返していた。


<つづく>


【ワンポイント】

 今回は、おさらいですね。


 いままでの総括です。


 選び出す『select』文

 対象となる物を示す『from』句

 条件を絞る『where』句

 情報を絞るためにの条件は『and』を使って重ねてもOKですよ。


 さぁ、ここまでわかったら、レベル1はクリアです。


 選び出す『select』文はレベルが上がるごとに少しずつ難しくなりますが。。。でも大丈夫。


 メルハートが優しく? 教えてくれるはず。


 つづきをお楽しみに。

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