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4話感情の差異

ボロボロの身体なのにもかかわらず立ち上がるイシルクを見てもゼルンクは動じなかった。いや、わかっていたのだイシルクがこの程度で諦めるはずかないと。

彼は知っている。

(イシルク。おお前は俺よりも才能がある。)

彼は知っていた。

(だが、お前は誰にも教えもらってないゆえに鍛え方を知らない。)

彼は、思う。

(この戦いの中で、身に付けてみせろ!!)

「ガァァァァァァァァァァァ!!」

イシルクは、獣の如く声を張り上げゼルンクに向かって突っ込んでくる。ゼルンクは突っ込んでくるイシルクを見ても動かない。イシルクは身体を捻りながら右手を強く握り全身を使った一撃を繰り出す。

ゼルンクはそれを最も簡単に避け、避けきった瞬間に伸びきったイシルクの肘を両手で掴み両手で振り上げる。巨大化したイシルクの身体はまるで枝のように持ち上がり地面から足が離れる。

「ふん!」

ゼルンクはイシルクを地面に叩きつけた。イシルクはそれを背中から受ける。ゼルンクの腕の力とイシルクの体重と重力が合わさった一撃は叩きつけた周りの地面が数十メートルとヒビが入り、地面がめくり上がる。

「あっ!?がっはぁ!!!」

「動きが単調すぎる。そんなもの避けてくださいと言っているようなものだぞ。」

「クソたっれぇ!!」

イシルクは両手を地面につけ力を入れ自身の身体を飛ばし両足で蹴る。それをゼルンクはイシルクの足を腕で抱え込むと自分の身体を中心にして回り両手を離す。イシルクの身体は凄い早さで渓谷の壁に当たった。

渓谷の壁は深く抉れその中心からイシルクの身体が地べたに落ちる。

「うごぉ!!はぁ・・・はぁ・・・」

「自分から機動力を犠牲にするとは愚の骨頂。まず、避けられたり今のように防がれたら反撃なんぞできんぞ。」

「ガァァァァァァァァァァァァ!!!」

イシルクは怒っていた。

父親にではなく無力な自分に怒っていた。自分のやりたいことすら満足にできないことに嘆いていた。自分の今までの修行の成果がまったくでないことに絶望していた。そして、父親の隠す優しさがとても悔しかった。

(くそ!!何で、何でだ!?)

イシルクもわかっていた。いや、わかってしまった。父親が本気を出していないどころか敵とすら思われていなかったことにさえ彼は気づいてしまった。父親と自分との力の差は理解していた。けれど、それでも自分も努力しており少しは戦えると自負していた。

今日までは。

だが、現実はまったく歯がたたなかった。自分の考えた技は避けるか受けとめられてしまった。それどころかその技の欠点を教えてくる。

父親は戦っているのではない自分を鍛えている。

敵してではなく子として見なれていることが酷く恥ずかしかった。

(違う!!そんな目で見ないでくれ!!)

父親の愛おしく誇り高いと向けられる目が彼の心に痛みを植える。

(俺は、父さんに鍛えてもらう為にここにいるんじゃない!!)

「アァァァァァァァァァァァ!!!」

イシルクは吠える。怒りや哀しみ様々な感情をのせて。彼は戦う。自分の努力を否定されない為に。

イシルクはゼルンクの脇腹を狙った右蹴りを放った。その蹴りはあっさりと掴まれるがイシルクの想定の内だった。イシルクは軸足に力を入れ地面を蹴る。その反動を利用しゼルンクに向けて2連目の蹴りを入れた。この技はイシルクが考えた独自の技の中で1番、自信のある技だった。イシルクの左足はゼルンクの顔を正確に捉えた。鋭い衝撃音が響きイシルクは決まったと思った。

(これで・・・・)

しかし

「今もは、良い蹴りだった。だが、まだ軽い。」

現実は甘くなかった。

「そんな・・・」

彼の中に絶望が広がる。自身の努力。自分への自信。それが、今、崩れ去った。

彼の目の前に黒い影見えそして、強い痛みの後に意識を失った。









イシルクが目を覚ました時には日は暮れ夕焼けになっていた。痛む身体を摩りながら身体を起こす。

「起きたか。」

今、1番聞きたくなかった声がイシルクの近くで聞こえる。声のする方へ向けるとゼルンクが両手を組みながらイシルクを見ていた。ゼルンクを見て歯をくいしばる。

「いい闘いだった。」

彼に今、1番言ってほしくなかった言葉が彼に突き刺さる。

「いい闘いだった・・・だと?」

イシルクの中の黒い感情が溢れ、心という杯から溢れ落ちる。

「ふざけるな!!いい闘いなものか!?」

「・・・・イシルク?一体どうした?」

「あんたは、本気を出していなかった!!いや、闘いすらなっていなかった!!あんたがやっていたのは俺に教えていただけだ。

違う違う違う違う違う違う!!!俺がやって欲しかったのはそんなことじゃない!!俺はあんたにちゃんと闘って欲しかった!!本気を出して自分を叩きつけて欲しかった。なのに!!あんたは、優しく欠点を言ってきた!!俺の努力を否定してきた!」

「イシルク・・・違う!俺は・・・」

「楽しかったか?自分の息子を鍛えるのは。約束を破り父親面して俺をコケにするのは!!・・・俺は許さない!!」

そう言い残してイシルクは走る。その姿をゼルンクは呆然と見ていることしかできなかった。

こうして、1つの親子の闘いは最悪の結末となりそしてこの村から1人の若者が姿を消した。

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