3話丘の上で
渓谷の抜けた先の丘は、イシルクが修行の場としていた場所と反対側にあった。修行の場は木々で生い茂っていたが、丘は辺りは草原地帯となっており渓谷の別の1面を見せていた。その丘の中心に2人の巨人族が相見え1人はゼルンク。何事ないように立っているが対面するイシルクには全身に緊張感が漂っている。
「きちんと鍛えたか?」
「あぁ。」
1週間という期間、イシルクは自分に出来ることを全てやりきったと思っていた。
「そうか。では、いくぞ。ウォォォォォォォ!!!」
ゼルンクは獣の如く声で吠える。その声は渓谷に響きわたる。
魔力というものをご存知だろうか。
魔力とは、精霊、人種族、魔物、全ての生き物に存在し生命に重要な一部となって身体に巡っている。そして、その魔力を使い生物はあるモノを作った。それが、魔法である。この魔法を使うようになって人は文化を形成する鍵となり、精霊、魔物は自分の力を高め、今にいたるのである。しかし、巨人族の祖は、魔法を使うことは出来なかった。彼らの中に流れる膨大な魔力を外に出すことができなかったのだ。巨人族の祖となる者たちは自分たちが生き残るためにどうすればいいか必死に考え、ある答えに行き着いた。
外に出せないのなら中で力を高め大きく頑丈な身体にすればいい。
魔力に力を入れ、身体を大きくし頑丈な身体を作ることで身につける力を手に入れた。これが巨人族となるのである。
ゼルンクの身体は、見る見るうちに大きくなり25メートル越える大男となった。
(流石だ父さん。でも負けていられない)
魔力の多く強い者ほど身体が大きくなる。25メートル越える身体となったゼルンクは、正に強者と言えるだろう。
「オォォォォォォォォ!!」
イシルクの身体も大きくなり15メートルに達した。この時点で実力の差は歴然である。しかし、イシルクには諦めるつもりは一度もなかった。両手の拳を強く握り構える。
「俺を一度でも地面に背をつけたさせたらお前の勝ちだ。」
この言葉は、圧倒的な実力の差から出たハンデだった。
「オオォォォォ!!」
イシルクはそれに咆哮で答えた。全力で走りゼルンクの足に向けて右足蹴りを繰り出す。ゼルンクは、それを跳躍して避け、蹴りを避けられ隙だらけのイシルクの顔に右足で蹴りつけた。
「ぐふ!?」
顔を蹴られた衝撃でイシルクの身体は大きく跳ね、それにより大きな土煙が起きる。
「どうした?話にならんぞ。」
「アァァァァァァァァァァァ!!」
イシルクは、起き上がると直ぐにゼルンクに向かって右拳を繰り出す。
「ふっ。」
ゼルンクはそれを容易く避ける。しかし、イシルクはすかさず跳躍し10メートル上にあるゼルンクに左アッパーを繰り出した。アッパーは、ゼルンクのアゴに直撃しゼルンクの顔が上に向く。
「セィヤァァァァァァァァァ!!」
ゼルンクの隙だらけとなった身体にイシルクは拳の連打を放つ。
殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って我を忘れるほどイシルクは殴り続けた。
しかし
「もう終わりか?」
ゼルンクの身体には傷がつくどころか痛みさえも感じていなかった。逆にイシルクの手は己の血で赤く染まっている。
「連打とは、闇雲に打てばいいのではない。一撃、一撃に重みを込めなければ意味がない。こんな風にな。」
ゼルンクの拳がイシルクの肩にめり込む。イシルクが声を上げる間もなく次々と拳がイシルクを襲う。自分の打った連打とは雲泥の差の暴力の嵐。これによりイシルクの身体はゼルンクが打ち終わると同時に後ろに倒れこんだ。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ。うげぉ、はぁ、はぁ。」
イシルクは最早、息をしているのがやっとだった。
「どうした?お前の夢とやらはこのぐらいで倒れる程度でしか無いのか?」
イシルクは反論ができなかった。
「この世界を見てみたい。大層な夢だ。だがな、この世界には俺以上に強い魔物や敵がごまんといるぞ。そんな世界の中でお前はどうやって身を守る?」
彼の言い分は酷く正しい。生と死が曖昧なこの世界では自分を守るには力が必要であり力無き者は淘汰されるだろう。
「それっはぁ・・・はぁ・・・でぇ・・・もぉ!!」
碌に息もできない状態にも関わらずイシルクは四肢に力を込める。全身に殴ら痛みが疼き、諦めろと身体が追い打ちをかける。
しかし
「俺は世界が見たい!!」
彼は立ち上がる。