13話巨人と奇妙な老人
日が西の山に隠れる頃にはサワンたちは戻り依頼主に証明となる物を袋に詰めて持っていった。
「うぇ、なんだこれ?」
依頼主に見せたのはゴブリンの右腕とは思えない赤黒い物体で依頼主は気色の悪い顔をする。
「ちと、いろいろあってな。こんな感じになっちまった。」
「確かめる部位は右腕って聞いたけどこれが、そうなのか?」
「そうだと言いてぇがまぁ、むずいよなこれだと。」
「・・・まぁ、何となく俺が見た奴に似ていた部分があるから依頼達成でいいさ。・・・ほれ、証明書。」
「悪いな。感謝するぜ。」
「いいってことよ。その代わり、また、あいつらきたらよろしくな。」
依頼主から証明書を貰いギルドに届けて何とかイシルクの初の依頼は無事成功となった。初の依頼達成をして少し感激しているイシルクを他所にサワンたちは困った顔を互いに見合わせる。理由は明確で今回の依頼でイシルクとの意思疎通がうまくいかなかったことだった。
「これは、まずいよなー」
「ええ、早くにこの問題を解決しないと今回は運良く達成ということになりましたがこれが続くとは考えられません。」
「そうねー。何とかしてイシルクが言葉を覚えてもらわなきゃ。」
「でも、どうすんだよ?俺たち巨人族の言葉わからねえぞ?」
「それに、あたしたちじゃ教えてあげるほどの学があるわけじゃないしね。」
4人はどうすればいいか頭をひねる。
「だなー、巨人族の言葉も理解してる教えるのも上手い人かー」
「それで?私のところに来た訳ですか。」
場所は、エルナカーラ南東に位置にある高い塔。学者たちが集うこの塔を人々は学びの塔と呼んだ。そんな学びの塔の3階の一室にサワンたちはいた。イシルクは塔に入れないため外で待機している。部屋で彼らと対峙する女性は前に依頼した女性学者のミアハだった。
「はい。頼めませんかねぇ。何せ俺らは巨人族の言葉は理解できないんで。」
サワンは頭の後頭部を掻きながらミアハに頼む。
「まぁ、確かに・・・巨人族の言葉は特殊ですからね。」
種族特有の言葉は存在するがそれは主流となる現代語に毛が生えた程度あり他者でも理解することはできる。しかし、巨人族の言葉は独特になっており理解することができない。また、何百年も姿を現さなかったのも1つの要因となっていた。
「うーん。」
「やっぱ・・・無理・・・ですか?」
「すみません。私はまだ、人に教えられる身分ではないので・・・」
「そうか・・・」
「・・・ただ。」
「先生なら・・・」
「先生?」
「はい。私が師事している先生です。先生なら、イシルクさんのこともどうにかなると思いますよ。」
「なるほど!!では、その先生に頼んでみます。先生はどちらに?」
「あーまだ、昼食を取りに行ってから戻ってないんですよね。あの人自由人ですから。・・・ん?」
そう話していると外が騒がしくなり何事かとサワンたちは窓を開けて下を見た。
学びの塔の入り口でイシルクは座ってサワンたちを待っていた。
(遅いなーー)
チラチラと好奇の視線で見られこちらが見るとゴブリンのようにすぐに隠れる。これを何回を繰り返しイシルクは精神的に疲れていた。
(まだかなー)
「ほぉほぉほぉ!!本物じゃ!!本物の巨人がおる!!これは、素晴らしい!!実に良い!!」
突如、髭を生やした初老の男性がイシルクの目の前で騒ぎ始める。
(なんだ?・・・)
「おぉおぉ!!いかんいかん。ちゃんと巨人族かどうか確認しんとな!バ ラナシーラ ティレイア?(おまえさんは、巨人族か?)」
「エラナ クーシャ!?(言葉わかるのか!?)」
イシルクは巨人族の言葉で興奮したように返した。
「ほぉほぉ。やはり、通じておるな。となると儂の理論も間違っておらんとみた。・・・はははは!!ざまぁまみろ老害共!!てめぇらが頭がなしに否定した理論は真実となり始めてるぞ!!」
老人は、突如声を荒げ空へ叫ぶ。
「・・・大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃよ、ちと興奮しただけじゃ。それよりも、お前さん名前は?」
「イシルクです。ご老人」
イシルクは微かに記憶にあるどこかの文化も知らない礼節をもって老人に名乗る。
「ふむ。なかなか、礼儀正しいのぉ。そこらの馬鹿よりもマシじゃな。儂の名は、カヌム。しがない学者をしておる。それでな、イシルクよ。おぬし頼みがあるんじゃ。」
「なんですか?」
「儂はの古代王朝の研究をしておる。」
古代王朝。
神々が去る時に神々が1人の人間を王とした最初の国として神話に記されていた国である。その痕跡と思われる建造物は現在にも多く残されていた。
「長年の調査の末、儂はある仮説を立てた。それは、巨人族と古代王朝は密接な関係があると。・・・だが、その仮説を発表しても巨人族など神話の中の架空の種族でしかないと一蹴されてしまった。しかし!!それも今日で終わった!!その巨人族は現に儂の前に!!おるのじゃから!!」
「でっでも、俺はその王朝?のことは何も知りませんよ。」
興奮して話すカヌムにたじろぎながらもイシルクは質問する。それを聞くとカヌムはくっくっと笑う。