9話その後の話
「えっと、それではイシルクさんの指導係はチーム雲海が行うということでよろしいでしょうか?」
「ああ。それで、頼む。」
ノレームとの一件の後、サワンたちがイシルクの指導係となることで決定していた。というのも、イシルクがノレームの骨を折る場面を見ていた他の冒険者が同じ目にあうのは嫌だと拒否していたからだった。ノレームは決して名ばかりの者ではなくそれなりに実力を備えていた一流の冒険者だ。そんな一流の冒険者を不意打ちとはいえ捕まえて両手をへし折った危険人物の近くにはいたくないと思うは自然といえるだろう。
「ほら、イシルクもいい加減元気だしなよ。」
アクルが声をかけた先には両足を抱えた姿で顔をうずめるイシルクがいた。イシルクは続く負の連鎖で彼への精神へのダメージが深刻になっていた。
「そのうち、誤解が解ける日が来るさ。安心しろよ。なぁ?」
「ほんとぉか?」
「あぁ・・・いつかな・・・」
サワンの言ういつかとは果たしていつなのかは本人も知らない。しかし、サワンの言葉はイシルクを心を癒してくれた。
「さてっと。宿を探しにいくかね。」
「じゃあ、私はここで失礼しますね。依頼、ありがとうございました。」
「もう行くのか、学者さん?」
「えぇ。調査の報告書を学院に提出しないといけないので。」
「そうか・・・じゃあ、また、依頼があったらよろしくな。」
「はい。じゃあね、イシルク君。」
「ありがぁとぉう。」
イシルクの歪な発声に微かに笑いながらハリキは手を振りイシルクたちと別れた。
「すいません。お客様をお迎えする部屋は余っておりますが、泊めることはできません。」
「そこを何とかさーここは、この街で1番の宿だろぉ?」
「無理です。」
サワンと宿の職員の口論が宿内に充満する。このような事になるのを語るには少し時間を遡って説明しよう。
ハリキと別れた後、イシルクたちは宿をに向かった。幸いにもまだ、昼過ぎというのも相まって宿をは空いていたがそこで問題が発生していた。
それは、イシルクのサイズで泊まれる部屋が無かったということ。イシルクが現れる前は象牙族と呼ばれる人族の身長を最大として作られているためそれを越える身体を持つ巨人族が泊まれる部屋がないのは仕方ないことだろう。
「頼むよー!!もう、倉庫でもどこでもいいからさぁ!!」
既に何軒も周り疲れていたサワンは子供が駄々をこねるように職員にすがりつく。それを見る周囲の視線にアクルたちは恥ずかしさで顔を俯かせる。
「・・・それでしたら。」
そう言われてしぶしぶといった様子で案内されたのは宿の隣にある獣舎だった。
「この獣舎は、飛竜も入れる程の広さとなっております。・・・お客様のご身長で泊まれるとことなるとここしかございません。」
「・・・なぁ、イシルクここでいいか?」
サワンは弱々しくイシルクに尋ねる。
イシルクもサワンの様子を見てどういった状況がよくわかっり頷いた。
「・・・いいってよ。」
「ありがとうございます。お詫びと申しまして料金は半額で構いませんので。食事も外まで運ばせます。」
「・・・わかった。いくらだ?」
「混ぜ銀貨2枚と銅貨5枚でございます。」
サワンは懐から袋を取り出し指定された金額を職員に渡した。
「・・・じゃあ、イシルク。明日、向かいにくるから。」
背を丸くしてサワンは夜道に消える。
「ゴメンね。イシルクまた明日ね。」
「おやすみなさい。」
「まぁ、頑張れよ。」
アクルたちはそれぞれの別れの言葉を言いサワンの後を追っていった。
イシルクの初めての人間の街で過ごす夜は糞と餌の匂いで包まれていた。