きっと周りからはリア充爆発しろと思われているけど、本人たちは真面目に恋愛に悩んでいる2人
きっと周りからはリア充爆発しろと思われているけど、本人たちは真面目に恋愛に悩んでいる2人の話
「……スリーさん」
うるさいな。
「……スリーさん」
頭に響くから、その声を止めてよ。
「……ンスリーさん!」
まだ言うか!!
「うるさい!!だまりなさい。私には門内三紀子って名前があるんだから!そんな、遥か彼方昔につけられたあだ名を呼ぶのは止めなさいと、いつも言っているでしょう?」
昼休みの貴重な睡眠時間に、毎度毎度聞きたくもないあだ名で起こされる私の身になって欲しい。切実に。
「だって、三紀子さんって、眠っている姿はあんまり似ていないんだもの…僕としては起きて、バカね!って言って欲しいんですよ!」
そんなくだらない理由でまた起こされたのか……
まぁ、毎日の事なので知ってましたけどね。
こいつは、瑞木大地っていう大学の一年後輩で、なおかつ会社でも一年後輩をずっとやっている馬鹿である。
なぜ、大学のサークルやゼミまでならともかくとして、同じ会社にまで後輩をやっているかと言えば……
こいつがある女性を理想だと言って憚らず、更にそれに飽きないからだ。
「瑞木ぃ、いい加減に飽きなよ……アンタと私が大学で出会ってから、ずっとそれを言い続けてるけど、なんで飽きないのよ!」
私は既に飽きた。もう、この会社に入社して10年だ。
大学の3年間を入れたら合計13年間。
20歳のピチピチお肌だった私は、33歳になろうとしている。
「彼女が僕の女神だからに決まってる。僕は彼女を愛しているからね。そして、一番彼女の魅力を引き出すのは、少し照れた状態でバカね!って言うセリフを言う時だからだ!」
なぜ、31歳の男が、そんな私が再放送でしか見たことのないアニメに詳しいんだ?
確か、年代的には私が覚えているのが既に奇跡なのに……
2つも年齢が下なのに…
「世の中には、記録媒体が色々と存在しているんですよ?兄や姉も好きだったんで、良くビデオで見てたんですよ」
私の心を読むな!!
そんなに不思議そうな顔をした覚えもなければ、お前の方を向いた覚えすらないのに、心の声に対する正確な受け答えをするお前は何者だ!!
思わず目を瞑る。
「もちろん、貴女の後輩にして、未来の旦那様ですが?」
「いい加減にその妄想を止めろ!!そして、私の心の声を読むな!!」
「いやぁ怒った顔は今日も素敵です。そして、そこは『ばかね!!』一択でしょう?どれだけ布教すれば受け入れてくれるんです?いや、既に答えてくれたことがある訳ですから、もう一度僕を受け入れて下さいよ」
「お断りだ!!もう休憩の終わりだから、その蕩けそうな笑顔をどこかに仕舞い込んで仕事に戻れ!」
「残念です…では、今日の晩御飯はどこにします?」
「ん……今日は日本酒の気分だから、モツ煮とレバ刺しが美味しいお店が良いなぁ」
「えーっ!またレバ刺しを肴に日本酒ですか?そこはビール一択だと思いますよ?モツ煮については同意しますが!」
「別に、お前に付き合えなどと言ってないんだから良いだろ?好きにビールを飲め!私は日本酒で楽しむからな!!」
「乾杯が寂しいじゃないですか…一緒に一杯目はビールにしましょうよ」
「仕方ねぇな…出汁巻きが旨いなら考えてやる…」
「約束ですよ?絶対ですからね?」
「わかったから、いい加減仕事に戻れよ!」
「楽しみにしてて下さいね?」
「わかったから……」
あぁ……また、今日も夕飯の誘いに乗っかってしまった。
それも、嬉々として……
大学2年の時から、延々繰り返されるこのやり取り……
会った初日に、『ばかね!』と返した瞬間にスイッチの入った瑞木に押し切られて交際がスタート。
アイツと食べる夕食は、自炊を含めて外れたことは一度もない。
ついでに言えば、『ばかね!』で始まる布団の中の情事を楽しんだ後で迎える、毎朝の朝食が美味しくなかった事も一度たりとして無かったりするのだ……
なんで結婚しないのかって?
……だって、アイツ…私に結婚を申し込む時は決まって私の嫌いなあだ名を呼んで申し込むんだもん!!
そう、意地です!!!
絶対、本名で呼ばない限り結婚なんてしてやるもんか!!