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山浦村  作者: 東樹 九林
1/1

たぬきさん くすんくすん

「しぇちがらいねぇ」


「しぇちがらいねぇ」


 すんすんと涙ぐみながら、山深い坂道をのぼっているのは3匹のたぬきたち。


 しょんぼりたぬき達、大きなしっぽが地面をこすっていますが、もちあげる気力もありません。


「またどんぐりが売れなかったねぇ」


「しぇちがらいねぇ」


「しぇちがらいねぇ」


 前足にひっかけたビニール袋にはどんぐりがたっぷり。


 残念なことに、全部売れ残りです。


 一匹一袋、早起きしてがんばってふくろいっぱい集めたどんぐり。


 しっぽを立てて意気揚々と村に売りにやってきましたが、今はしっぽを落としています。


「どんぐりおいしいのにねぇ」


「どんぐりおいしいのにねぇ」


 売れなかったどんぐりをぱくぱくもぐもぐやけ食いしながら、たぬき達はおおきな溜息。


「このままじゃ税金がはらえないねぇ」


「…しぇちがらいねぇ」


「…しぇちがらいねぇ」


 税務署の取り立ての恐怖にたぬきたちは背筋に寒気が走ります。


 お金が払えないから、毛を刈られて風邪をひいたトラウマを思い出しながら。




 ここは九州の山の奥の奥、山浦村。


 その名の通り、山の裏にある小さな山村。


 人口100人にも満たない過疎の村。


 平成の大合併の時でさえもどこからも合併してもらなかった辺鄙な村落。


 険しい山の奥地にあるうえ、国道も県道も市道も通らず、自動車でのアクセスができないという不便極まりない村。


 不便ゆえに人は去り、不便ゆえに産業はすたれ、さびれきった村の財政は数年前、ついに破たんしてしまいました。


 あらゆる公共サービスがカットされ、もともと不便な村の暮らしは更に悪化してしまいます。


 しかも村民の多くが高齢者という現状のために、これから良くなる見込みもありません。


 おさきまっくらです。


 不景気だし。


 あまつさえ、破たんになった時の村長はお金をもって村から逃げていきました。ゆるすまじ。ゆるさないまじで。


 新村長は住人による再建をそうそうと諦めて解決策を全く別の方法に託しました。



 そう、


 これまで、


 誰も、


 やらなかった、


 方法で。




『税


 金


 は


 ら


 え』




 突然、山浦村を取り囲むお山の平和は破られました。


 税務署がやってきて、村にすむ動物達から強制的に課税徴収することにしたのです。


 人里の犬猫だけでなく、山里のきつねにいのしし、しかにくままで納税義務を負わせたのです。


「まなび、


   はたらき、


      かせぎ、


        税金をおさめろ」


 おかねのことで頭を悩まし視線を降ろし肩を落とし腰を曲げてしまっている人間の事など気にせずに、お山でそれぞれの生活をしていた山浦村の動物たちは、困り果ててしまいます。


「えっ!そんな……」


「はたらきたくないよう」


「しほんしゅぎのおうぼうだー」


 納税の義務を負わされた動物たちは、ぼやき悲しみながらも慣れない商売を始めることになってしまいました。


 とはいえ、数十万年、ずっと自然界に生きてきた動物たち、商売のほとんどがうまくいくはずもありません。



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