異世界転生、男バージョンではじめます。
前世、僕はとある世界のアラサーなるOLだった。もちろん性別は今とは違ってお一人様(苦笑)だったけど仕事と猫が世界のすべて、そんな平凡な日々を送っていた。どこにでもいるようなアラサー女子だったときの名は荒瀬ナツ、ちなみに異性交遊の経験はなし。なんだけど……まあ、あれだ恋に恋してた痛い女だったと今ならばわかる。いい歳して白馬に乗った素敵なダンディな人が現れるなんて夢見てた時期もあったけどいまではそんな妄想なんてクソ食らえ、である。
そんな腹も膨れぬ妄想を重ねていた時間も長くは続かずに、ある日コンビニに向かう途中にジャックされた暴走バスにふっ飛ばされあえなく死亡。あれか、ニュースで見た暴走バスは目的地のコンビニとは離れていた道路を走っていたから、部屋着のまま外に出たのに笑えない死に方である。救いはすぐに意識がなくなったことだけど。だけど……
暴走バスに轢かれて死んだと思って、目が覚めたら綺麗な女性たちに囲まれてたら皆はどうする?
一、驚く
二、にやける
三、ナンパ開始
四、ツッこむ(ナニではありません)
そりゃあ綺麗なものは皆大好きだろうとは思うけど、いままで女として生きてきて数十年の記憶があった僕は当初、不安定だった。見知らぬ世界にひとりきり、異世界転生、股間にある男の象徴。おまけに僕を運命の恋人と呼ぶ不特定多数の麗しくも可憐な女性たち。僕が健康な男子であれば多分おいしく食べちゃっていたであろう好みの女の子はいま、まさに僕を取り合って三つ巴の最中である。
僕の右腕を痛いぐらいに引っ張る金髪ツインテールのツンデレ美少女ラリサに、ラリサを笑うように豊満なけしからん胸に僕の左腕をうずめる大人の魅力たっぷりなお姉さまのフィルリア、そして僕の足を踏むメガネっ娘カナンの三人である。
異世界転生を経験して慌てふためく僕を落ち着かせて、助けてくれたのはカナンだけど住む場所を提供してくれたのはフィルリアさんだ。だから二人には頭が上がらない。
真面目なカナンは一度関わっただけの赤の他人である僕が住むところを得るまで親身になって助けてくれたし、フィルリアを紹介してくれたのももちろんカナンだった。自宅兼宿屋を営むフィルリアは空いた一部屋を無償で貸す代わりに、ときどき店を手伝うだけでいいと言ってくれた素敵なお姉さまだし。二人は女神だと思う。もちろん僕だけのね。
そして生活していくためにはもちろんお金が必要になるわけで、職場を斡旋してくれたのはこの街のお嬢様であるラリサだった。カナンに街を案内してもらったときにトラブルにあっていたラリサをそれとなく助けたことが好意的だったのか、翌日フィルリアさんの宿屋を朝一番に訪ねてきたときは持ち前のツンデレはなりを潜めていたのでうっかり騙された。
頼まれたらNOと言えない人種であった僕は流されるままになかなか給金が高く、自由の効く職場を紹介されたのも束の間、ポジションはラリサお嬢さまの婚約者もとい護衛で。その美しい容姿であるがゆえに誘拐されたことのある彼女に護衛が必要なのは理解できる。だけど僕は平和な世界で育ってきた平凡な一般市民だった。だから護衛とはいえ名ばかりで実質、彼女の話し相手または付き人の真似事だったりする。
僕としても可愛らしいツンデレは好みだったからイヤではなかったが、どうやらそれは僕だけだったようで。ラリサは僕に近づく女性に威嚇するかのように目を光らせては牽制する日々にカナンとフィルリアさんもターゲットにされてしまったのである。
フィルリアさんはさすが大人の女性でラリサの可愛らしい牽制さえ、歯牙にもかけずむしろ逆に僕を使ってラリサの神経を逆撫でたりしている。いまもほら、僅かなふくらみ(貧乳だけどまな板ではない)であるラリサに見せつけるかのように豊かな胸が僕の前にさらされている。同性であっても思わず赤面してしまいそうなほどの美乳に男になってしまった本能は正直で、両腕をとられたいまはラリサよりもフィルリアさんの方を向いてしまうのは仕方ないと思う。そんな僕を見てさらにきつく腕を締め上げるラリサには悪いけどそんな嫉妬さえ、僕にはごちそうだ。
カナンは真面目ゆえにラリサとは衝突も多かったようだけど、頭がいいのはカナンだったりするからうまく丸め込んでいては角が立たないようにおさめる手腕は見事だった。
多分年齢も関係あったのだろうとは思う。ラリサは三人の中で一番年下だし、一人っ子だそうだから甘やかされてきたんだろう。自分に媚びへつらわないカナンとフィルリアを邪険にしていたのは最初だけで、いまでは軽く睨み合う程度だ。
それも最初に比べれば大人しくなったものだ。刃物こそ持ち出しはしなかったけど、女性特有の陰湿な言葉の応酬にあのときは冷や汗が止まらなかったなぁ。なんて懐かしがれるのも、つい最近のことなんだけどね。
正直に言うとフィルリアさんとラリサに取り合われるこの状況すら萌える。
男なら誰もが夢見るシチュエーションに鼻の下を伸ばしていた僕を無言で咎めるカナンの行動さえ、かわいい。デレデレし過ぎたら足、踏まれたけど。そんなカナンの行動もおいしい。
ああ、異世界転生なんて二度とごめんだけど綺麗な女性たちに取り合われる、なんて幸福すぎる。こっちでは一夫多妻制だから余計にね。なんのオプションかは知らないけど、転生した僕は王子みたいな金髪碧眼のものすごっいイケメンになっていたからよりどりみどり状態で。
第二の人生も悪くはないな、と思い始めている今日もまた三人の素敵な女性たちに取り合われている。
中身のない、気分転換のために執筆した作品です。どなたかが読みたいと優しい言葉をかけてくださったら続編もそれらしく執筆するかもしれない……
しかし、男視点はなにやら難しいですね。