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4話 楼桑村の莚売り少女

タイトルで誰のことかは分かると思います、ヒロイン2人目の登場。


今回もまた、幸俚の活躍をお楽しみあれ。

幸俚や紫蘭が村を出てから数十日経った後、とある町。



「おい、あれなんて書いてるんだ?」

「知らねえだ、字が読めるやつはいねえのか?」



町には立札が立てられていた。町人が集うが、誰ひとりとして文字を読むことができないという有様。そんな時・・・



「・・・「帝に刃向かう逆賊を倒す義勇兵を募る」・・・」



一人の少女が立札を読んだ。



「義勇兵?なんだいそりゃ?」

「義勇兵というのは帝様のために戦う兵の事ですよ」

「そうか・・・私はどうしようかな・・・」


周りの人々がざわめく中、少女は一人立札の前で立っていた。



(私も天下泰平のため戦いたい・・・けど私には力もないし名声もない・・・中山靖王劉勝の末裔と言ってもそれは嘘だと言われておしまい・・・何もできないんだろうなぁ・・・)



少女は溜息を吐いた。その時・・・



「アンタ、何溜息吐いてんの?」

「ふえっ?」



少女は突然声をかけられた。



「アンタ、今の世を憂いているんだろ?」

「やっぱり・・・分かりますか?」

「分かるさ。けど力もなくて何もできないから立札の前で溜息を吐いた。そうだろ?」

「・・・はい・・・」



少女が力なく頷いた。それは話しかけてきた方の少女も同じで・・・



「アタシも力が強いからその力を天下のために使おうって思ってんだけどさ・・・仕えるべき相手がいないんだよ・・・」

「そうなんですか・・・」

「・・・まあ、ここで会ったのもなんかの縁だ、何れ何処かで会うだろうし・・・名だけ名乗っとくよ。アタシは張飛翼徳」

「私は劉備玄徳です」



互いの名を交わす2人。この2人がまさかすぐに再会するとはこの時誰も思っていなかった・・・










































「お、遅くなっちゃった・・・お母さん心配してるし、早く帰らないと・・・」



少女・・・劉備は帰路を大慌てで帰っていた。母親からは「最近物騒だから、出来るだけ早く帰ってきて」と言われていた・・・が、先程出会った少女、張飛のことを考えていたら遅くなってしまったのだ。



「早く帰らないと・・・『あたし達が出るってな』・・・あっ・・・」



ちゃんとした帰路のはずなのに、野盗と出くわしてしまった。今の彼女には武器はない。ただただ衣類を剥ぎ取られて殺されるか、連れ去られて慰みものにされるか・・・そう思っていた時だった。



「おりゃあっ!!」

「ぐぅっ!?」



突然聞こえた声。しかも、数刻前に聞いた声。



「・・・まったく、人一人に対して多人数で挑むたぁ・・・アンタ等の頭は相当情けない奴なんだな!」

「ちょ、張飛・・・さん!?」

「おろ、劉備じゃねぇか」



偶然の再会。しかし、劉備にとってはとてもありがたいものだった。・・・しかもこの後、更にありがたい出会いが彼女を待っていた・・・











































「・・・幸俚、本当にこっちで合ってるの・・・?」

「・・・地図が合ってるなら多分・・・こっちに行けば楼桑村に続く道に出ると思うんだけど・・・」



黄巾党の襲撃を受けて村を出てきた幸俚と紫蘭は、絶賛道に迷っていた。紫蘭が盗賊が出るのが怖いからと野宿を嫌がったため、大慌てで進んだものの・・・道に迷ったのだ。万が一の塾になったとしても、幸俚が上手く隠れられる場所を野宿の場所にした為、そこまでの被害はなかったが。


さらに、紫蘭からは『姫字』という物を教えてもらった。彼女曰く、姫字は自分にとって大切な人にしか呼ばせない、もう一つの名前だということだった。さらに、大切でない人間が不用意に呼んだ場合、最悪殺されても仕方ないものだということも。



「・・・暗いから怖いよ・・・」

「早く出ないと・・・〈おりゃあっ!!〉・・・声?」



急に声が聞こえた。その時紫蘭は思い切り身を竦め、幸俚は聞き耳を立てた。人がいる。しかも、戦っている。



「・・・声のした方に行ってみよう」

「で、でも・・・」

「・・・大丈夫、多分・・・僕たちの味方になってくれる人だよ」



幸俚はそう紫蘭に告げ、歩を進めた。紫蘭も幸俚の言葉に従ってついて行った。











































「こっちに来てみりゃ人が襲われてて、相手は多数。助けない訳にゃいかないよ」

「で、でも、一人じゃ危ないですよ!?」

「大丈夫だって、アタシはこれでも力自慢で通ってんだ!」



そして、張飛と賊・・・黄巾党の女達との戦いが始まった。



「おらぁっ!我こそはと思うものはかかってきなぁ!!」

「言わせておけばぁっ!!」



張飛の挑発に簡単に乗る女達。・・・が、張飛も劉備も気づいていなかった。背後から迫る存在に。










































「・・・いた!」

「ほ、本当に戦ってる・・・!」



一人対多数という圧倒的不利な状況で、しかも一人の方は人を守りながら戦っている。明らかに不利な状況なのに諦める気配がない。しかし・・・



「・・・紫蘭、ちょっと隠れててほしいんだ・・・」

「・・・助けに、行くんだね・・・?」

「うん。・・・あの人、後ろから来てる敵に気付いてない・・・!」



紫蘭が一つ頷いて、幸俚は音を立てずに駆けだした。少女を助けるために・・・










































「・・・劉備、今んとこ何もされてないな?」

「は、はい・・・」



張飛は今もなお一人戦い続けていた。戦力とならないただの莚売りの少女を守るため。そして少し劉備に気を向けたその瞬間だった。



「ちょ、張飛さん、後ろ!!」

「なっ、しまっ・・・」



気を取られていた隙に背後から攻められ、反応が遅れてしまった張飛。だが・・・



「真田流剣術、剛・一ノ型、崩月!!」

「ぐあっ!?」



更に声が聞こえ、張飛の後ろから迫っていた者が崩れ落ちた。



「・・・間に合って良かった・・・」

「アンタ・・・一体・・・」

「その話は後で、今は賊徒を片すのが先決!」

「あ、ああ!!」



張飛は自分を救ってくれた人物の喝を受け、即座に敵と対峙。その人物は・・・既に動き出していた。



「真田流剣術、覇・四ノ型、崩龍刃・月刃げっぱ!」

「あぐっ!?」

「な、なんだこいつ、剣の動きが読め、うぐぅっ!?」

「きゃあああっ!!」



あまりに綺麗な流れに、劉備はおろか戦っていたはずの張飛も見入ってしまっていた。助けてもらった劉備や、実は隠れていた紫蘭はその人物・・・幸俚を熱の篭った視線で見ていた・・・











































数分後には、賊徒は物言わぬ骸と化していた・・・



「あ、アンタ・・・すげぇな・・・」

「・・・別に凄くはないよ、まだまだ若輩の身だから」



張飛は思わず目の前の少年、幸俚に声をかけた。幸俚は謙遜した言葉で返した。



「・・・ちょっと聞きたいんだけど、近くに村ってないかな?連れと今旅をしているんだけど手持ちが少なくなってて」

「・・・あっ、ち、近くに私の生まれ育った村があります!」



問いかけに意識を戻した劉備は自分の生まれ故郷が近くにあることを慌てたように告げた。



「そ、そういやアンタ、名前は?そこまで強いならなが知れ渡っててもおかしくないし、かといって官軍には見えない・・・」

「・・・あ、そう言えば飛び込んできたまま名乗ってなかったね。僕は真田幸俚。一応、旅をしてる流浪人さ」

「アタシは張飛翼徳。アタシも今は仕えるべき人を探して放浪中の身さ」

「わ、私は劉備玄徳って言います!あ、あの、助けていただいて本当にありがとうございました!」



劉備は慌てて二人に感謝の言葉を告げた。そんな劉備に対し二人は「気にしないで」という。



「夜も遅いし、村に案内してもらえるならその間護衛をさせてもらうけど・・・いい?」

「か、構いません!むしろこちらからお願いしたいです!はい!」

「・・・」



さっきから上ずった声を上げまくる劉備に、張飛はある考えを持った。



(・・・理由は聞かないけど・・・あの剣、相当なものだ・・・劉備が持ってる間は宝の持ち腐れだと思うけど、それ以外の人が持つべきでないということは分かる・・・)



劉備の腰に携えてられていた剣を見て、張飛はそう考える。ただ護身用に渡されたにしてはあまりに煌びやかで、庶民が持つようなものではないと。



「アタシは・・・ちょっと他によるところがあるからここでお別れだ。劉備、その人に護衛してもらったらどうだい?」

「え、あ、は、はい・・・」



劉備が茫然としている間に張飛は行ってしまう。残されたのは劉備と・・・幸俚、そして紫蘭だ。



「・・・紫蘭、出てきていいよ。辺りに敵の気配はないから」

「う、うん」



ひょこっと草影から出てくる紫蘭。



「あの、えっと?幸俚さん・・・でしたっけ・・・?」

「そうだけど・・・どうしたの?」

「本当に・・・村まで一緒に来てくれるんですか?その、護衛として・・・」

「うん。・・・と言っても、彼女も守りながらだけどね」



近くまで来た紫蘭を見る劉備。



「・・・そう言えば、立てる?」

「・・・立てません・・・」

「しょうがない、か。ちょっと背中の物貸して?」

「は、はい」



劉備は幸俚に背負っていた物を渡す。それを幸俚は背負い・・・



「よっと」

「ひゃああっ!?ゆ、幸俚さん!?は、恥ずかしいですよ!!」



劉備をお姫様だっこで抱えたのだ。紫蘭は同時に自分もそうやって抱きかかえられて自分の村を一時脱出したことを思い出して顔を赤くしていた。



「とりあえず歩けるようになるまでの間だけだよ」

「あぅ・・・」



劉備は顔を赤くして俯き、幸俚はそのまま歩きだした。後から紫蘭が慌てて追いかけてきたが。










































その後、何事もなく楼桑村についた一行。その間劉備は幸俚に甘えっぱなしだった。ついでに紫蘭と劉備は互いの名を名乗り合っている。



「えと、あ、ありがとうございました・・・」

「ううん、気にしないで」

「そうだよ、劉備ちゃん。幸俚は優しいんだもん」



劉備は二人に言われ少し俯いた後。



「・・・二人とも、今日はうちに泊まって行きませんか?あまりおもてなしはできないんですけど・・・」

『いえいえいえ!そんな大したことをしたわけじゃないんで!!』



二人揃って手を振って遠慮をする。そこまで大したことをしたわけじゃない、と全力否定して。










































その夜、二人は久しぶりに美味しいご飯にありつけ、温かい湯船などに浸かることができた。夜は布団に入って眠ることができた・・・が・・・



「・・・ん・・・」

「・・・やっぱり・・・かぁ・・・」



相変わらず抱きつかれる幸俚であった・・・



その頃劉備は。



「・・・真田・・・幸俚さん、かぁ・・・」



布団に入り込んだ劉備は、別の部屋で眠っている幸俚のことを思っていた。



「優しくて・・・強くて・・・それで格好いい人・・・はうぅ・・・」



顔を赤くして布団の中に顔を埋める。



「お、お母さんも嫁に行けーっていうんだもん・・・恥ずかしいよ・・・」



布団の中でいやんいやんと悶えているのだった・・・










































そしてその頃。



「ほう、お前が言うその変わった人物は・・・楼桑村に行ったんだな、小蘭?」

「そうなんだよ風麗。一緒に行った男も相当強いんだ!」



小蘭・・・張飛は風麗と呼ばれた少女と共に楼桑村へと向かっていた。



「その人物が私達が仕えるべき人物だといいな」

「そこは風麗が見極めてくれ。アタシは十分だと思うけどね」

次回は蜀で三国志を進めていく上で欠かせない出来事、桃園結義です。最後の方で若干大変なことになりますよ、と。

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