3話 黄巾襲来
タイトル通り・・・ついに黄巾党が出てきます。
・・・幸俚も初めて戦います・・・
若干辛いシーンがあります、それを見たくない人はブラウザバックすることを推奨します。
光和6年に若干の成長とともに飛んだ幸俚。それから1年、彼は何かされるわけでもなく、張角を始めその村の人たちにとても優しくしてもらっていた。・・・が、困ったことが一つだけあった。それは・・・夜。
「・・・幸俚・・・」
「張角?」
「・・・今日も・・・一緒のお布団で寝ても・・・いい?」
「良いけど・・・あまり強くひっついてこないでね?前それで死にかけたことあるんだから」
「き、気を付けるね」
そう、張角が絶対と言っていいほど一緒の布団で寝たがるようになったのだ。・・・それは幸俚がこの世界に現れてから2ヶ月が経ったある日、偶然厠に行った幸俚が戻ってきた時、寝言で「お父さん、お母さん」と、頬に涙を伝わせたまま眠る張角を見たからだ。翌朝聞くと、彼女の両親や家族は、彼女が幼い頃、村が賊に襲われた時に殺されてしまったのだという・・・
そして、それを見た幸俚は張角に対しいつでも甘えていいと告げた所、こうなってしまったのだった。
「・・・大丈夫なのかな、僕・・・」
灯りを消し、隣からすぅすぅと聞こえる張角の寝息。ふわりと匂う女の子特有の香り、そして止めとばかりに感じる、鈴風までとは言わないが、ふにふにとした感触のするやわらかくて大きな山2つ。
「・・・眠れ・・・ない・・・」
その全てに苛まれ、眠れぬ夜を繰り返していたのだった・・・
そんなこんなでだらだらと毎日が過ぎていった・・・が、時代はそんな毎日を許さなかった。中和元年・・・張角と名乗る人物がが張宝、張梁と名乗る人物達と共に漢王朝に対する反乱を起こした。・・・黄巾の乱の幕開けである。
当然、その乱は幸俚や張角(こちらの張角は首謀者の張角と名乗る人物とは別人である)の住む村にも押し寄せてきたのだった・・・
「た、大変!ぞ、賊が押し寄せてきたわ!!」
「・・・落ち着けぃ!落ち着いて・・・まずは角に知らせるのじゃ、直ぐに男を隠せと」
「は、はい!」
村の長の指示に従い、動き始める村の女達。しかしゆっくりしている暇はない。していればしているだけ「彼」を守れなくなってしまうから。
「角ちゃん、すぐに幸俚君隠して!!」
「ほえ?」
突然家の戸を開け放って叫ぶ女性の言葉の意味が分からない張角。・・・だが、幸俚は意味を理解した。
「・・・賊が来たんだね」
「・・・す、すごい・・・さすが幸俚君だ・・・」
「感心してる暇はないんでしょ?言葉からして狙われてるのは僕。・・・だったらボクも迎え撃つために出た方が「ダメだよ!」・・・?」
幸俚が『自分も出る』と言った瞬間、張角が言葉を荒げた。
「幸俚に無茶してほしくないし、私達だって戦えるんだから!」
「・・・そうかもしれないけど・・・相手は絶対軍団で来るんだ、勝ち目がない可能性だってある・・・」
どちらがどちらも引かぬ言葉の応酬。それを見ていた女性は意見を述べた。
「だったら、角ちゃんを最後の砦としてこの家に幸俚君を隠す、角ちゃんが殺されそうになったら幸俚君が助けにいく、ということでいいんじゃないの?」
「・・・そうしようか」
「うん」
2人はそれで同意し、幸俚はとりあえず身を隠せる場所に隠れた。・・・が、しっかり探されると見つけられてしまうようなもの。ほぼ博打だった。
「家主はいるか!?」
幸俚が隠れて数分後、怒号が途絶えたと思いきや、突然とを蹴り開けて入ってきた二人の女性。対峙するのは・・・張角たった一人。
(幸俚の靴は隠した・・・生活痕もないはず・・・気付かれはしないはず・・・)
張角はそう思っていた。案の定、聞いてきたのは・・・
「あたし達は男を探している!隠していたならば無事に済まないと思え!」
「ここに男はいません。例えいたとしても場所を伝えませんが」
張角はただ一人、幸俚を庇って言葉を紡ぐ。・・・が、直後、幸俚は思わず動揺してしまう。
「あたしら黄巾党を目の前にして嘘を付けるというの?大層な馬鹿だね」
「嘘?嘘って?」
(黄巾党!?既に中和になってたの!?)
物音こそは立てなかったものの、驚きは隠せない。・・・が。
「そこに誰かいるってのは気配で分かるんだよ!」
「こいつ、あたし達を騙してたのか・・・。仕方ないね、張宝様の儀式の生贄として連れて行くか」
「生贄・・・っ!?」
張角もだが、聞いていただけの幸俚も驚愕に染まる。
「今度は一体どんな儀式をやるんだろうね?」
「知らんさ。だがまぁ、今は・・・っ!」
「・・・うぐっ!?」
2人いた女性のうち、その片方が張角の首を前から掴み上げた。
「一度殺そうが気を失わせようが・・・関係ないね!」
「うぐ・・・ぐ・・・ぅ・・・!」
身長差があるためか、持ちあげられてしまう張角。足をばたつかせるが、届かない上に当たらない。既に死ぬか気を失うかまで、そのどちらかは時間の問題だった。
(・・・張角が危ない・・・本当は・・・手を出すのはダメなんだけど・・・守るためなら!)
そう思った幸俚の行動は早かった。隠れていた場所から近くの桶などを吹き飛ばすように立ちあがる。
「・・・お、やっぱりいたじゃないか。しかも男ときたもんだ」
「・・・彼女を離せ」
「は?何言ってんのこいつ?女相手に指図する男なんて馬鹿じゃないの?」
「彼女を離せと言ったはずだ!!」
威圧丸出しで叫ぶ幸俚。その瞬間、張角を掴んでいた側の女性は思わず手を喉から離してしまい、もう片方は完全に退いていた。
「お・・・男が女に指図するなぁっ!!」
2人の女性が同時に向かってきた。・・・が。
「・・・真田流剣術・終、一ノ型・・・夢幻崩月」
それよりも早く幸俚は2人の間を通過してしまう。そして次の瞬間。
「がはぁっ!?」
「・・・ぐぼぉ・・・っ!?」
膝をついたと思ったその時、同時に吐血。
「い、一体・・・何を・・・げほぉ・・・」
「斬らせてもらったよ、君達の・・・体の「中」を。真田流剣術・終、一ノ型・・・夢幻崩月は体の内部・・・つまり臓腑のみを斬る技・・・」
「ぞ、臓・・・腑・・・!?」
幸俚の言葉の意味が理解できない2人と、動きが早すぎて何が起きたのか分からない張角。
「・・・今回ばかりは本気で怒ったから・・・君達の肝臓と胃を斬らせてもらったよ・・・。彼女が・・・張角が感じた苦しみを味わって・・・自分の最期を迎えて」
「く・・・そっ・・・」
(・・・人を殺してしまった・・・張角を守るためとはいえ・・・辛い・・・!)
2人に背を向け、張角に近づく幸俚。
「・・・ゴメンね、君を守るためとはいえ、人を斬って・・・あまつさえ殺してしまったんだから・・・軽蔑するよね、やっぱり」
「・・・」
どこか顔が赤いのに気づかず、謝罪する幸俚。・・・が。
「・・・けど、ここにいつまでもいたらまた見つかる・・・ちょっと恥ずかしいかもしれないけど我慢してね」
「ふえっ?ふえぇっ!?」
幸俚は何を言ってるのか分からないままの張角を抱きかかえ、家を飛び出していった。
「・・・皆・・・」
「・・・後で戻ろう、今は逃げるのが先になると思うんだ・・・」
村の皆の安否を気遣う張角と、一時的な離脱だと自分にも言い聞かせる幸俚。そのまま2人は村を出ていったのだった。
道中、村人達の亡骸を横目にし、村を脱出し、隠れた2人。賊たちも追ってこないことから、気付かれてない。そのまま30分待っていたら、賊たちが村を出ていくのを見て、完全に見えなくなってから村に戻った。
「・・・皆・・・」
村に戻った張角は、村の状況を見て涙を零す。昨日まで自分に優しくしてくれた人が、なにかと世話を焼いてくれた人が、自分のことを守ってくれた人が、全員死んでいたのだから・・・
「・・・どうして・・・どうして!?なんで皆殺されなきゃいけないの!?」
「・・・頭に・・・黄色い布をかぶっていた・・・間違いなく黄巾党だ、始まったんだ、黄巾の乱が・・・」
「黄巾・・・」
張角は幸俚の顔を見た。初めて聞いた言葉を呟いたからだ。
「漢王朝の腐敗と宦官の専横を知って立ち上がったんだろうけど・・・これじゃ野盗と何ら変わりないよ・・・。・・・まずは皆を手厚く葬らなきゃ。いつまでも吹き晒しな所に置いておくのは可哀想だから・・・」
「・・・うん・・・」
幸俚の言葉に首肯し、親しかった者や頼りにしていた者を埋葬する張角。そして、簡易とはいえ、墓を作って黙祷を捧げた後。
「張角は・・・どうする?僕はこのまま旅に出ようと思うんだ」
「・・・私も・・・一緒に行っていい?」
張角は意を決したかのように告げた。
「このままこの村に残っても・・・寂しいだけだもん・・・誰もいないし温かみもなくなって・・・辛いよ・・・」
「・・・かなり大変な旅になるけど・・・いい?」
最後の確認。今まで温かい布団で寝れたのに寝れなくなる可能性が高いこと、まともな食事をとれない可能性が高いことを案に告げていたその一言に、張角は首を縦に振った。
「じゃあ・・・行こうか、張角」
「私のことは紫蘭って呼んでほしいな」
「・・・分かったよ、紫蘭」
こうして幸俚と張角・・・紫蘭は旅に出た。行く当てのない、当てずっぽうな旅を。
次回は・・・また新たなヒロインが出てきます。更に紫蘭もちょっと出てきます。お楽しみに。
後・・・感想をください(切実)・・・