指名手配
香美さんはどこに行ったんだ?
「もうさ、どん引きだよ。
私って気付かずに生活してたよね。」
俺はもっと速く気付けたんじゃないのか。
何を聞いていたんだ。
俺の耳は節穴だ。
電話が鳴る。この電話は今日持たされた奴で香美さんしか番号を知らない。
しかし開くと妹と表示される。
何時の間に。
まぁ出ないわけにも行かないだろう。
「あ、お兄ちゃん? もしもーし。」
陽子だ、この声を聞くと安心できる。
「よ。」
「えぇ! 喋った!! 」
大神さんが驚きの声を上げる。
「た、大変だよ。」
陽子が困っている。
俺は死ぬ覚悟で陽子の悩みに答えると決心した。
「なんか私、アイドルになっちった。」
「おぉ! 」
つい感嘆の声を上げてしまう。
しかしそれならなぜこんなにも陽子が戸惑う必要があるのだろうか。
何の不思議も無いはずだ。
「ほ、ほかにもお父さんがダンサーになったり、お母さんが
ピアニストになったりして…。」
いやそれは無いだろう。
父さんに踊りは似合わないし母さんだって歌すら聴けたものじゃないのに。
「そ、それでね、あのニュース見てたんだけど。」
さすが陽子偉いな。
「お兄ちゃんが指名手配犯に就職しちゃってるんだよ。」