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その5



 目の前の男性に呆れるように言われて、少年は自分自身のことを振り返った。

 幼い頃、大火事で両親と妹を失ったが、あの火事で家族を失った人など大勢いた。

 自分独りだけが抱えた不幸ではない。

 去年街は流行り病で住人の三分の一を失うような災厄に見舞われたが、少年と親戚にその害は及ばなかった。

 今のところ怪我をする事もなく、後遺症を残す病にも罹った事もない。健康で生活出来ている。

 そう考えるとむしろ幸運な生活を送っているとも言える。男性の言う平気ではない状態とは何を指しているのだろうか。

 やはり、幼い頃の火事の事だろうか。

 燃え盛る炎の中で平気な顔で立っている…

 こんな変な状況の中に居る男だが、案外外の世界よりも恵まれた生き方をしているのではないだろうか。

 貴族達は平民に比べてずっと楽な生活をしていると聞いた事がある。

 市場で大人たちが話していた話だが。

 あの時にはそんな存在があるのかと、遠い異世界の話のように聞いていたが、この人がそうなのかも知れないと少年は思った。

 ここは神殿の中。

 普通ならば平民の入れない場所だ。

 そう考えると奇妙な性格と性質を持った貴族が居てもおかしくない。

 さっき男性は術の話をした。

 その上、炎で包まれても平気な顔をしている。

 それから、大きな力を持ったドラゴンを従えている事を考えると、神殿に属する魔術の使える修道士…魔道士なのかも知れない。

 今まで考えたどちらかであれば、合点がゆく。

 平民では死んでしまうような事でも、この人やその家族は平気なのかも知れない。

 少年は自分の思った事が正しいのか確かめたくて口を開く。

「子供の頃に火事で家族を失いましたけど…その事を言っているのですか?」

「火事…か…いや。そのような事ではない」

 男性は少年の言葉を否定した後に、俯き考えこむ表情をした。

 次の瞬間には顔を上げた。

「だが、そうか。私を恐れぬ理由はそれか。本来ならば、過去の忌まわしい記憶を恐れに変換する者が多いのだが。お前はそうではなかったのだな」

「…そうかも知れません」

 話が逸れた事を感じつつ、少年は男性の言葉に答えた。

「なるほどな…」

 言いながら男性は鮮やかな笑顔を浮かべた。

 表情を浮べた男性を見て、少年は初めて彼の美しさに気がついた。

 顔貌が整っているとは感じていたが、さっきまでは作り物のようで血など通っていないように思えた。

 瞳の中の哀しい色ばかりが強調されて、他は目に入らなかった。

 改めて見つめた彼の姿は神話の中に出てくる神々のようだった。目を奪われる。

 炎の中で微笑む姿は、まるで火の精霊のようにも思える。

 男性は炎の中で微笑みながら続けた。

「それから…火事で家族を失った事とお前の体質とは無関係だな。家族を失った者など、この街には幾らでもいるだろう。病や諍いであれ、幾らでもある。私が言っていたのは、自分自身に関する事だよ」

 少年が考えていた事は違ったようだ。

 男性も恵まれている訳ではなさそうだ。

 話をしているうちに、男性が人間らしくなってきたような気がした。

 表情だけでなく、全身から漂わせていた冷酷さが今は消えている。

 危うい感じも、哀しさも寂しさも無くなっている。

 炎の中で立ったまま喋っているという、この状況がおかしいだけだ。

 少年は宿に泊まる修道士の人と話すのと何ら変らないと思えてきた。

「思い当たる節はありません」

「そうか…」

 少年がまっすぐ男性を見つめて返事をすると、男性は思慮深い瞳で考えるように返事をした。




長くお休みしていてスミマセン!!


続きは出来るだけ早く更新できるよう努めます。



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