その25
アナトールの口から出た言葉に驚く。
彼の持つ『霜刃』という魔法の力は、国家にとっても大切なものだし、沢山の仲間の犠牲の上に完成したものだ。
そう簡単に手放せるものではないだろうという事はザムゾンにも判る。それに、一度持った力を手放すことが出来るのだろうか。
想像もつかない。
「どうして…そんな……?」
「戦いは終った。取りあえず…な」
「それは知ってます。戦いに大勝利して休戦協定が結ばれるとか。それは本当なのでしょう?」
渋い表情をアナトールは浮べた。
ザムゾンが街や宿泊客から聞いている話とは違っていそうだ。
「休戦協定に関しては正しい情報だな。だが、戦いに大勝利したという情報は、真実とは少し違う」
アナトールはそこまで言って、言葉を区切った。小さくため息をつく。疲労感がにじみ出ていた。
「最終的には私は『霜刃』を発動し、敵兵に多大な犠牲を出したのは確かだが…我が軍にもかなりの犠牲者が出た。調停者を失い、私はしばらく動けずにいた。今の調停者は彼の父親となった」
調停者と聞き、ザムゾンの脳裏に神殿で出会ったアナトールを信奉する青年と大神官と呼ばれた男性の姿が浮かぶ。調停者の彼が殺され、その役目を父親が継いだのか。
そう言えば、アナトールが部屋に入って来る時に聞いたことのある声がした気がした。
あれは元大神官の男性の声だ。
記憶の中で声の主が繋がった。
「それで、何故あなたが力を手放さなくてはならなくなったのですか?」
「敵国である…彼の国について、ザムゾンは何か知っているか」
「いいえ。長年戦っているということ以外は」
「それはそうだな。その認識は正しい。彼の国はとは、それなりの均衡を保ちながら戦いを続けていた。戦争とは外交の一手段だ。少々荒っぽい方法だが…両国間の間で意見の一致を見ないときに外交手段として行われていたに過ぎない。だが、私が生まれる少し前からその様相は変った。均衡を破ったのが、彼の国の国王だ。彼は自ら闇の力と同化し、戦いに利用した。その技を開発した。今となっては前国王の話になるのだが」
「前国王?」
アナトールの瞳が冷たく輝いた。
剣呑の色を帯びる。
「ああ。私が国王達を葬り去った。前線に復活して私が最初に行ったことは、彼の国王を葬り去り、彼の術の継承者達も葬り去ることだ。指揮系統をつぶしてから戦場で力を振るった。今国王を名乗っているのは力を持たぬ彼の息子だ」
「国王を葬り去った?」
「そうだ。そして休戦協定を結んだ。その際に私も術を捨てることになった」
話の流れにザムゾンはついていけない。
「どうしてそうなるのか理由が判りません」
「彼の国と我が国が対等の関係になるというのが、そもそも我が国の方針で方向性だ。それは変らない。私は彼の国の前国王を倒し、それに連なる者を葬り去ったところで、役目を終えたのだ」
何かを思い出すような瞳で、遠い過去を見つめる瞳でアナトールは語った。
「次同じ力を持つものを生み出そうとしても、少なくとも後十数年はかかるだろう。そろそろ私も引退しようと思って…な」
「……そうですか」
「大きすぎる力は味方にとっても脅威だ。平和を作り出すのに私の力は必要ない。今の調停者殿は、そもそもこの力に反対の立場だが…私は自分の役目を終えた今、同じ意見だ」
「そして」…と、アナトールは繋げた。
「私の対峙した前国王は人ではなかった。人の姿に戻れるかどうかも怪しい状態だった。私も暴走している時は、ああなのかも知れないが…ゾッとした。もういいんだ。もうこの力を手放したいと思っている」
小さくポツリと言った。弱々しい声。彼に似つかわしくない声を聞いて、ザムゾンはたまらなくなる。握り締めた手に力をこめた。
何とか更新…
続きは明日になります。




