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その21



 まるで夢か幻を見ているようだった。

 目の前で起こった事が信じられなくてザムゾンは目をこする。

 だが、目の前の紙は消えてなくなるという事はなく、存在し続けていた。

 何度か瞬きをし目を擦って確かめて、ようやく現実のことだと実感が出来た。

 ザムゾンは恐る恐る紙を観察するように見つめた。驚きだけではなく、胸の鼓動が飛び跳ねて収まらなかった。

 紙の中に書かれている文字は全て読める。まずはその事にホッとした。それもそのはず、紙の中には書かれていたのは、幾つかの数字と「この場所」と書かれた文字だけだったのだ。

 まるで覚え書きや走り書きのような文字は、暗号文のようにも見えるが、ザムゾンにそんなものを渡されても判らない。

 日時を示していると考えるのが自然だ。

 文字の筆跡に見覚えはないが、ザムゾンはアナトールだと確信した。彼に手紙を出せる人で術が使えるのはアナトール以外には考えられないからだ。

 数字が思った通りの日付と時間であれば、明日の夜ということになる。

「明日会える」

 口に出してみたが、全く現実感がない。

 ずっと会いたかったはずだった。

 今でも会いたいと思っている。だがその気持ちはザムゾンの中でも遠い思いだ。彼等が目の前に現れたら違うのかもしれないが、今はそれが本当に起こることなのか信じられない。

 彼等とは特別な何かで繋がっていて、接触することで特別な関係が築けると思っていたのだが、本当にそうだろうか自分だけの思い過ごしなのではないか…と疑う気持ちが勝っている。

 こんなモヤモヤした状態で会うのに躊躇っている気持ちも本当だ。

 キルシュが次に会う時にはアナトールの状態が悪くなっていると言っていたことにも引っかかりがある。自分が彼に何か出来るだろうか。本当に何か出来る?

 考えても仕方ない事を考える。

 ザムゾンの方から思いや言葉を伝える事が出来ないから尚の事、埒の明かない事を考え続けることしかできなかった。



 眠れない夜を過ごし、翌日は寝不足の頭で宿の仕事をした。

 思考力が落ちているのか普段はしないような失敗を繰り返した。

 注文間違いをしたり、落とすはずのないものを落としたり…それは、周囲が心配するくらいで。叔母夫婦は体調が悪いのだろうと判断して早めに仕事を上がらせた。

 少し眠いくらいで体調が悪い訳でもないザムゾンは部屋の中で時間を持て余していた。

 紙に書かれた時までは、まだ充分時間がある。

 叔母さん達の心配を考えると外に出て時間をつぶす訳にもいかないし、何かしたいこともない。ザムゾンはベッドに敷いてある、アナトールからの贈り物の布を見つめ指でなぞる。

「本当に来るのかな」

 何となく呟く。

 ザムゾンの部屋には必要最低限のものしかない。

 自分が寝るためのベッドに、服や小物…つまりは持ち物全てが入る木箱と椅子、壁には小さなランタンがついている。それだけだ。それがぐるっと見回して、この部屋に置いてあるものの全てだった。

 木箱は蓋がついており、それは机の役割を兼ねている。蓋の上にはコップが二つと香りの良いお茶の入ったポットがひとつ。

 コップはザムゾンが厨房から持ってそっと持ってきたもので、ポットのお茶は夜のどが乾いた時用にと叔母さんが特別に入れてくれたものだ。

 体に良い効用あると言っていたが、ザムゾンにはどんな植物のものでどんな効果があるのか詳しくは判らない。

 ただこの宿ではサービスで振舞われるお茶ではない料金を取る特別なお茶なのは確かな事で、知識のないザムゾンでもお茶の放つ芳醇な香りを嗅いでいると、これは他にはない特別なものだと感じる。

 のどが乾けば水で潤せばいいと思うザムゾンだったが、アナトールが来た時にもてなす何かがあった方が良いと考え、その心使いを喜んで受け取った。

 この部屋は人を招くような作りになっていない。

 来たとしてもお茶を振舞うことしか出来ない。

 こんなので準備はいいのだろうか。でもそれ以上何かが出来る訳もない。

 ぐるぐると考えていると、睡魔が忍び込んできた。



 部屋のドアを叩く音がする。

 その音で、ザムゾンは目を開いた。

 眠気の残る頭で小さく返事をする。

 いつもの叔母や叔父ならば、ノックとともに声をかける筈なのに。いつもと違う。どうしてだろうと考えた時、そう言えばアナトールの手紙のことを思い出した。

 一瞬で眠気が飛び去った。

 うつ伏せていた体をガバリと起こすと、ドアが開いた。







もう少し早く更新できると思ってたのですが…

いつもと同じような時間になりました。


次の更新は明日です~

よろしくお願いしますw





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