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その20



 贈り物が届いたきり、日々は過ぎていった。

 アナトールからは何の音沙汰はない。

 だが、ふとした拍子に誰かに見られているような気がする事が増えてきた。

 時々、視線のような気配のようなものを感じる。感じた方向に目を向けて、何かが見えたりなどの変化はないが、それでも思いすごしとはとても思えないような感覚を感じることが度々あった。

 それはアナトールの贈り物が届いた日から起こったため、彼が術を使ってアナトールと自分を見えない糸で繋げてくれているように思っていた。そうであって欲しいと思っている。

 力の無いザムゾンには自分から彼に会いに行くことは無理だ。アナトールから手を伸ばしてくれなければ再会することは叶わないだろう。

 伝説でしかなかった存在との邂逅は不可能だろう。ザムゾンは宿で手伝いをしながら、伝説の「嘆く竜」と「唄う鳥」の情報も集め始めた。

 もしかしたら自分の知らない知識を知っている人もいるのではないかと思ったからだ。

 それに、今まではザムゾン自身の中で心の整理が出来ず、余計な事を言わないで話を聞くことが出来るのか不安だったから、積極的に話が聞けなかった。黙って待っていたら、彼の方から会いにきてくれるだろうと考えていたこともある。待ち続ける日々は長く、何もしないのは苦痛だった。だから話の中だけでも彼らの存在を確認したい思いからの行動だった。

 だが期待したことは起こらなかった。

 ほとんどの人はザムゾンが知っている程度のことしか知らない。

 中には何か知っていそうな人もいたが、その人は多くを語らなかった。曖昧に答えを濁されただけだ。彼らの存在は国家の重要な秘密になるのだろう。どう見ても一般人の少年に情報がもたらされる事はなかった。

 ザムゾンに出来ることは、今は寝具の掛け布として使っている贈り物の布に向って、彼らに話しをする事を想像して、その日あった事を報告するだけだった。どこかで聞いてくれればいいと思いながら。

再び出会える日を夢見て、ザムゾンは日々を過ごした。



 そして、贈り物が届いてそろそろ半年が経とうとする頃。

 街では収穫祭の準備が始まっていた。

 神殿の神事で一番重要かつ街の最も賑わう祭り。

 その頃には国境近くで大規模戦闘が行われ、多数の犠牲者を出しながらも勝利した事実が街でも広く伝わっていた。

 神殿では常よりはやや縮小された形での神事が行われるようだが、神殿の外では大きな祭りになることが予想された。

 近く休戦協定が結ばれるであろう事も伝わっていたからだ。

 永きに渡る戦争がひとまず止まるという事だ。街の人たちは直接戦いには関係ない場所で生活をしているとは言え、戦の度に物流が不安定になりそれが作物などに及んだ時には食事と深く関係する。遠い場所で生活していても生活とは直結しているのだ。

 平和になればその不安がなくなることから、街の人たちはその事を単純に喜んでいた。

 逆にザムゾンは塞いだ気分になることが増えていた。以前より口数が減っていた。

 国は動いているのに、ザムゾンには何の知らせもないからだ。

 最初の数ヶ月はアナトールの身を案じる気持ちが大きかったが、今では彼の事を思い出しただけでも気持ちが沈むのを感じていた。

 身分の高い人だから、単に平民が珍しくて面白がったけれど今は他の事に興味が向って自分の事など忘れてしまったのかも知れない。そんな風に思えてくる。

 大切にしていた贈り物の布も最近は見ていると気持ちが塞いでしまうため、使わない服と一緒に箱に仕舞いこんで目に触れないようにしている。

 時々たまらない気分になって布を引っ張り出し、指で模様をなぞり気持ちを落ち着かせるが、気持ちが落ち着くとそんな行動を起こしてしまう自分が女々しく嫌になる。

 心の中で大きく根を下ろした彼の存在を持て余していた。

 叔母夫婦はザムゾンが寡黙になったことを大人になってきたと評価していた。

 実際、この半年で身長は伸びて体格も少年から青年に近づいているのを感じる。顔も幼さが消え、やや丸かった輪郭が細くなっている。

 これから自分がどうなっていくのか判らない、そうすればいいのか判らない中、時間だけが過ぎていくのを一種の諦めと共にザムゾンは感じていた。



 その夜は、どうにも心が落ち着かずベッドの上にあの布を広げていた。

 すっかり憶えてしまった模様を見つめているだけでも心が落ち着く。

 今アナトールがどう思っているかは判らないが、この布を送ってくれた時、彼は確かにザムゾンのことを考えていた。それだけでいい。それだけでいいんだ。そもそも自分は彼の顔を同じ高さで見つめていい身分ではないのだから。

 少しでも心が通じ合えただけでも夢のような事なのだ。いい思い出だ。そう思うしかない。

 心の中でザムゾンは自分を説得する。

 指で刺繍をなぞろうとした時、白いものが目に飛び込んできた。

 白いものは羽を広げ、ザムゾンの前で静止する。それは白い…真っ白い鳥だった。

 鳥の黒い瞳と目が合ったと思った時、白い鳥は眩しい光を放ち忽然と消えた。

 驚き目を見開いたザムゾンの前には、一枚の紙が残されていた。







良かった…何とか金曜日中に更新できました。

少し駆け足ですが、話も進みましたし。

このままの調子で今月中に終らせ、来月からは「唄う鳥・嘆く竜」の本編第二部を再開したいと思います。できるかな?なんとかなるだろう。うん。多分(苦笑)


という事で。

次回の更新は木曜日です。

では、また来週~w


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