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その17



 彼らの姿が視界から消える。

 周囲を見回すと煤だらけの壁や天井。

 中途半端に焼け残った庭の調度品が火事や戦禍の跡のような無残な姿を曝している。

 周囲で動くものはない。

 ただ一人この場に残されたザムゾンは、独りである事を強く感じ、今自分が体験したことはまるで夢の事のように思えた。

 胸に手を当て俯く。

 軽く目を瞑り自身を探ると、さっきまで力に満ちていた体内が今は空っぽになっていた。

 頼りなく心細い、いつもの感覚。

 さっきまで感じていた充実感が、今はもうどんな風だったのかも判らなくなっている。

 跡形もなく消えている。

…もしかして本当に夢だったんじゃないかな?

…それか幻覚。

 魔術の行われる場所だし、妖しげな薬も使われると聞く。その影響で存在しないものを見て、ありもしない事を経験した気になってしまったとも考えられた。

 ボンヤリとその場で立ち尽くしていると、極近くで声をかけられた。

「ザムゾン様ですね」

 顔を上げると優しい笑みを浮かべた青年が立っていた。長い上着に独特な文様の刺繍が施され神殿の人だとひとめで判る。

 彼はまるでザムゾンが高貴な人であるかのように恭しく礼をする。淀みなく美しい所作。

 服装を見ても動作を見ても、自分よりも何倍も立派で上等な人だと判る。その彼がザムゾンに敬意を払っている。

 ザムゾンは呆然とした顔のまま固まった。

 そんなザムゾンを見ても、青年からは軽んじるような様子はなく、暖かい微笑みのまま口を開いた。

「お送り致します」

「どこへ?」

「ザムゾン様のご自宅ですよ」

 アナトールとの事が夢や幻覚でなければ帰宅を促されていたのだから、すぐに思いついてもよいものだったが、こんな扱いをされたのは初めてだったから、ザムゾンは驚愕の中で思いつけずにいた。

 青年の言葉を聞いて、ようやくアナトールと出会い言葉を交わした事が現実だったと実感する。

 そしてアナトールと友人になった事。この国の重要人物と友人になってしまった事の意味が判りはじめた。

「ザムゾン様。どうなさいました?」

「ああ…家…家に帰るのですね。判りました」

 青年に尋ねられ、ザムゾンは慌てて答えた。

 青年はザムゾンの答えを聞くと、まるで当然のように「では此方へ」と帰り道へと導こうとする。行きに徒歩だったのに、これでは生まれてこのかた一度も乗ったことのない馬車で叔母さん宅である宿屋へ帰ることになる。旅人が街の外で使うならば平民でも乗ることはあっても街の中で使う者はいない。

「あ…でも、僕一人で帰れます。出口は判ってますから」

「そういう訳には参りません。私は霜刃さまの命を受けて参りましたので…」

 丁寧だが有無を言わさない態度に押し切られて、ザムゾンは生まれて初めて馬車に乗った。

 貴族や皇族の邸宅の家具のような、見事な彫刻や飾りの施された馬車。これはまるで動く豪邸だ。ザムゾンは座り心地の良い座席に座って思った。

 予想通りザムゾンは、周囲の好奇の目に注目されつつ叔母の宿屋に戻った。

 青年は詳細は告げず、要人との貴重な会話に対する敬意だと説明し、叔母夫婦はザムゾンが珍重されたことを不思議に思ったが、ザムゾンが「そのままで話したら面白がられた」と言うと何故か納得していた。



 ザムゾンの日常は戻ってきた。

 叔母夫婦を手伝い、宿屋の仕事をして日々は過ぎていく。

 だが、当の本人は事あるごとに、アナトールとキルシュと話したあの時間を思い出していた。

 気がつくとあの時に心が戻っている。

 再会の約束が果たされるのを心から待ち望むようになっていた。





ね…ねむい…

時間管理がうまく出来ず微妙な状態で更新です。

でも話は少し進んだので、良かった。

次の更新は明日の予定です~w


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