その15
アナトールの哀しみを感じる一方で、彼はザムゾンの思ったような全く味方のいない孤独ではない事を知る。ホッと胸を撫で下ろした。
次の瞬間には、そんな自分自身に驚く。
ほんの少しのやり取りしかしていないのに、アナトールに対して心の距離を感じなくなっている。まるで身内のように…否、身内の誰よりも近くに感じている。
これがアナトールの言う他の人との違いというものなのだろうか。ザムゾンにはわからない。でも何か自分とアナトールの間に他の人にはない共通点があると思ってしまうのも確かだった。
ザムゾンがアナトールを見ると、彼の視線と合った。固く暗い瞳の色がすぐに柔らかく変化する。自然な微笑みが顔いっぱいに広がった。
まるでザムゾンが思っている事がアナトールに伝わり、慰撫してあげられたようだ。
アナトールは、青年に話しかた。
「そなたには彼はどう見える?面白くはないか?」
「面白い?」
青年は不思議そうに答えた。彼も父親で大神官の男性と同じような意見のようだ。ザムゾンに対して興味もなければ関心もない。
露骨に違うと主張しないのだけが違う。
アナトールを信奉しているであろう彼は、彼の真意を知ろうと思っているのかどう表すべきかうかがうような顔でアナトールの顔を見る。
そんな反応をアナトールは想定内だと思っているのか、機嫌を悪くするわけでも落胆するわけでもなく、青年の反応を楽しむような顔をして続けた。
「ああ。力の気配を全く感じないだろう」
「えっ…あぁ。確かに。魔力が無いのは、見てすぐ判りますが…それは何の危険もないという事で…格別、面白いとは」
アナトールが言うと青年はその意見には理解を示したが、彼の感想にはどうにも同意できない様子だった。
「普通はどうだ?」
アナトールの問いに、青年は顔を輝かせる。
青年はようやくアナトールの真意を察したような顔をした。
「なるほど。そうですね。ここまで魔力がないという事は普通ではない。神殿の力の庇護があるから、この街での生活では支障はないでしょうが。街から一歩外に出るとなると大変な思いをしそうですね。そういう意味では確かに面白いかも知れません…」
青年は普通ではない事は判ったが、どうにも納得がいかないようだった。
青年にとって魔力がないという事は興味の対象にはならないのだろう。
その答えを聞いて驚いたのはザムゾンだ。
改めて自分が他の人と違うという事を知る。
今は街の外に出る事は考えていなかったが、思いもよらない自分の体質を伝えられて、困惑する。街に居れば大丈夫だということだから、すぐに困ったことになる訳ではないのだろうが、知らないと何かと不便なことが起こるかも知れない。
アナトールが小さくため息をついて口を開いた。青年に向けて話かける。
「まぁ、判らないのなら。無理に判った振りをしなくてもいいさ。それより、何か私に用があったのだろう?」
「そうでした。火急の用事です。リンドナー騎士団長殿が折り入って話しがあるとか」
「いよいよ…か」
青年の言葉にアナトールが答える。
それに次いで大神官が重々しく答えた。
「そうだ。その時が来たようだ」
大神官の言葉にアナトールは大きく頷いた。遠い場所を見つめるような瞳をする。
ザムゾンの肩に乗っていたキルシュは翼を広げて宙を舞い上がった。
「こんな場所で力の浪費をしている状態ではないという事だったのだな」
アナトールが呟くとキルシュが音も無く彼の肩に留まり、彼の言葉に呼応するように言った。
「遊びの時間は終りのようね」
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