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その14


 大神官と呼ばれた男と共に、青年も慌てて深々と丁寧なお辞儀をする。

 キルシュに向ってしているものだが、ザムゾンの肩に乗っている以上、ザムゾンに向ってしているのも同じ事だ。

 立派な恰好をした大人二人に頭を垂れられ、ザムゾンははじめての経験に落ち着かなくなる。どうすればいいのか判らない。

 助けを求めるようにアナトールを見ると、アナトールはザムゾンの視線を受け目配せをする。

 小さく微笑み、了解の意を示した。

「まぁまぁ…キルシュ。そんな風に苛めることないじゃないか」

「あら。苛めてはないわよ」

 アナトールがなだめるように言うと、キルシュは澄ました顔で答えた。

「そうは思えないのだが…まぁ良い」

 小さくため息をついてアナトールは話を変えた。アナトールは柔らかい笑顔を浮かべ、寛大な身分の 高い人物の表情で話しかける。

 微かな緊張をザムゾンは感じた。男達が声をかける前までの柔らかい雰囲気は消失して、表面だけは穏やかだが緊張が漂っている。

「では。二人とも、私の命だ。面を上げよ。お前達の意見が聞きたい」

 アナトールの言葉に二人は頭を上げた。

 大神官は何か含んだ顔をしながら口を開いた。

「どのような意見でしょうか?」

「この少年の事だ。どう見える?さっき術を使って探ったであろう」

「そうですな…何の力も感じませんでした。私には普通の少年としか言いようがありませんな。この少年が本当にアナトール殿を静めたのですか?」

 大神官は術を使った事を隠そうともせず、単単と答えた。。

 彼の言葉を聞いて、ザムゾンは術で内部を探られたから、変な感覚に襲われたのだと悟った。

 大神官の疑問にアナトールは答える。

「だがそうなんだ。もう判っているだろう。この場所を調査したのだから。それに私とこうして、まともに話ができている」

「確かにそうですな」

 大神官は不承不承納といった様子でうなづいた。

「今日は調停者の命、繋がったようだ。私も安心したよ。この少年…ザムゾンに感謝してくれ」

 自嘲的な笑いをしながら、アナトールは青年に言った。調停者と呼ばれた青年は慌てて口を開く。

「霜刃さま!そんな言い方止めて下さい」

「ん?その覚悟で来たのだろう?杞憂に終って良かったな」

「そんな滅相もありません」

「大切な調停者を何人も失うことなど、国家の損失だからな。私は本当に良かったと思ってますぞ。それに大事な一人息子だ。親としての立場からも感謝せねばな。少年。ありがとう」

 やや不遜な態度で感謝を示されたが、ザムゾンにとってはそっちの方が慣れている。

「いえ…僕もどうしてだか判らないのですが…力になれて良かったです」

 ザムゾンが素直な言葉を示すと、大神官は迫力のある笑顔を浮かべた。だが本当に嬉しそうだ。その顔を見ている限り悪い人では無さそうだ。

「父上。そんな言葉と態度…霜刃さまの批判など、とんでもありません」

「いいや。父より先に息子が亡くなる事を良しとするなど…私はお前をそんな親不孝者に育てた覚えはない」

「口が過ぎます。父上。父上こそ国内外で名を轟かせるほどの術者なのに、そのもの言いよう。おかしいですよ」

「おかしいのは、この世界全体だろう。私ではない。三十年ほど前から隣国がおかしくなっておったのは確かだが、この国までこぞって一緒におかしくなる必要はないだろう。アナトール殿そうは思わないだろうか」

「父上!」

「唄う鳥と嘆く竜の御前であるぞ、その呼び方は止めなさい」

「確かに…この場にそぐわぬ言葉使い、大変申し訳ありませんでした」

 調停者の青年はキルシュとアナトールを見て、目礼しつつ謝罪の言葉を述べた。

 この場所に相応しくない言葉だと気がついたようだ。大神官自身は公私混同した物言いをしたままで、自分の事は棚上げしているのだが、調停者の彼はそれではいけないと思っているのだろう。

 彼は謝罪した後に、悔しそうな顔で大神官を睨みつけた。

「いいんだ。君の父の言うことはもっともだ。本来ならば、こんな術に頼らずとも平和を勝ち取れれば 苦労はないのだが…お前達には苦労をかける」

「そんな風におっしゃられると、わが身の力の無さを深く痛感しますな。この現状は先達であるべき我々やその祖先様達の不甲斐なかった故。それ故のアナトール殿の決意と行動ですからな」

「そうですよ」

 大神官が殊勝な顔をすると、調停者はやっと元気な声で反論を始めた。

「私は霜刃さま無くして、この国の平和は掴めない。そう確信しています。そのための犠牲など…これまで戦で失った同士たちを思えば、何でもありません」

「そうか。ありがとう。これからも、宜しく頼む。頼りにしているぞ」

 アナトールは悠然と笑って調停者に言葉をかける。その瞳は哀しみをまとっていた。

 ザムゾンにはそれが見て取れた。

 だが、声をかけられた調停者の青年は違ったようだ。

 はにかむような笑顔で嬉しそうに返事をした。

「はい。貴方のお力にかれるよう頑張ります」

 調停者の返事を聞いてアナトールの目が闇の色をまとった。

…いつか、術の暴走でこの方を失う事を恐れている。だがそれを恐れていると強く表してはいけない。

 こうやって、彼の哀しみの日々は続くのだろう。

 そうザムゾンは感じた。




今日もなんとか予定通りの金曜日に更新できました。

ぎりとは言え、予定通りに出来た自分を自分で褒めておきます。

次は来週の木・金曜日予定です~

また来週w




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