表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/28

その11



 遠くから声がした。ザムゾンが振り返ると二人の人物がコチラに向かって声をあげている。

 二人は遠目からでも肌の露出が極端に少なく、濃い色合いの布に文様が描かれた服を着ていた。

 馴染みのある意匠の図形の組み合わせ。

 神殿の外にも内部にも入り口にも、神殿にかかわるあらゆる場所で目にするモチーフ。

 神殿にまつわる物が随所に散らばる服装は、ひとめ見ただけで神殿の仕事をしているという事が判る。長い上着の下は真っ直ぐなズボンをはいているから男性だという事が判る。

 女性であれば、短めの上着にすそが広がるスカートをはいているからだ。

 話によると儀式の間は、普段目にする衣装とは全く違った形や色らしいのだが、平民のザムゾンには関わりのない話だだった。

 その彼等がこちらに向って声を上げている。

 ザムゾンは耳をすました。

「アナトール」

「霜刃さま」

 さっきまではひとつの音の固まりにしか聞こえなく、なんと言っているのか聞き取れなかったのだが、視線を向けることによって、二つの単語が判別できた。

 ひとつは目の前の男の名前だと判るが、もうひとつは判らない。

「・・・・・・霜刃さま?」

 疑問はつぶやきになって、無意識に口から出ていた。

 隣でアナトールがフッと笑った気配がした。

「それは私の呼び名だ」

「アナトールの呼び名?」

「ああ。そうだ。本来は私の使う術の名前なのだがね」

 ザムゾンの質問にアナトールは嬉しそうに答えた。

「術の名前」

「そうだ。神殿内では『霜刃』と呼ばれる事が多いな…前の調停者がそう呼ぶものだから、すっかり定着してしまった」

 ちょっと困った声でアナトールが言う。

「他の人と呼び名が重なったりしないのですか?」

 疑問を口にすると、アナトールは哀しそうな声で答えた。

「そんな簡単な術じゃないんだ。多分この世で『霜刃』使い手は私くらいだろう。炎の柱で全てを切り裂く術だ。人も建物も関係なく、全てを焼き尽くす」

 終りの方は悔恨の色がうかがえる。

 アナトールの説明にさっきまで彼が起こしていた現象が重なる。

 あれは間違って術が発動したという事なのだろうか。

「では…さっきのは…」

「同じではないが、関係なくはないな。術の残滓のようなものだ。暖炉の火を消してしまわないように、炭火を灰に埋めたりするだろう。いつでも火をつかえるように」

「埋み火ですか?」

「そうそれのようなものだ」

「では、さっきの事は大した事ではなかったと」

「そうだ。何かのきっかけで炎は燃え盛る。術を発動してしまったら、神殿は木っ端微塵だから大した事ではないと言えなくはない」

 全てを焼き尽くす劫火の中にいるように思えていたが、今の説明では大した事のないように聴こえる。

 ザムゾンが見たのが初めてだからなのかも知れないが、どうにも納得いかない。

 大きな戦という言葉も、街で暮らしていたら、戦に関わる情報は入ってくるが、戦は遠くで行われているので実感が沸かない。

 風の街は皇帝が直接統治する四つある街のひとつだが、主に皇帝の居住となっているのは王都フレアであり、この街とは距離がある。

 高位の貴族はそれぞれ統治する領地を持ち暮らしているし、特別な時以外は皇族も貴族達もこの街に逗留することは少ない。

 この地に関係するそう位の高くない貴族の邸宅はあるが、戦と大きな関わりがあるとはいえなかった。

 そんな中で暮らしていると、戦の影響は大規模であればあるほど、街の外から物が入ってこないという事だけだ。

 直接困るのは食料に関わることだけで、それは天候不順による不作や、疫病によって農村がダメージを受けた時とあまり変らない。

 ザムゾンは改めて自分が暮らしているこの場所が安全な所だったのだと気がついた。




何とか木曜日に更新・・・

なかなか生活リズムが戻りません(^^;)

次の更新は明日です~


頑張ります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ