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その10



「ゆゆゆゆ・・・友人?!」

 いきなりの思っても見なかった宣言にザムゾンは驚いた。頭の中が真っ白になる。

「そんな・・・僕は・・・」

 何も考えられなかったが、とんでもないことが起こったことだけは判った。

 さっきザムゾンはこの場所へ二度と足を踏み入れることもできなければ、アナトールやキルシュとも二度と会えないことを覚悟した。その決断を一言で180度変えてしまった。

 アナトール自身は本気でそう思っているのだろうか。

 もしそうだとして。そんな事が本当に許されるのだろうか。

 ザムゾンの胸の中を様々な不安が過ぎる。

 呆然とした表情のザムゾンを見て、アナトールが眉にしわを寄せ怪訝そうな顔をした。戸惑うように口を開いた。

「もしかして迷惑だったのだろうか?」

「迷惑だなんて…そんな事ありません」

 ザムゾンはアナトールの言葉を聞いて即座に否定する。

「なら、いいだろう。私には同士はいても友人はいないのだ。いや・・・厳密にはいた。何人も。思い返せばかなりの数の友と語らい充実した時間を過ごした事もあったな」

「全て遠い過去の事だが…」

「遠い過去?この生活をどれくらい続けているのですか」

「ああ。そうだな。かれこれ20年くらいこういう生活をしている」

…一体、幾つなんだろう。

…人でなくなる位に永く生きてきたのだろうか。

 ザムゾンの脳裏に出会った時のアナトールの姿が浮かぶ。炎に包まれた神の化身のような姿。

 疑問をザムゾンは口にしなかったが、アナトールにはわかったようだ。小さく笑うと口を開く。

「こんななりだが私は今年で五十二歳だ…いや三かな。四か…どうだったよな。キルシュ」

「最初の回答で合っているわよ。もう自分の歳くらい憶えていて欲しいわね。私は自分の歳を忘れたこともないのに」

「では、キルシュは幾つなんだ」

 呆れたようにキルシュが言うと、アナトールはいたずらを仕掛ける子供のような表情で問いかける。

「判ってるでしょ。貴方には以前教えたのだから。淑女に年齢を問うなんて…必要ならば教えるけれど」

「いえ。そんな必要はありません」

「ほぉら。礼儀正しい。精神的にはアナトールよりもザムゾンの方が大人ね」

「そんな事ないです」

 ほめられて嬉しくなる。ザムゾンが頬を赤らめて緩める。

 そして質問の答えが途中だったことを思い出した。

「それで…どうして、貴方はそんな姿なのですか」

「術の影響で、みかけの年齢が二十台で止まっているんだ。大きな術を完成させたのはいいが、代償は見える形にも表れたという訳だ。まぁ。歳を取る術を使えば歳相応に見えるようにも出来るが…わざわざ術を使って歳を取るなど意味があるとも思えないから、このままの姿でいる。私の存在の異質さは、見た目を普通にしただけで隠しおおせるものでもないからな。普通の術者など遠方でも私の存在を察知することが出来るから、隠れることさえも出来ない。まぁ…私を守る必要はないのだから。隠れる必要など何もないのだがな」

 確かに歳よりも年齢は高いが、ザムゾンはアナトールに友人がいないという言葉から、人の寿命よりも永く生きていたのだと勝手に考えていた。

 その位の年齢の人なら、ザムゾンの住む町にも沢山いる。

 度重なる流行病を潜り抜けて現役で働いている人も多い。

 なのに、アナトールの友人は存在しない。それはどういうことなのだろう。

「でも…だったら、ご友人達は…」

 ザムゾンが尋ねると、アナトールはここではない何処か遠くを見つめるような瞳をした。

「死んだよ。私をおいて・・・術の完成を見ずに、みんな私をおいて先に逝ってしまった」

「術の完成?」

「ああ。術を完成して望みを叶えることが、私達の夢だった。みんなの望みを託され、ひとり残された私は、ひとり術を完成させた。そして今はその夢を叶える最後の準備にかかっている。そのためだけに、私は生きてきている」

「友達がみんないなくなって…だから、寂しいのですか」

「そうかも知れないね」

「どんな術なのですか」

「この国の平和を掴みとれる強大な術だよ。わずか数十年でもいいから、停戦できればと思っている。大きな戦のない国にしたいのだ。それがみなから託された仕事だ。私はそれをやり遂げねばならない」

 まるで遺言のような言葉。

 望みが叶ったら、もう思い残すことはないと言っているようにも聞こえる。

 まるで過去に囚われているようだとザムゾンは思った。

 未来への希望や期待や喜びを感じない。それが哀しさの本質に思える。

 彼は大きな力と役目を追い、死んでいった友人との望みを叶えるためだけに生きている。

 ザムゾンの胸に言いようもない強い衝動が駆け抜けた。

「アナトール」

「なんだ。ザムゾン」

 敬称もつけずに名前を呼ぶと、アナトールは嬉しそうに頬を緩めた。

「僕をあなたの友達にして下さい」

 ザムゾンの言葉を聞いて、アナトールの顔が輝く。嬉しそうだ。

「いいのか?本当に」

 アナトールの笑顔を見て、ザムゾンも嬉しくなってくる。

 自分の気持ちを確認した。この神々しくも寂しい彼の力になりたい。

「僕がアナトールの友達になりたいんです」

「ありがとう」

 嬉しそうな顔はアナトールを見た目よりも更に若く見える。

 自分の小さな力でも彼を喜ばせる力がある。

 それを実感てザムゾンの小さな胸に大きく温かい喜びが湧き上がってきた。




ここまで読んで頂きましてありがとうございます。


もう少し早い更新を目指していましたが、やっぱり夜になってしまいました。

がっかり。

でも夜と書くと夜を越えそうなので、一応夕方を目指して頑張ります。

(もしかしたら昼って予定にすると夕方になるのかな?うぅむ。自分の事だから管理が超難しい^^;)


次回の更新は、水・木・金曜日の中で2回の予定です。

(ここのところの時間の使い方だと木曜日&金曜日の可能性が濃厚)

がんばりますw



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