この物語はエピローグである【巫女と生贄】
「巫女様~」
わたしを呼ぶ声がする。
巫女様巫女様うるさいのよ。わたしは、村人たちの呼び声を無視して森に隠れ続けた。
この深緑月村の巫女――瑞月。
巫女だなんて体制のいい名前で呼ばれてるけど、本当は違う。
生贄。若い娘をささげる。この村の気色悪い風習。
「見つけましたよ。巫女様」
後ろから声をかけられ、びくりと肩を揺らす。
振り返ると、無表情な女性が立っていた。
「……お姉様」
姉、瑞花。
わたしが交流できる数少ない人間。
巫女は四歳のおなごから選ばれ、10年間森に幽閉――失礼。10年間森で精霊と触れ合った後、森の中心部にある湖から、神に嫁ぐ。
神だのなんだのは信じてない。湖で嫁ぐなんて外面だけで、本当は――湖に沈められるだけなのよ。
いつか逃げてやる。そう決めてから三年が経ち――今、13歳。
10年森にいる――というのは平均で、月の障りが来たら、神に嫁ぐの。
わたしは姉に手を引かれながら、密かに脱走計画を考えていた。
・・・
一方その頃、村では。
瘦せこけた男たちが、食料を求めて村を攻めてきていた。
しかし栄養失調の男たちが、力のあるこの村の人間に叶うわけがなく、あっけなく捕まった。
「ゔっ」
村長の前に、拘束された状態で突き出される男たち。
その中に一人――少年がいた。
「子供以外殺せ」
村長の一言で、村の男は刃物を取り出した。
・・・
「お前は、連中の中で一番強く、捕まえるのに三人の犠牲が出た」
「……なら、とっとと殺せばいいじゃないか」
「最近、巫女の住まいの近くに獣が多く出てな。わしらだけじゃ対処できんのじゃ」
「……つまり」
命がけで獣を狩れと。
村の行動は早かった。数日後には、最低限の食料と衣服を与えられ、森の中で過ごしていた。
――星乃。
少年の名だ。
星乃は気から飛び降り、猪に向かって刃物を突き立てた。
ズッ
刃物を抜きながらゆらりと立ち上がる。
頬についた血をぬぐって、はあ、と小さくため息をついた。
「なんでこんなに獣が多いんだ。あの巫女……”月の障り”のこと隠してるから神が怒ってんじゃねぇのか?」
いや、隠すなんてことは無理か。
巫女の生活はそこそこ把握してるつもりだ。星乃が知っている範囲ですでに隠すことが無理だと確信させるなら、彼女の生活は相当――
「いや、関係ねぇな」
髪を一度ほどき、結びなおす。
後ろからガサ、と音がして、刃物を持ち直し振り返った。結び損ねた髪が肩にかかる。
「……人?」
よく見るとそこにいたのは獣などではなく――巫女、瑞月だった。




