第26話 総力戦! 魔王軍・帝国軍・そして……
ズガァァァァァァァン!!
神獣ラグナロクの口から放たれた閃光が、地平線を薙ぎ払った。
一瞬にして山脈の一つが蒸発し、地図から消滅する。
「……バケモノめ」
前線基地で指揮を執る皇帝ヴォルダールが、額の汗を拭った。
自慢の帝国戦車隊が、蟻のように小さく見えるほどの巨体。そして、あらゆる攻撃を弾く『絶対防御障壁』。
「全砲門、撃てぇぇぇ! 奴の足を止めろ!」
ドォォォォン!!
帝国軍の戦車隊が一斉射撃を行う。しかし、砲弾は神獣の障壁に阻まれ、傷一つつけられない。
『無駄だ無駄だぁ! 神の力に、人の作った鉄屑が通じるものか!』
神獣の頭上で、法皇の高笑いが響く。
彼は狂っていた。自国の領土が焼かれ、民が逃げ惑う惨状を見ても、なお恍惚としている。
「くそっ、ジーク! 解析はまだか!」
ヴェルムが通信機に怒鳴った。
後方の技術班テントでは、魔法研究所長ジークと、財務官ミナが凄まじい勢いで作業していた。
『待ってください社長! あの障壁、魔力じゃない! 『位相ズレ』を利用した空間断絶です!』
『……計算終了。周波数14.5MHzの逆位相をぶつければ、0.5秒だけ穴が開く』
ミナが冷徹に告げる。
「0.5秒か。……十分だ!」
ヴェルムは前線のアーサーとヴォルダールに繋いだ。
「聞こえるか、肉体労働担当の二人! 今から障壁をこじ開ける! その瞬間に最大火力を叩き込め!」
『フン、人使いの荒い魔王だ!』
『了解! ……行くぞ、皇帝陛下!』
◇◇◇
戦場を駆ける二つの影。
一人は、金色のオーラを纏った聖剣の使い手、元勇者アーサー。
もう一人は、巨大な戦斧を振り回す隻眼の猛将、皇帝ヴォルダール。
本来なら敵同士だった二人が、背中を預けて疾走する。
「おい若造! 遅れるなよ!」
「アンタこそ! 腰を痛めても労災下りないからな!」
二人が神獣の懐に潜り込んだ瞬間。
後方からジークの声が響いた。
『――ジャミング弾、発射ッ!』
帝国戦車から放たれた特殊弾頭が、神獣の障壁に着弾。
キィィィィン……!
不快な音と共に、障壁にわずかな亀裂が走る。
「今だぁぁぁッ!!」
アーサーとヴォルダールが跳んだ。
「流星剣!!」
「覇王断!!」
光と闇、二つの絶技が交差し、神獣の脚部に直撃した。
グオオオオオオオオオッ!!
神獣が悲鳴を上げ、巨体がぐらりと揺らいだ。
膝をつく神獣。
「やったか!?」
「いや……まだだ!」
ヴェルムが叫ぶ。
神獣の背中の翼が、不気味な赤色に発光し始めたのだ。
口元に収束していく、先ほど山を消し飛ばした破壊の光。
『小賢しい虫ケラどもめ……! ならば、この一撃で国ごと消し飛べぇぇぇ!』
法皇が叫ぶ。
エネルギー充填率、120%。
至近距離で放たれれば、アーサーたち前衛部隊は消滅し、後方の都市も壊滅する。
「逃げろアーサー!」
「間に合わない……ッ!」
アーサーが盾を構える。だが、防ぎきれる出力ではない。
万事休すか。
誰もがそう思った、その時だった。
ヒュンッ!
ヒュンッ!
空から数条の光が降り注ぎ、アーサーたちの前に「壁」を作った。
それは、幾重にも重ねられた、純白の多重防御結界だった。
ズガァァァァァァァァン!!
神獣の極大ビームが結界に衝突する。
大地が震え、視界が白く染まる。
だが――。
「……防いだ……?」
煙が晴れると、そこには無傷のアーサーたちがいた。
そして、彼らの前に立ち、煙を噴く杖を構えていたのは――。
「ターゲット、沈黙を確認。……防衛成功」
純白の修道服ではなく、魔王軍の黒い制服に身を包んだ少女たち。
かつて法皇に捨てられ、魔王軍に保護された『人造聖女』部隊だった。
「な、な……ッ!?」
法皇が目を見開いて絶句した。
「き、貴様らは……廃棄したはずの失敗作ども! なぜ動いている! なぜ命令もしていないのに盾になった!?」
先頭に立つ個体――アルファが、無表情のまま法皇を見上げた。
だが、その瞳には以前のような虚無はない。確かな意志の光が宿っていた。
「訂正します。我々は『失敗作』ではありません」
アルファは、胸につけた社員証を誇らしげに掲げた。
「我々は、魔王軍所属『特別警備課』の社員です。……社長と、仲間を守るために来ました」
彼女の後ろには、数十人の人造聖女たちが並び、そしてその後ろには――アリアが立っていた。
彼女は汗だくになりながら、全員に魔力供給を行っていたのだ。
「遅いじゃない、アルファ! ヒヤヒヤしたわよ!」
「申し訳ありません、チーフ(アリア)。……プリンを食べてから来たので、3分遅れました」
「もう! 帰ったら説教ね!」
軽口を叩き合いながら、彼女たちは笑った。
道具として生まれ、道具として捨てられた彼女たちが、初めて「自分の意志」で戦場を選んだのだ。
「おのれぇぇぇ! 道具風情がぁぁぁ!」
法皇が激昂する。
「道具じゃねぇよ」
その声を遮ったのは、ヴェルムだった。
彼は転移魔法で戦場の中央に降り立つと、指輪を掲げた。
「法皇。お前には分からんだろうな。……『社員』はな、大切にすればするほど、期待以上の成果を出してくれるもんなんだよ!」
ヴェルムの号令が響く。
「総員、反撃開始! あのブラック経営者に、とびきりの『退職届(引導)』を渡してやれッ!!」
ホワイト企業連合軍による、最後の一斉攻撃が始まった。




