第24話 魔王流・集団面接
戦場は、一方的な「保護活動」の場と化していた。
「排除シマス。排除シマス」
機械のように呟きながら、人造聖女たちが突っ込んでくる。
彼女たちの戦い方は異常だった。
防御を一切捨て、肉体が崩壊するほどの過剰な魔力を拳や杖に纏わせた特攻。
それは「自分は壊れてもいい」という、究極のブラック思考そのものだ。
「……たく、見てらんねぇな!」
勇者アーサーが、突進してくる少女の懐に潜り込んだ。
聖剣の柄で、鳩尾を鋭く突く。
「ガッ……!?」
「動きが直線的すぎるんだよ。……少し寝てろ!」
ドサッ。
少女が気絶して倒れ込む。アーサーはすかさず彼女を優しく受け止め、近くの芝生に寝かせた。
「次! そっち行ったぞリリィ!」
「了解です! 特製『モチモチ粘着ネット』、発射!」
リリィが杖を振ると、空中に巨大なスライム状の網が出現。
飛びかかってきた三人の人造聖女を、空中でボヨンと絡め取った。
「捕獲完了! ……うわぁ、この子たち、肌がガサガサですよ。全然ケアしてないんですね」
「あとで温泉に入れてやれ。経費でな」
後方で指揮を執るヴェルムが指示を飛ばす。
魔王軍の面々は、圧倒的な実力差をもって、少女たちを次々と無力化していった。
だが――。
「損傷率、70%突破。……戦闘継続不能」
戦場の中心で、一人の個体が立ち止まった。
リーダー格と思われる個体だ。彼女は無表情のまま、自身の胸に手を当てた。
「機密保持のため、自爆シークエンスへ移行。……半径500メートルの汚染浄化を開始」
キィィィィィン……!
彼女の体が、目もくらむような白光を放ち始めた。
体内の魔力炉を暴走させ、周囲ごと吹き飛ぶつもりだ。
「させるかよッ!」
アーサーが駆け出そうとするが、光の圧力に阻まれる。
間に合わない。
「――いいえ。死なせません!」
光の奔流の中に、一人の女性が飛び込んだ。
アリアだ。
彼女は防御結界も張らず、自爆しようとする人造聖女に抱きついた。
「ターゲット確認。……離れろ。巻き込まれる」
「離さない! あなた、名前は!?」
「……個体識別番号、アルファ。……道具に名前は不要」
アルファと呼ばれた少女の瞳は、どこまでも虚無だった。
「私は壊れた。廃棄される。……それが、法皇様の『正義』」
「違うッ!!」
アリアが叫んだ。
かつての自分の姿が重なる。
「自分は道具だ」「使い潰されて当然だ」と思い込まされていた、あの日々。
「壊れたら治せばいい! 疲れたら休めばいい! そんな当たり前のこともさせてくれないのが、正義なわけないでしょう!」
「理解不能。……休息は罪悪。労働こそが……」
「うるさいっ! 黙って私の『業務命令』を聞きなさい!」
アリアは、アルファの額に自分の額を押し当てた。
そして、最大出力の治癒魔法を発動させた。
「強制鎮静! ……あなたは今から、たっぷり8時間寝るのよ!」
ブワァッ!
アリアから溢れ出したのは、傷を治す光ではない。
暴走する神経を鎮め、昂った魔力を優しく包み込む、母のような波動だった。
「あ……が……?」
アルファの暴走が止まる。
張り詰めていた糸が切れるように、彼女の瞳から力が抜けていく。
「……ねむ……い……?」
「そうよ。眠いの。お腹も空いてるはずよ」
「……任務……法皇様……」
「そんなの忘れて。……起きたら、美味しいプリンが待ってるから」
プリン。
その単語に、アルファの無機質な瞳が、一瞬だけ揺らいだ気がした。
「……ぷりん……」
カクン。
アルファの体が脱力し、アリアの腕の中に倒れ込んだ。
自爆の光は消え、ただ安らかな寝息だけが残った。
「……はぁ、はぁ……」
アリアはその場にへたり込んだ。
全身汗だくだったが、その顔は晴れやかだった。
「……よくやった、アリア」
いつの間にかそばに来ていたヴェルムが、彼女の肩に手を置いた。
「見事な『圧迫面接(説得)』だったぞ」
「社長……。……私、彼女たちの教育係に立候補してもいいですか?」
アリアは腕の中のアルファを見つめて微笑んだ。
「この子たちに、お祈りの言葉じゃなくて……『いただきます』と『おやすみなさい』を教えてあげたいんです」
「採用だ。特別手当も出そう」
ヴェルムは周囲を見渡した。
そこら中で、スヤスヤと眠る人造聖女たちが、魔王軍によって担架で運ばれていくところだった。
その光景は、戦場というよりは、野外フェスの休憩所のようだった。
「さて、と」
ヴェルムは南の空――法皇国の方角を睨みつけた。
「大切な『新入社員候補』たちを爆弾扱いした罪は重いぞ、法皇。……次は、こちらから『監査』に行かせてもらおうか」
魔王の瞳が、静かに、しかし激しく燃え上がった。
守るための戦いは終わった。
次は、元凶を断つための戦いだ。




