第23話 南の空から、不穏な影 ~量産された『聖女』たち~
聖王国と帝国の国境付近。
ここでは現在、大陸初となる『魔導鉄道』の敷設工事が急ピッチで進められていた。
「オーライ! 枕木、もうちょい右だ!」
「休憩入るぞー! 魔王軍から冷えた麦茶の差し入れだ!」
現場は活気に満ちていた。
かつては敵同士だった王国兵と帝国兵、そして魔王軍のオークたちが、汗を流しながら一つの線路を作っている。
「皆さん、無理はしないでくださいね。水分補給はこまめに!」
白衣を羽織ったアリアが、現場を駆け回っていた。
彼女の今の仕事は、この大規模工事現場の『巡回産業医』だ。
「お、アリア先生! いつもすまないねぇ」
「いえ、これも仕事ですから!」
アリアは笑顔で答えた。
誰かのために働くことが、こんなにも清々しいとは知らなかった。
「感謝される」という報酬が、彼女の心を何よりも満たしていた。
だが、その平和な風景は、突如として切り裂かれた。
――ドォォォォン!!
爆発音が響き、建設中の橋脚が吹き飛んだ。
土煙が舞い上がり、作業員たちの悲鳴が上がる。
「な、なんだ!? 事故か!?」
「いや、空を見ろ! 何か来るぞ!」
アリアが空を見上げると、南の空から数条の光が飛来し、地面に突き刺さった。
もうもうと立ち込める煙の中から現れたのは、純白の修道服を纏った集団だった。
「……教会の、聖女……?」
アリアは息を飲んだ。
だが、違和感があった。
彼女たちは全員、同じ顔、同じ背丈、同じ髪型をしていたのだ。
そして何より――瞳に「光」がなかった。まるでガラス玉のように無機質だ。
「ターゲット確認。……魔王軍および帝国軍の施設を破壊します」
先頭に立つ一人が、抑揚のない声で告げた。
手にした杖から、禍々しいほどの高出力魔力が溢れ出す。
「まさか……噂に聞いていた『人造聖女』……!?」
アリアの顔色が蒼白になる。
法皇国が極秘に開発していたとされる、感情を持たず、命令のみに従う生体兵器。
それは、アリアのような「人間」を教育(洗脳)する手間すら省いた、法皇国が求めた「理想の労働者」の姿だった。
「排除を開始します」
人造聖女たちが一斉に杖を掲げた。
放たれたのは、本来癒やしに使われるはずの聖なる光を、攻撃用に転用したレーザー(光魔法)だった。
チュドォォォォン!
線路が、資材が、次々と焼き払われていく。
「逃げて! みんな逃げてぇぇぇ!!」
アリアは叫び、無我夢中で作業員の前に飛び出した。
防御結界を展開する。
ガギィィン!
数本のアリアの結界が、人造聖女たちの攻撃を受け止める。
だが、重い。
出力が段違いだ。彼女たちは「寿命」や「精神崩壊」を度外視した、リミッター解除状態で魔法を放っているのだ。
「ぐぅ……ッ! やめなさい! こんなことして、何になるの!」
アリアの問いかけに、人造聖女は首をかしげた。
「質問の意味を理解できません。我々は道具です。道具に意志は不要です」
「道具……!? あなたたちは生きているのよ!?」
「否定します。我々は消耗品です」
人造聖女の一人が、過負荷で杖が砕け散るのも構わず、魔力を高め続けた。
その腕が、魔力の暴走でどす黒く変色していく。
自爆覚悟の特攻だ。
「目標、完全消滅まであと3秒……2……」
「やめてぇぇぇぇッ!!」
アリアの絶叫が響く。
その時。
ズドンッ!!
上空から黒い稲妻が落ちた。
漆黒の魔力が人造聖女たちの間を駆け抜け、彼女たちを吹き飛ばした。
「……まったく。ひどい『不法投棄』があったもんだ」
土煙の中から現れたのは、黒いローブを翻した魔王ヴェルムだった。
その背後には、聖剣を抜いたアーサーと、戦闘態勢のリリィが控えている。
「しゃ、社長……!」
「遅くなってすまない、アリア。……怪我は?」
「私は平気です! でも、あの子たちが……!」
ヴェルムは冷徹な瞳で、起き上がってくる人造聖女たちを見据えた。
ボロボロになってもなお、無表情で攻撃を続行しようとする少女たち。
「痛みも、恐怖も感じないように改造されているのか。……法皇の奴、とことん『コストカット』しやがって」
ヴェルムの拳が、ギリリと握りしめられた。
彼は怒っていた。
敵としてではなく、一人の経営者として。
労働者を「人」として扱わず、ただの「部品」として使い潰す、その腐りきったシステムに対して。
「リリィ、アーサー。……殺すなよ」
「えっ?」
「あいつらは被害者だ。全員『無力化』して保護する。……ウチの技術部と医療チームで、人間に戻してやる」
ヴェルムは指輪を光らせた。
ダンジョンマスター権限、最大解放。
「総員、業務命令だ! あの『可哀想な社畜たち』を、残業地獄(戦場)から定時退社(保護)させろッ!!」
魔王軍と人造聖女部隊。
互いの信念(ホワイト vs ブラック)をかけた戦いが、今始まる。




