表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元社畜、ダンジョンマスターになる。 ~残業ゼロ・福利厚生完備の魔王軍を作ったら、人間界の勇者まで転職してきました~  作者: 綾瀬蒼
第2章「国家再建コンサルティング編」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/28

第22話 魔王軍の新入社員歓迎会

 その夜。ダンジョンの大食堂は、いつにも増して熱気に包まれていた。

 天井には魔法の照明が煌々と輝き、テーブルには山盛りの料理と、樽ごとの酒が並べられている。


「えー、それでは」


 上座に立ったヴェルムが、ジョッキを片手に挨拶を始めた。


「我が社(魔王軍)に新しい仲間が加わった。元・聖女であり、今日から『産業医』として働いてくれる、アリア先生だ。……乾杯!」


「「「かんぱーい!!」」」


 ドワーフ、オーク、人間、アンデッド。種族を超えた唱和が響き渡り、宴が始まった。


「よっ、新人さん! これ食いな、猪の丸焼きだ!」

「アリア先生、あとで私の肩こり診てくださいよ~」


 次々と話しかけてくる魔物たちに、主賓席のアリアはカチコチに緊張していた。


「は、はいっ! ありがとうございます! ……あの、お酒は教義で禁止されていて……」

「まぁまぁ、固いこと言いなさんなって! ここは法皇国じゃないんだ。ほら、この『ダンジョン特製・完熟フルーツワイン』、ジュースみたいで美味いぞ?」


 陽気なサキュバスのお姉さんに勧められ、アリアは恐る恐るグラスに口をつけた。


「……ん、甘い……おいしい……」


 口当たりは極上のブドウジュース。しかし、そのアルコール度数はドワーフも唸るほど高かった。


 ――10分後。


「うふふ……あははは……」


 アリアの顔が、茹でダコのように真っ赤に染まっていた。

 視点が定まらず、ふらふらと揺れている。


「おーい、アリア? 大丈夫か?」


 隣の席のアーサーが心配そうに覗き込む。

 その瞬間。


 ダンッ!!


 アリアが空のジョッキをテーブルに叩きつけた。

 食堂が一瞬で静まり返る。


「……きいて……」

「ん?」

「私の話を……ききなさぁぁぁぁいッ!!」


 聖女が、吠えた。


「なんなのよもー! あいつら信じらんない! 法皇のクソジジイ! 何が『清貧』よ! 自分はブクブク太ってるくせにぃぃぃ!」


「ぶふっ!」

「せ、聖女様が『クソジジイ』って言ったぞ!?」


 ヴェルムが吹き出し、魔物たちがざわめく。

 だが、アリアの暴走は止まらない。長年蓄積されたストレスのダムが決壊したのだ。


「朝四時起きって何!? 新聞配達より早いわよ! しかも朝ごはんは固いパン一個! 育ち盛りになんてことすんのよバカァ!」


 彼女は近くにいたヴェルムのローブを掴み、涙目で訴えかけた。


「ねぇ社長ぉぉぉ! 聞いてくださいよぉぉ! 私、オシャレもしたかったの! 可愛い服着て、街でクレープとか食べたかったの! なのに来る日も来る日も白い修道服! これじゃお嫁に行けないじゃないですかぁぁぁ!」


「う、うん。わかった、わかったから泣くな」


 ヴェルムは苦笑しながら、暴れる聖女の背中をさすった。

 普段は清楚で物静かな彼女の、あまりの豹変ぶり。

 だが、誰も彼女を笑わなかった。

 ここにいる魔物たちも、かつては「魔王軍」というブラック企業で使い潰されかけた同志だからだ。


「わかるぜぇ、アリアちゃん! 上司ってのはどいつもこいつも勝手だよなぁ!」

「飲め飲め! 今日は無礼講だ!」


 オークが共感の涙を流し、ドワーフが追加の酒を持ってきた。


「うぐっ、ひぐっ……みんな……優しい……」


 アリアは泣きながら酒を煽った。


「私ぃ……ここに来てよかったぁ……。ご飯おいしいしぃ……布団ふかふかだしぃ……アーサー様はイケメンになってるしぃ……」


「えっ、俺!?」


 飛び火したアーサーが顔を赤くする。

 リリィがニヤニヤしながら、その様子を録画魔法で記録していた。


「んへへ……社長ぉ……一生ついていきますからねぇ……zzz」


 言いたいことだけ言って、アリアはヴェルムの膝に頭を乗せ、幸せそうな寝息を立て始めた。


「……やれやれ」


 ヴェルムは、膝の上の無防備な寝顔を見て、優しく微笑んだ。


「これでようやく、本当の意味でウチの社員ナカマになれたみたいだな」


 宴は深夜まで続いた。

 それは、傷ついた聖女が、人間らしさを取り戻した夜だった。


 ◇◇◇


 翌朝。


「い、生き恥を……! もうお嫁に行けない……!」


 二日酔いのガンガンする頭を抱え、ベッドの上で悶絶するアリアの姿があった。

 昨夜の記憶は断片的だが、とんでもない醜態を晒したことだけは覚えている。


(クビだわ……絶対クビよ……)


 絶望しながら食堂に行くと、そこにはいつも通りのヴェルムたちがいた。


「おはよう、ドクター。頭痛薬、いるか?」

「あ、あの、社長! 昨日は大変申し訳ありませんでした! あんな……あんなことを……!」


 土下座せんばかりの勢いで謝罪するアリアに、ヴェルムはきょとんとした顔で言った。


「ん? ああ、昨日の『法皇のモノマネ』、面白かったぞ。今度またやってくれ」

「えっ」

「ウチは『アットホームな職場』だからな。酒の席の失敗くらい、誰も気にしちゃいないさ」


 周りの魔物たちも、ニコニコと手を振ってくれる。


「あ……」


 アリアの目から、また涙がこぼれた。

 本当に、ここは温かい場所なのだ。


「……はいっ! 今日も一日、頑張ります!」


 アリアの元気な声が、食堂に響き渡った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ