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元社畜、ダンジョンマスターになる。 ~残業ゼロ・福利厚生完備の魔王軍を作ったら、人間界の勇者まで転職してきました~  作者: 綾瀬蒼
第1章「勇者転職編」

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第2話 まずは労働基準法(魔界版)を制定する

「マスター、正気ですか!? これ以上作業を止めたら、ダンジョンの維持魔力マナが枯渇して、私たち全員消滅しちゃいますよ!?」


 玉座の間で、リリィが金切り声を上げた。

 彼女の言い分はもっともだ。ダンジョンは、主である俺の魔力と、侵入した冒険者から搾取する負の感情(恐怖や絶望)をエネルギー源としている。

 魔物を働かせてダンジョンを拡張し、冒険者を呼び込まなければ、いずれガス欠になる。


「現状の『維持魔力』の収支はどうなっている?」

「えっ? ええと……」


 リリィが空中にウィンドウを展開する。

 真っ赤な折れ線グラフが右肩下がりを示していた。


「前任の魔王様の時代から赤字続きです。だからこそ、ゴブリンたちを不眠不休で働かせて、第一層に『即死トラップ地帯』を作ろうとしていたんです! あれさえ完成すれば、高レベル冒険者を一網打尽にして黒字化できるはずで……」


「典型的な『一発逆転』狙いの自転車操業だな」


 俺はため息をついた。

 デスマーチに陥るプロジェクトの典型例だ。現場を疲弊させ、品質を落とし、完成もしない巨大プロジェクトにリソースを注ぎ込む。


「リリィ。まずは『コスト削減』だ。無駄な魔力消費をカットする」

「無駄なんてありません! どのトラップも必殺級の……」

「いいから、案内しろ。現場ゲンバを見るぞ」


 


 俺たちは第一層の作業現場へと転移した。

 そこは湿っぽく、カビ臭い洞窟だった。


 俺の「業務停止命令」により、ゴブリンたちは作業を止めてはいたが、家に帰ろうとはしていなかった。

 通路の隅で固まり、震えながらこちらを見ている。


「……殺されるんだ」

「サボったから、処刑されるんだ……」


 小さなつぶやきが聞こえる。

 俺の胸が痛んだ。前の職場の部下たちも、俺が上司に呼ばれるたびに、あんな目をしていた気がする。


 俺はゴブリンたちの前へ進み出た。

 一番年長らしき、腰の曲がったゴブリンがおずおずと頭を下げる。


「ま、魔王様……申し訳ごぜぇません。すぐに作業を再開しやす……だ、だから、若いもんだけは許してやってくだせぇ」

「いや、働くなと言っただろう」

「へ?」

「お前たち、その足はどうした?」


 俺は彼らの足元を指差した。

 ゴブリンたちの足はドロドロにただれ、紫色に変色している。


「こ、これは……作業場の『毒の沼地』を通らねぇと、資材置き場に行けないもんで……」

「なんだと?」


 俺はリリィを振り返った。

 リリィは気まずそうに目を逸らす。


「あー、その……防衛用の『毒沼』なんですが、設計ミスで……従業員通路にはみ出しちゃってまして。でも、直す魔力がもったいないので、そのまま運用を……」


「これだ」


 俺は指を鳴らした。


「リリィ、今すぐ『毒の沼地』を撤去しろ」

「はあ!? あれは維持費が高い、Sランクの猛毒沼ですよ!? 撤去するにも魔力がかかります!」

「維持費が高い上に、従業員の健康を害して稼働率を下げているなら、それはただの『負債』だ! 今すぐ埋め立てろ!」


 俺はダンジョンマスター権限を行使し、メニュー画面を操作した。

 【ダンジョン改装】スキル発動。

 毒の沼地を選択し、消去デリート


 ズズズズ……と地面が鳴動し、瞬く間に毒沼が干上がり、平らな地面へと変わった。


「あぁ……もったいない……」

「ついでに、あの天井から落ちてくる『巨大鉄球』。あれも撤去」

「なっ!? あれはロマンですよ!?」

「メンテナンスにオイルを使いすぎるし、誤作動でゴブリンが何匹か潰れてるだろうが。労災の元だ。スクラップにして金属素材として売却しろ」


 俺は次々と「無駄な設備」を指差しては撤去・売却していった。

 維持魔力を食うだけの高コストな罠。

 誰も通らない場所にある自動照明。

 魔王の威厳を示すためだけの、無意味に豪華な黄金の像。


 すべてを「素材」と「魔力」に還元していく。


「あ、あ、あぁ……ダンジョンが、スカスカに……」


 リリィが半泣きになっている横で、俺はウィンドウを確認した。

 無駄な設備を維持するための「固定費」が激減したことで、赤字だった魔力収支が一気にプラスに転じたのだ。


「よし。浮いた魔力よさんで、新しい設備を導入する」


 俺はゴブリンたちに向き直った。

 彼らは、毒沼が消えた地面を呆然と見つめている。


「長老。それからみんな、聞け」


 俺は努めて優しい声を出した。


「毒沼は消した。これからは安全靴セーフティブーツも支給する。だが、今日はもう働かなくていい」

「は、はい……?」

「浮いた魔力で、居住区に『大浴場』と『食堂』を作った。まずはそこで風呂に入り、傷を癒やし、腹いっぱい飯を食え。……仕事の話は、明日だ」


 一瞬の静寂。

 やがて、誰かのお腹が「ぐぅ」と鳴った。


「め、飯……?」

「毒が……ない?」

「……魔王様、万歳……!!」


 ワァァァァァッ!!

 ゴブリンたちが歓声を上げ、俺の足元にひれ伏した。

 その目には、先程までの絶望の色はなく、強烈なまでの「忠誠心」の光が宿っていた。


 《システムメッセージ:配下の忠誠度がMAXになりました》

 《生産効率ボーナス(+200%)が発生します》


「ほら見ろ、リリィ」

「……ぐぬぬ」


 俺はリリィにドヤ顔を決めた。


「従業員の心身の健康こそが、最大の投資なんだよ」


 こうして、魔界初の「労働環境改革」が成し遂げられた。

 だが俺たちはまだ知らない。

 この改革によって、人間界の勇者たちが困惑することになる未来を。

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