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元社畜、ダンジョンマスターになる。 ~残業ゼロ・福利厚生完備の魔王軍を作ったら、人間界の勇者まで転職してきました~  作者: 綾瀬蒼
第2章「国家再建コンサルティング編」

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第17話 同盟成立パーティー! しかし『聖女』は残業続きで目が死んでいる

 聖王国とガレリア帝国の「サウナ同盟」成立から数日後。

 王都の大広場では、歴史的な合同祝賀パーティーが開かれていた。


乾杯プロージット!!」


 ジョッキがぶつかり合う音が響く。

 かつては剣を交えた帝国兵と王国兵が、肩を組んで笑い合っていた。

 テーブルには、王国の特産である「おでん」や「シチュー」と、帝国から持ち込まれた「極厚ステーキ」や「ソーセージ」が所狭しと並んでいる。


「おい、この王国の『からし』ってやつ、ソーセージに合うな!」

「だろ? そっちの黒ビールも最高だぜ!」


 物流が通じれば、食文化が混ざり合い、笑顔が生まれる。

 広場の特設ステージでは、皇帝ヴォルダールが上機嫌でマイク(魔道具)を握っていた。


「諸君! 我が帝国は、聖王国との共同プロジェクト『大陸横断鉄道』の建設を発表する! これにより、帝都と王都はわずか三時間で結ばれることになる!」


 うおおおおおっ! と歓声が上がる。


「さらに! 全車両に『サウナ車両』を連結することも約束しよう!」


 ……ザワッ。

 そこだけは微妙な反応だったが、ヴォルダールは気にしていない。彼はすっかり「サウナの伝道師」と化していた。


 その様子をバルコニーから眺めていたヴェルムは、グラスを揺らした。


「順調だな。これで東(王国)と西(帝国)は安定した」

「ええ。ですがマスター、南が不穏ですよ」


 隣に立つリリィが、タブレット端末(石版型)を操作しながら眉をひそめた。


「南の大国、『神聖法皇国セレスティア』。……魔王と皇帝が手を組んだことを『悪魔の契約』だと断罪し、公式に非難声明を出しました」


「宗教国家か」


 ヴェルムは溜息をついた。

 信仰そのものは否定しない。だが、組織化された宗教団体というのは、得てして「精神論」や「清貧(低賃金)」を美徳とし、労働環境がブラックになりがちだ。


「厄介な連中だ。理屈が通じないからな」

「さらに悪い知らせです。彼ら、ついに『聖女』を派遣したそうです」


「聖女?」


「はい。勇者アーサー様の幼馴染であり、歴代最強の治癒魔法使い……聖女アリア。目的は『魔王の浄化』と『勇者の奪還』です」


 ◇◇◇


 その頃。南の街道を、一台の馬車が進んでいた。

 装飾のない、質素で堅苦しい馬車だ。


 その中には、純白の修道服に身を包んだ少女――聖女アリアが座っていた。

 銀色の長い髪に、慈愛に満ちた碧眼。

 ……のはずだが、その瞳には生気がない。ハイライトが消えている。


「……ゴホッ、ゴホッ」


 アリアは咳き込みながら、震える手で聖書を握りしめた。


「神よ……私に試練をお与えください……」


 彼女の体はガリガリに痩せ細っていた。

 法皇国では『清貧こそ正義』とされ、聖女は一日一食、それもパンと水のみで過ごすことが義務付けられているからだ。

 さらに、睡眠時間は一日三時間。残りの時間は全て「祈り」と「治癒活動」に捧げさせられている。


 無償で。

 365日休みなしで。


「アーサー様……待っていてください……」


 アリアは虚ろな目で呟いた。


「きっと、魔王に洗脳され、酷い拷問を受けているのでしょう……。私が……私が必ず助け出し、浄化してみせます……」


 彼女の脳裏には、かつてのアーサーの姿があった。

 正義感が強く、少し頼りないが、優しい幼馴染。

 彼が「魔王軍」などという不浄な場所にいるなんて、耐えられない。きっと鎖に繋がれ、強制労働させられているに違いない。


「聖女様、まもなく国境です」


 御者の声がかかる。

 アリアはふらつく足で馬車を降りた。


「……行きます。不浄なる魔王よ、神の鉄槌を受けるがいいです……」


 彼女の周りに、神々しい光(魔力)が集まる。

 だが、その光はどこか悲痛で、今にも消えそうなほど儚かった。


 ◇◇◇


 一方、ダンジョンの指令室。


「マスター! 高エネルギー反応接近! 聖属性です!」


 リリィのアラートが鳴り響く。

 モニターには、街道をふらふらと歩く少女の姿が映し出された。

 

「……あれが聖女か?」


 ヴェルムは目を疑った。

 聖なるオーラを纏ってはいるが、その足取りはゾンビのように重く、顔色は青白い。

 ステータス解析(労務管理スキル)を発動する。


 【名前:アリア】

 【職業:聖女】

 【状態:極度の栄養失調、睡眠不足、貧血、過労、自己犠牲(呪い)】


「……うわぁ」


 ヴェルムは顔をしかめた。


「ブラック企業どころじゃない。これは『カルト(洗脳)』のレベルだ」


 アーサーの時も酷かったが、彼女の状態はもっと深刻だ。

 「自分のために生きる」という概念そのものを奪われている。


「リリィ。迎撃準備だ」

「了解です! 迎撃システム、起動!」


「違う。……『緊急救命(ER)体制』だ。担架と点滴、あと消化に良いお粥を用意しろ。倒れるぞ、あの子」


 ヴェルムは白衣(ヒーラー用ローブ)を羽織った。


「宗教ブラックに搾取された少女を救うのも、魔王(経営者)の務めだからな」


 こうして、聖女vs魔王の戦いは、開幕早々「介護現場」の様相を呈することになる。

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