第17話 同盟成立パーティー! しかし『聖女』は残業続きで目が死んでいる
聖王国とガレリア帝国の「サウナ同盟」成立から数日後。
王都の大広場では、歴史的な合同祝賀パーティーが開かれていた。
「乾杯!!」
ジョッキがぶつかり合う音が響く。
かつては剣を交えた帝国兵と王国兵が、肩を組んで笑い合っていた。
テーブルには、王国の特産である「おでん」や「シチュー」と、帝国から持ち込まれた「極厚ステーキ」や「ソーセージ」が所狭しと並んでいる。
「おい、この王国の『からし』ってやつ、ソーセージに合うな!」
「だろ? そっちの黒ビールも最高だぜ!」
物流が通じれば、食文化が混ざり合い、笑顔が生まれる。
広場の特設ステージでは、皇帝ヴォルダールが上機嫌でマイク(魔道具)を握っていた。
「諸君! 我が帝国は、聖王国との共同プロジェクト『大陸横断鉄道』の建設を発表する! これにより、帝都と王都はわずか三時間で結ばれることになる!」
うおおおおおっ! と歓声が上がる。
「さらに! 全車両に『サウナ車両』を連結することも約束しよう!」
……ザワッ。
そこだけは微妙な反応だったが、ヴォルダールは気にしていない。彼はすっかり「サウナの伝道師」と化していた。
その様子をバルコニーから眺めていたヴェルムは、グラスを揺らした。
「順調だな。これで東(王国)と西(帝国)は安定した」
「ええ。ですがマスター、南が不穏ですよ」
隣に立つリリィが、タブレット端末(石版型)を操作しながら眉をひそめた。
「南の大国、『神聖法皇国セレスティア』。……魔王と皇帝が手を組んだことを『悪魔の契約』だと断罪し、公式に非難声明を出しました」
「宗教国家か」
ヴェルムは溜息をついた。
信仰そのものは否定しない。だが、組織化された宗教団体というのは、得てして「精神論」や「清貧(低賃金)」を美徳とし、労働環境がブラックになりがちだ。
「厄介な連中だ。理屈が通じないからな」
「さらに悪い知らせです。彼ら、ついに『聖女』を派遣したそうです」
「聖女?」
「はい。勇者アーサー様の幼馴染であり、歴代最強の治癒魔法使い……聖女アリア。目的は『魔王の浄化』と『勇者の奪還』です」
◇◇◇
その頃。南の街道を、一台の馬車が進んでいた。
装飾のない、質素で堅苦しい馬車だ。
その中には、純白の修道服に身を包んだ少女――聖女アリアが座っていた。
銀色の長い髪に、慈愛に満ちた碧眼。
……のはずだが、その瞳には生気がない。ハイライトが消えている。
「……ゴホッ、ゴホッ」
アリアは咳き込みながら、震える手で聖書を握りしめた。
「神よ……私に試練をお与えください……」
彼女の体はガリガリに痩せ細っていた。
法皇国では『清貧こそ正義』とされ、聖女は一日一食、それもパンと水のみで過ごすことが義務付けられているからだ。
さらに、睡眠時間は一日三時間。残りの時間は全て「祈り」と「治癒活動」に捧げさせられている。
無償で。
365日休みなしで。
「アーサー様……待っていてください……」
アリアは虚ろな目で呟いた。
「きっと、魔王に洗脳され、酷い拷問を受けているのでしょう……。私が……私が必ず助け出し、浄化してみせます……」
彼女の脳裏には、かつてのアーサーの姿があった。
正義感が強く、少し頼りないが、優しい幼馴染。
彼が「魔王軍」などという不浄な場所にいるなんて、耐えられない。きっと鎖に繋がれ、強制労働させられているに違いない。
「聖女様、まもなく国境です」
御者の声がかかる。
アリアはふらつく足で馬車を降りた。
「……行きます。不浄なる魔王よ、神の鉄槌を受けるがいいです……」
彼女の周りに、神々しい光(魔力)が集まる。
だが、その光はどこか悲痛で、今にも消えそうなほど儚かった。
◇◇◇
一方、ダンジョンの指令室。
「マスター! 高エネルギー反応接近! 聖属性です!」
リリィのアラートが鳴り響く。
モニターには、街道をふらふらと歩く少女の姿が映し出された。
「……あれが聖女か?」
ヴェルムは目を疑った。
聖なるオーラを纏ってはいるが、その足取りはゾンビのように重く、顔色は青白い。
ステータス解析(労務管理スキル)を発動する。
【名前:アリア】
【職業:聖女】
【状態:極度の栄養失調、睡眠不足、貧血、過労、自己犠牲(呪い)】
「……うわぁ」
ヴェルムは顔をしかめた。
「ブラック企業どころじゃない。これは『カルト(洗脳)』のレベルだ」
アーサーの時も酷かったが、彼女の状態はもっと深刻だ。
「自分のために生きる」という概念そのものを奪われている。
「リリィ。迎撃準備だ」
「了解です! 迎撃システム、起動!」
「違う。……『緊急救命(ER)体制』だ。担架と点滴、あと消化に良いお粥を用意しろ。倒れるぞ、あの子」
ヴェルムは白衣(ヒーラー用ローブ)を羽織った。
「宗教ブラックに搾取された少女を救うのも、魔王(経営者)の務めだからな」
こうして、聖女vs魔王の戦いは、開幕早々「介護現場」の様相を呈することになる。




